キノコが代替タンパク質市場で優位に立つ理由
キノコから作られたマイコプロテインは多種多様な代替肉製品に使用可能 Image: Unsplash/Waldemar Brandt
- 代替タンパク質の市場は、世界的に急速に成長しています。
- 発酵させたキノコで作られたマイコプロテインから、肉を使わない代替品を製造することができます。
- 肉不使用のタンパク質は、家畜食肉より環境負荷が少なく、より持続可能な食料システムの構築に貢献できると期待が高まっています。
菌類に焦点を当てた食品業界のスタートアップ企業が、ごく短期間で誕生し始めています。
植物由来のバーガーや、大豆やえんどう豆などのタンパク質から作られたソーセージ、「チキン」ナゲット代替品と共に、代替タンパク質の市場が拡大する中、新しい生産者たちは革新的な供給方法を模索しています。
特定種のキノコにある根のような胞子を発酵させると(ビールやパンを発酵させる昔ながらの伝統的な製法で)、タンパク質を豊富に含むマイコプロテインという無味の食品ができます。
このマイコプロテインを加工して、多種多様な代替肉製品をつくることが可能です。マイコプロテインは肉と構造が似ており、肉の食感を出すためにさらなる加工プロセスを必要とする植物由来のタンパク質に比べ、コストが安く食感にも優れています。
発酵菌類のタンパク質は、1980年代に英国のクォーン社がマイコプロテインの製造方法について特許を取得して以来、スーパーマーケットに並ぶようになりました。しかし、この特許の期限が切れた現在、食品業界に新しい風を吹き込むイノベーターたちが、小さなキノコを使用して、大きなプランを構想しているのです。
新たなキノコ需要の高まり
スウェーデンの企業マイコレナ社は、取引先の食品会社がヴィーガンフードを製造する際に、マイコプロテインを原料に使用できるよう計画しています。消費者に直接販売するのではなく、代替タンパク質市場での経験が浅い食品会社に、原料、技術、専門知識を提供し、マイコプロテインをベースにした自社ブランドの代替肉製品の生産をサポートすることを目指しているのです。
同社は、あるスウェーデンのブランドのさまざまなキノコタンパク質の製品(ミートボール、ソーセージ、チキンナゲットなど)の製造を支援支援しながら、肉を使わないベーコンなどの新製品の開発にも積極的に取り組んでいます。
イノベーションは、適切なキノコを見つけることから始まります。シカゴ拠点のスタートアップ企業ネイチャーズ・フィンド社は、イエローストーン国立公園から採取した菌株を用いて、炭素排出量が少ないマイコプロテインの生産方法を発見しました。
ネイチャーズ・フィンド社が生産する菌タンパク質「Fy」は、多くの競合他社のように大型バイオリアクターを使用するのではなく、高温の部屋に浅いトレイを設置して栽培する方法を用いており、都市部の工場で生産するのに適しています。肉不使用の朝食用パテや乳製品不使用のクリームチーズなどの製品を製造するこうした独自の手法が、投資者たちの関心を集めています。
ある起業家にとって、マイコプロテインの可能性は、単に肉の代替品を生産するということ以上の意味を持ち始めています。コロラドに拠点を置くマイコ・テクノロジー社は、菌をうま味調味料に変貌させました。人間の舌の味覚受容体をブロックすることで、植物由来タンパク質の苦みを隠したのです。この技術はすでに、炭酸飲料に含まれる人工甘味料の苦みの問題に対処するために使われています。
「私たちは、食品から砂糖、塩、脂質を取り除くことに力を入れています」と、マイコ・テクノロジー社のCEO、アラン・ハーン氏はWired誌のインタビューで語っています。
現在、年間2マンメトリックトンのトロピカルフルーツを原料としたマイコプロテインを生産する工場の建設が計画されています。
急成長する植物由来の代替食品市場
ブルームバーグ インテリジェンスが発表したレポート「爆発的成長が見込まれる植物由来の食品」によると、食べ物の流行が移り変わる中、代替タンパク質の需要は今後も継続すると見込まれています。
植物由来の代替肉の市場規模は、現在の約42億ドルから2030年には740億ドルを超えると予測され、ビヨンド・ミート社やインポッシブル・フーズ社、イートジャスト社やオートリ―社など、業界最大手が市場の勢いを加速させています。
需要の高まりを受け、世界的な大手ファストフードのバーガーチェーン数社が、植物由来のメニューの取扱いを始めました。
菌類のカーボンフットプリント
メタンガスが排出されないことから、家畜食肉よりも大豆やえんどう豆のタンパク質、キノコなどの肉を使わないタンパク質の方が、環境への影響ははるかに少なくなります。家畜食肉は生物多様性喪失を引き起こす大きな原因となっているのです。
今年7月、カーボン・トラスト社が、クォーン社のマイコプロテイン製品のカーボンフットプリントと、それ以外の形態の肉および植物由来タンパク質の代替肉のカーボンフットプリントを比較した結果、カーボンフットプリントが最も高いのは牛ひき肉、低いのが大豆であることが判明。クォーン社の製品は、カーボンフットプリントが比較的低いことが分かりました。
地球の人口は2050年までに98億人に達すると言われており、このような食品は間違いなく将来の食料不足の解消に一役買うでしょう。
持続可能な未来のために、食料の生産と消費の方法を再考することが急がれています。世界が直面している大きな問題にイノベーションをもたらすことを目的とした、世界経済フォーラムのプラットフォーム「UpLink」の一環である、フードシステムズ・イニシアチブは、食料システムにポジティブな影響をもたらす革新的技術ソリューションをサポートしています。
キノコのマイコプロテインは高タンパクでビタミンを豊富に含んだ持続可能な未来の食品として、重要な役割を果たすでしょう。キノコの他に、毛虫の養殖やグリーンアントなど、代替タンパク質を開発する革新的プロジェクトが進められています。
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