ワクチンの遅れと内需低迷、軽視できない日本の弱点
新型コロナウイルスのワクチン接種を先行させた国の経済パフォーマンスが大きく改善、遅れた国では経済低迷を続けると予想される。 Image: 2021年 ロイター
今後の経済動向では、新型コロナウイルスのワクチン接種を先行させた国の経済パフォーマンスが大きく改善し、遅れた国では経済低迷を続けると予想される。国や地域ごとのワクチン接種の進ちょくの差は、株価にも表れるだろう。
日本は完全に出遅れていて、先進国の中でも最低の接種率である。国際比較した「Our World in Data 」というサイトでは、英国、米国が100人当たりの接種率ではそれぞれ64.69人、64.57人と高く、それにドイツ、フランスが続く(4月23日)。中国は14.19人、インドは9.39人と低い。日本は1.86人と極めて低く、経済協力開発機構(OECD)37カ国で最低である。
日本でのワクチン接種は、2月17日から医療関係者向けに始まり、4月12日に高齢者向けに開始された。首相官邸のホームページにその進ちょくが日々示されている。4月21日時点で約235万4,000件というデータが最新である。医療関係者に限って見ると、接種済みは231万5,000人で、全対象者が480万人だから、まだ48%の進ちょく率でしかない。
このペースで16歳以上の国民1億1,000万人が全て接種するとすれば、完了は途方もなく先になる。仮に国民の6割が接種して集団免疫を獲得できるとすれば、1日当たり30万回のペース(4月21日の実績は15.3万回)でも、その達成には今後16カ月間が必要という計算になる。菅義偉首相は9月までにワクチンの必要量を全量確保すると述べているので、接種がスピードアップする公算は高いが、それでも遅過ぎる印象は免れない。
加速する米国経済回復
日本と対照的なのは米国である。4月22日時点でワクチン接種は、2億1,894万回に達した。人口の40.9%が少なくとも1回の接種を終わらせ、26.9%はすでに抗体獲得のための接種を完了させている。米国の独立記念日の7月4日までにコロナ感染からの独立を果たせそうだ。
米経済指標は、バイデン政権の大型財政出動とこうしたワクチン接種の進ちょくによる相乗効果によって、4〜6月期には大幅な改善が期待される。3月の小売売上高は、2月の大寒波からの反動も加わって前月比9.8%増となった。そこには現金給付の効果もあるだろう。ISM指数は、製造業、非製造業ともに3月は急上昇し、非製造業は過去最高である。4月以降のデータはさすがにそれ以上良くならないとの見方が多いが、水準として改善がしっかり定着してきたと言えるようになるとみている。
バイデン大統領は、就任後100日となる4月末までに経済を立て直すことに関しては成果を上げるかたちになるだろう。
ドル高が進みにくい理由
日米間でのワクチン接種の進ちょく格差は、そのまま景況感格差として反映されそうだ。そして、日米間の景況感格差は、ドル高・円安というかたちで通貨に表れてきてもおかしくはない。いったんは110円台まで進んだドル/円での円安が、一段と円安方向に向かうという見方が成り立つ。しかし、今のところそうはなっていない。なぜ、ワクチン接種で米国が優位に立つのにドル高が進まないのか。
1つの要因は、米長期金利が思ったほどには上がりにくいことだ。ダウやナスダックの株価が高値警戒感を強めていて、上昇しにくくなってきた。米長期金利も上昇ペースが速かった局面があったが、ここにきてその反動が表れてきたという見方になる。
今後の展開を予想すると、しばらくすれば経済指標がさらに強くなって米長期金利は再び上昇し、今は一服している米国のインフレ圧力が注目されるのではないか。対前年比でみた消費者物価指数は、2020年3〜5月にかけてコロナの影響で大きく押し下げられた。このため21年3〜5月の伸びはその分大きくかさ上げされるだろう。6月以降も高い伸びが続けば、インフレ圧力に対する見方が変わってくるかもしれない。
今後、米長期金利の上昇に反応して、株価が崩れてしまうと、その後に米長期金利の上昇が頭打ちになって、ドル高・円安は進まなくなる。
筆者は、そうはならず、長期金利の上昇は続くと予想する。そこで米連邦準備理事会(FRB)がインフレ圧力に対して寛容な姿勢を取り、株価も上昇基調を維持できると予想する。ドル/円レートは、いずれ円安方向に進むという見方だ。
低迷先取りした株安
日本では、ワクチン接種の遅れがこれからの経済パフォーマンスを悪化させ、たとえ円安が進むとしても、株価低迷の材料になる可能性がある。4月23日に3度目の緊急事態宣言が発令され、4〜6月期の国内総生産(GDP)見通しは下振れするだろう。
市場はその前兆に気付いたのではないか。4月20、21日の日経平均株価は、合わせて1,000円を超す下落となった。株式時価総額の中で、緊急事態宣言の打撃を受けやすい個人向けサービスはウエイトが必ずしも高くない。反対に、海外需要を取り込んで成長する製造業は、時価総額の5割以上を占めている。
ワクチン格差があっても、製造業の業績は改善するだろう。つまり、株価の内訳でみて、緊急事態宣言の打撃を受けやすい分野は限定されるとみることもできる。ただ、経済全体のパフォーマンスが下振れする点を軽視できないのではないか。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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