より公平な未来に向けた、「データ・デバイド」の解消とは
気候変動や世界的な不平等という差し迫った問題に利用されるべきデータが、商業的価値を生み出すために利用されています。その原因が、「データ・デバイド」です。 Image: Myriam Jessier for Unsplash
- 「データ・デバイド」により、気候変動や世界的な不平等という差し迫った問題に利用されるべきデータが、主に商業的価値を生み出すために利用されています。
- 私たちは、非営利団体や各国政府、医療現場がデータをより効果的に利用できるようにしなければなりません。
- そのためには、データ・デバイドの根本的な原因を理解し、問題解消のための長期的な取り組みを行うことが必要です。
世界がパンデミック(世界的大流行)から立ち直り、社会を再構築しようとする今、リーダーにとっては、社会的優先事項から基本的なビジネスモデルまで、あらゆるものを作り替えるためのまたとないチャンスです。データは、意思決定の指針となり、成功を加速させ、進捗を測定するために欠かせないものです。しかし、かつて「デジタル・デバイド(情報格差)」がインターネットの民主化を制限してきたように、今、平等の実現を阻む別の脅威が迫っています。それが「データ・デバイド」です。
今日の、ユビキタスで相互に接続されたデジタルテクノロジーは、意思決定の実現と強化のためにデータを活用しています。それは企業の競争力を高め、成長を加速させ、創造的破壊を促進していますが、その恩恵を受けられるのはごく一部に限られているのです。商業的価値創出のためのデータ利用が急速に拡大している一方で、気候変動や世界的な不平等などの社会的・環境的課題の解決のためのデータ利用は比較的少なく、その差はますます広がりつつあります。
迫りくる「データ・デバイド」
現在、データ活用においては、企業が公的機関や非営利団体での活用をはるかに凌駕しています。IBMの研究によると、非営利団体の67%が、データアナリティクスを活用するための専門知識を持ち合わせていません。また、ヘルスケア、政府、学術、非営利などの分野では、組織がデータを用いて問題解決する能力が不足していることは珍しくないのです。
そのような状況を物語る一例が、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のチャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(Chan Zuckerberg Initiative)による新型コロナウイルス検査プロジェクトです。このプロジェクトでは、新型コロナウイルスの検査用のラボを8日間で設置し、24時間で検査結果を出すことができるようにしました。彼らはカリフォルニア州内の保健所に無料でサービスを提供しましたが、保健所が検査結果の送受信にFAXを使用していたため、データ送信に支障が生じたのです。
データ・デバイドを解消するには、まず、その原因を理解する必要があります。
- アクセス:データ自体を取得できない、アクセスできない。
- 能力:データを分析・利用するための資金、技術、知識が不足している。
- 投資の選択:分野を問わず、リーダーたちがデータ分析・管理のリソースへの投資を後回しにしている。
- 実用的な解決策:データの持つ社会的利益を実現する力を実証できる、拡張可能で再現性のある実用的な解決策が不足している。
これらの要因に対処することで、非営利団体、パブリックセクター、そして企業は、グローバルな課題に対応できるクラウドファーストでデータドリブンな未来を手にすることができます。歴史を振り返ると、公平というものは偶然に実現されるものではありません。まだ進化の初期段階にあるデータ・デバイドには、早急な対応が必要です。そうでなければ、この溝を埋めるのは時間とともに難しくなっていくでしょう。
データ・デバイドへの取り組み
ここでは、データ・デバイドへの取り組みをスタートさせるための方法をいくつかご紹介します。
1. 問題の理解
社会や環境にポジティブな影響をもたらすため、データの力を活用するには、あらゆる分野の専門家を巻き込んで、取り組みを進めていく必要があります。私たちは、データ・デバイドの根本的な原因を理解し、その解決に向けた実行可能なアプローチを明らかにしなければなりません。これらの課題を研究することで、何がうまくいっているのか、どうすればより大きな成果を上げることができるのかを、データを使って知ることができるのです。
2. コラボレーション、パートナー、そして投資
データ・デバイドの解決には、長期的なコミットメントと、企業、市民社会、政府のグローバルな協力が必要です。私たちがしなければならないのは、この問題に取り組むことを目的とした財団、データドリブンな非営利団体、有望なスタートアップ企業、パブリックセクターとの連携と、それらに対する投資です。私たちSplunk社が今年投資したスタートアップ企業の一社であるretrain.ai社は、データとAIを駆使したプラットフォームで、テクノロジーや自動化、また世界的な危機によって職を失った失業者たちに、今後需要の見込める仕事に就くためのトレーニングを提供しています。
3. データに基づいた解決策の構築
自動運転車やデジタルアシスタントなどのイノベーションの火付け役となったデータ、機械学習、AI。それらが気候変動、ヘルスケア、人権、貧困などの世界的な不公平の解消に活用されることを想像してみてください。
例えば、タンザニアでは10年に1度実施する家計調査に基づき、国の財政支出の内訳を決定しますが、これに衛星画像データを加えることで、貧困対策の適時性と正確性を高めました。これにより、政府は調査対象を従来の20地区から169地区へと8倍に拡大し、貧困についてのより詳細な情報を得られるようになったのです。
また、企業は、ソフトウェアライセンス、研修およびサポートを提供することで、解決策を強力に後押しすることが可能です。
データ・デバイドの解消
データは知識を引き出し、知識は力を引き出します。多額の出資した者だけが、この力を独占することがあってはなりません。この力は、分野、組織、コミュニティを超えて育み、共有していかなければなりません。
だからこそ今必要なのは、非営利団体、パブリックセクター、企業に対して、データツールと人材を提供すること。それらは、インパクトのある活動を拡大していくために必要不可欠です。人類にとってよりポジティブな影響を拡げるために、データ活用への投資を組織に呼び掛けていきましょう。世界トップレベルの技術者の力を借り、データリテラシーの高い問題解決者を育成することが必要です。すべての人がより安全で、より明るく、より豊かな未来を享受できるよう、今こそ私たちは、データの価値を最大限に高めていかなければならないのです。
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