スマートテクノロジーが医療を変える
バーチャルリアリティ技術は、医師の遠隔診療を可能にします。 Image: Rawpixel.com/roungroat.
- 世界のヘルスケアは、基本的な医療サービスへのアクセスの確保や、スタッフの不足といった課題を抱えています。
- 5G移動通信技術やAI、ウェアラブルデバイスの活用など、医療のデジタルトランスフォーメーションは、これらの課題を解決するのに役立ちます。
- テクノロジー企業は、ヘルスケアのパフォーマンス向上と成果を高めるためのソリューションを開発することで、より平等な社会の実現に貢献することができます。
デジタルトランスフォーメーションは、ヘルスケアを含むあらゆる産業の様相を一変させています。基本的な医療サービスを受けられない地域が世界各地に数多くあることや、2030年には人材不足が世界全体で1,800万人に達すると予想されるといったヘルスケアを取り巻く多くの課題は、5Gやクラウド、AIなどの技術によって解決できると期待されています。
しかし、これらの技術を効果的に活用するためには、まず、患者、医療従事者、経営者などの多面的な視点から、ヘルスケア分野が抱える課題を十分に理解する必要があります。
パンデミック(世界的大流行)によって世界中でヘルスケアの資源が限界に達し始めた頃から、病院、医療従事者の訪問、業界のイベントへの参加など、この問題に多くの時間を費やしてきました。
遠くても手が届かないわけではない
パンデミック下では対面診療がほとんどできないため、医療従事者は、緊急性のない患者とどのように対話すればいいのか、新たな方法を模索しなければなりませんでした。こうして医師は、遠隔地の患者であっても、しばしば遠隔地にいる他の専門家と協力しながら、診察や診断を行ったり、高解像度のX線・CTスキャン画像を確認したりすることもできるようになりました。
一方、患者の側も、遠隔ヘルスケアサービスや遠隔医療を受け入れるようになっています。アーネストヤング社の報告によると、慢性疾患を持つ患者の54%が遠隔医療を受け入れているそうです。
これは歓迎すべき傾向です。ある調査によると、一般的な慢性疾患を持つ患者の通院の30%は実際には不要なものであり、その診療に多くの資源が費やされ、業界のコストは年間83億ドル以上にのぼっています。そして患者にとってもオンライン診療は、より有効で安全な受診、無駄な時間の削減、そして出費の低減につながるのです。
場所を問わずに医師の診察を受けることができるようになったことで、医療サービスが不十分な地域においても多くの人にとって「医療の民主化」が実現したと言ってもいいでしょう。
緊急対応のためのソリューション
遠隔医療の中核をなすコネクティビティは、効果的な医療介入が生死を分ける「ゴールデンアワー」における緊急対応の有効性を高めることができます。
これまでは、救急車、救急部門、専門家の間で、リアルタイムに対応できるような形でデータを共有することは不可能でした。
しかし、5Gを利用してコマンドセンターに接続された遠隔救急チャンネルでは、バーチャルリアリティ(VR)ゴーグルを装着した医師が実際に救急車の中にいるのと同じ光景を見ることができます。さらに、患者の心電図、超音波画像、血圧、心拍数、酸素飽和度、体温などのバイタルサインのデータがコマンドセンターの大型スクリーンでリアルタイムに医師と共有されます。
患者の病歴を迅速に把握し、医師が救急車の救急隊員に指示を与え、病院は患者の詳細や状態を把握した上で到着後すぐに入院させることができます。これは未来の話ではなく、中国ではすでに多くの病院がこうしたソリューションを活用しています。
AIによるスピードと精度の向上
遠隔技術や5Gと並んで、AIがハイテク・ヘルスケアにおける重要なテクノロジーとして出現しつつあります。AIは、新型コロナワクチンの迅速な普及、候補となる医薬品の大規模な仮想スクリーニング、シミュレーション時間の1ヶ月から1日以内への短縮などにおいて、重要な役割を果たしてきました。
同様に、心臓病診断のために心エコー図を解析できる超音波の専門家など、スペシャリストの不足もAIで補うこともできます。超音波の専門家の場合、1人が1日に診断できる件数は40件程度であり、患者は診断結果が出るまで1週間近く待たされることになります。そこでファーウェイは、10種類の心臓疾患について少量のサンプルデータを用いてアルゴリズムを学習し、診断プロセスを5~10倍に高速化できる「B超音波ソリューション」を開発しました。
ウェアラブルデバイスによる予防的ヘルスケア
ファーウェイはB超音波に加えて、2018年から中国の80以上の病院と協力して、世界最大の心臓健康研究プロジェクトを進めています。研究対象者の同意を得て、約310万人から匿名化されたデータを収集しました。私たちのスマートウェアラブルデバイスは、ユーザーからの信号をリアルタイムで収集し、AIによって異常な心拍を識別し、その結果をファーウェイ・リサーチにアップロードすることができます。そしてクラウドAIは、リスクの高い人の情報を、連携している病院の遠隔医療管理プラットフォームに転送し、ヘルスケア従事者が適切な対策をとれるようにします。
医師にとっては、ウェアラブルデバイスやアプリによってデータ取得・分析の課題が克服され、AIによる継続的なモニタリングと膨大なデータの分析が可能になったのです。過去2年半の間に、1万人以上の人が心房細動(AF)(心拍が異常に早い状態)の疑いで検査を受けました。そのうち4,400人以上の人が心房細動と診断され、精度は94%に達しました。
現在、ファーウェイのスマートウェアラブルデバイスは、血中酸素のモニタリングや心電図の生成も可能です。年内には医療用の腕時計型血圧計の発表を予定しています。
スマートな病院経営
医師に力を与え、患者の体験を向上させるテクノロジーの効果を最大限に高めるには、病院の経営もスマートでなければなりません。
オープンで接続されたデジタルプラットフォームは、患者の流れや医師の作業量から、ベッドの稼働率、医療機器の使用状況に至るまで、病院内のオペレーションや資源のリアルタイムで視覚的な管理を実現します。これにより、病院管理者による資源の使用計画の立案・改善、完全なデータセットに基づいた意思決定が可能になり、病院におけるヘルスケア全体の運用と成果創出を下支えします。
この1年半の間に、私は世界の多くの人々と同様に、医療従事者の献身と勇気を目の当たりにしてきました。しかし、医療従事者の慢性的な不足が続いており、世界人口の半分が基本的なヘルスケアサービスを受けられない状況にある中、誰もが自分の可能性を発揮することのできる平等な社会に向けて前進していくには、解決策を講じる必要があります。
テクノロジー企業は、ヘルスケアに真の変革をもたらすことができます。そしてそれは、全力を注ぐ価値があることだと私は信じています。
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