日本のコロナ対応、ワクチンと治療薬の「2本立て」に転換すべき
菅義偉首相は7月末までに高齢者向けのワクチン接種を終了させ、9月末までに希望する全国民向けの量を確保し、「ワクチン対応」を新型コロナウイルスの感染拡大抑止の切り札にしようと決断 Image: 2021年 ロイター/ Yoshikazu Tsuno
菅義偉首相は7月末までに高齢者向けのワクチン接種を終了させ、9月末までに希望する全国民向けの量を確保し、「ワクチン対応」を新型コロナウイルスの感染拡大抑止の切り札にしようと決断したようだ。ただ、足元では東京都、大阪府など大都市圏で感染者の急増が止まらず、重症者の対応ができない「医療崩壊」が迫っているとの指摘もある。
ワクチン接種に時間がかかるなら、重症化を防ぐことが可能な治療薬を大胆に活用すべきではないだろうか。政府は特例承認などの手法も駆使し、治療薬の効果的な使用で重症化を防ぐ抜本的な対応策の見直しに着手、ワクチン接種一本やりではなく、「ワクチンと治療薬」の2本立て政策にかじを切るべきだ。
菅首相は23日の会見で「希望する高齢者に7月末を念頭に各自治体が2回の接種を終えることができるよう政府を挙げて取り組む。9月までに全ての対象者に確実に供給できるめどがたった」と述べた。関係筋によると、菅氏はワクチン接種をやり切ることで「国民の生命と安全を守る」ことを政策課題の第一に掲げ、25日の衆参補選・参院再選挙で自民党が敗北したことから立ち直る起点にし、反転攻勢に出ようとしている。
ただ、諸外国との比較では、日本のワクチン接種の遅延は歴然としている。「Our World in Data」によると、4月30日現在の100人当たりの接種回数は、トップのイスラエルが121.09回、次いで英国が70.91回、米国が70.16回と多く、ドイツが33.19回、中国が16.95回。これに対し、日本は2.55回にとどまり、韓国の5.81回も下回っている。
この状況下でコロナ感染者数の増加に歯止めがかからず、4月27日現在で大阪府の病床使用率は92%、重症者用の病床使用率は88%と余裕がなくなっている。このまま1,000人台の感染者数増加が継続すれば「パンク」しかねない窮状だ。東京都の病床使用率は32%、重症者用病床の使用率は36%と大阪府よりも余裕があるが、感染力の強い変異株の増大により、大阪府の状況に近づくとの予測が専門家から出ている。
このようなひっ迫した医療提供提供体制と急増する感染者数という問題を解決するには、どうしたらよいのか。病床や医療スタッフの拡充を急ぐのはもちろんだが、さらに強調したいのは、軽症や中等症の感染者を重症させない手段をみつけることだ。そのためには重症化を防ぐ治療薬について、国が指針を明確にし、患者を治療する病院がちゅうちょなく、その治療薬を使用することができるシステムを作ることだ。この治療薬問題が喫緊の課題になっていると指摘したい。
日本で承認されている治療薬の1つ、米ギリアドが製造するレムデシベルは昨年5月、厚労省が重症患者を対象に特例承認し、今年1月からは中等症の患者にも使用できるようになった。
ただ、供給量に制約があるとの理由で、日本では厚労省が配分を決める仕組みにで、使用の際には使用の際には申請書を出すことになっている。一部の関係者の間では、機動的な使用に向けたシステムの改善を望む声もあるようだ。
治療薬を効果的に使用することで重症化を防ぐアプローチについて、国や自治体は積極的に治療現場へ情報を提供し、重症患者化を防ぐことに力点を置いた対応策を実行するべきだろう。
また、駆虫薬のイベルメクチンは新型コロナ用の適応追加を目指した医師主導治験を北里大が行っており、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染症治療薬として承認されているネルフィナビルは、長崎大を中心に医師主導治験が行われている。こうした治療薬を厚労省の判断で使用できるように菅首相や政権幹部が、専門家の意見を聞きつつ、政治的な判断を下す時が来たのではないか。
ワクチン接種の加速化は、当然、実行すべき政策課題だ。しかし、足元で迫る医療崩壊を防ぐため、治療薬の特例承認やその他の行政対応を活用した治療薬の効果的な使用についても、最優先の政策課題に引き上げるべきではないか。
政府は、「ワクチン接種」と「治療薬の効果的な使用」を2本柱にした新たなコロナ対応を早急に打ち出してほしい。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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