ウェルビーイングとメンタルヘルス

エビデンスに基くアプローチが、職場のメンタルヘルス向上に効果的な理由

Businesses can apply the same level of scrutiny they use to make strategic decisions to supporting mental health.

企業はビジネス戦略を立てる場合と同レベルの綿密な調査を、メンタルヘルスのサポートに活用することができる。 Image: Ellice Weaver/Wellcome.

Miranda Wolpert
Director, Mental Health, Wellcome Trust
本稿は、以下会合の一部です。ジョブ・リセット・サミット
  • 不安や抑うつの症状による生産性の低下は、世界経済に毎年1兆ドルを超える損失を与えていると言われています。
  • 企業は、従業員のメンタルヘルスをサポートする方法をこれまで以上に模索していますが、効果的な方法についてのエビデンスは未だ乏しい状態です。
  • ウェルカム社が世界経済フォーラムと共同で行った新たな研究では、メンタルヘルスの向上に効果的なエビデンスを確立する上で、企業が果たすべき重要な役割を明らかにしています。

メンタルヘルスは、企業にとってこれまで以上に重要な課題となっています。それは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前から、不安や抑うつ症状による生産性の低下が世界経済にもたらす損失は、毎年1兆ドルを超えるとされていたからです。2020年の幅広いテレワークの導入は新たな課題をもたらし、未来の働き方について大きな疑問を投げかけています。

企業向けウェルネスの世界市場規模は2022年までに660億ドルに達すると見込まれており、多くの従業員が、ヨガやマインドフルネス、柔軟な働き方など、職場のメンタルヘルス対策としてさまざまな取り組みを行っている企業が増えていることを知っているでしょう。しかし、あらゆるアプローチが普及する一方で、何が、誰に対し、なぜ効果的と言えるのかについては、未だはっきりとしていません。

職場のメンタルヘルスをサポートする上で、入念に調査された確かなエビデンスがないことは問題であり、企業は従業員を大切に思いながらも、まったくの手探り状態の中で重大かつ繊細な判断を下すことにつながりかねません。このままでは、取り組みが例えうまくいっていたとしてもその理由が分からず、最悪の場合、従業員に悪い影響を与えている可能性があるということです。

データやエビデンスは、企業にとっては身近なものであり、新たなビジネスチャンスを見出すことから、プロジェクトの影響と効率性の評価に至るまで、戦略的な意思決定やパフォーマンスの改善に利用されています。最も効果的なアプローチを見つけるためには、エビデンスに基づいたマインドセットを適用し、他の企業と協力して学びを共有し、精神的に健全な職場を支える上で科学の知見を取り入れることが急務となります。。

企業は職場のメンタルヘルスをサポートするには?

ウェルカム社は世界経済フォーラムと共同で、職場のメンタルヘルスに関する新たな研究「科学の知見を活用職場のメンタヘルス向上に何が有効か理解する」を発表しました。世界的な10の研究チームが、若い世代の労働者に焦点を当て、職場における不安や抑うつに対処するための有望なアプローチの背後にあるエビデンスを検証しました。

この研究では、既存のエビデンスに基づいて、企業学べる対策が示されました。そのいくつくかを以下に紹介します。

  • 長時間の座り作業を避ける:1日8時間の労働のうち1時間だけでも軽い運動をすることで、抑うつ症状を約10%、不安症状を約15%軽減させられると言われています。スタンディングデスクやスタンディングミーティングの導入、軽い運動のための休憩などは、長時間の座り作業を解消する有効な方法です。
  • マインドフルネスの導入:高所得国での多くの研究で効果が示されているものの、低・中所得国の職場でマインドフルネスを取り入れるには慎重な配慮が必要になる場合もあります。
  • 柔軟な働き方:仕事と家庭を両立させる上で直面する葛藤を減らすことで、メンタルヘルスを向上させることができます。重要なのは、柔軟な働き方を採用し機能させられるかどうかは、大抵の場合上司のサポートや組織文化にかかっているということです。

この調査は、人や状況によって何が効果的なのかがまだよく分かっていないことも浮き彫りにしました。例えば、若い労働者のメンタルヘルスに関するデータが不足しているという問題点を多くの研究チームが指摘しています。入手できるエビデンスは地域によっても大きく異なります。例えば、低・中所得国の職場に比べて高所得国ではマインドフルネスに関する研究が圧倒的に進んでいおり、特に、観光業や接客業においては両者の間で大きなギャップが見られます。また、職場のメンタルヘルスを測定する方法が標準化されていないため、異なる研究を比較するのも困難でした。

職場におけるメンタルヘルスの問題は複雑なため、複合的かつ慎重な解決策が求められます。どんな状況にも対応できる簡単な解決策は存在しません。何が効果的であるかを知る道のりはまだ長いでしょう。ウェルカム社は、幅広いアプローチの背後にあるエビデンスを調査するために、2つ目の調査委員会を立ち上げる予定です。この調査委員会を通じて、既存のエビデンスに対する理解が深まることを期待する共に、この調査でどのようなアプローチが優先されるべきかを把握するため、ビジネスコミュニティの協力を得ることとしています。

しかし、企業が研究者と協力して取り組みの効果を十分理解しその成果を共有しない限り、決定的なエビデンスのギャップは解消されません。企業の姿勢こそが、投資や善意が従業員やビジネスに良い影響を与えていると保証する唯一の方法なのです。

職場のメンタルヘルス対策の背後にあるエビデンスや、従業員のメンタルヘルス向上を目指す上で科学的知見の活用が職場に起こす変化については、こちらのレポートから詳しい内容をご覧ください。職場のメンタルヘルスに関するウェルカム社の取り組みについては、@wellcometrust@mirandarwolpertをフォローし、最新情報を入手することができます。

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