正しいテクノロジーの活用が世界を変える
新興テクノロジーが成長機会をもたらし、社会へより貢献するために必要なのはガバナンス Image: Unsplash/Christina@wocintechchat.com
新型コロナウイルスの感染拡大は、第四次産業革命のテクノロジー展開を加速させました。私たちの働き方、買い物や勉強の仕方、社会生活、さらには医療を受ける方法までをも一変し、ウイルスを制御できるようになった後も、新しいスタイルが定着する可能性は高いでしょう。「通常の」生活に戻ることができた後も、このようなイノベーションのスピードを加速させ続けることが、復興とグローバルな目標の達成には不可欠です。
次々と生じる新たな課題に対処し、誰もがテクノロジーの恩恵を受けられるようにするためには、官民のガバナンスが必要であるということが、パンデミック(世界的大流行)をきっかけに明らかになりました。最新の世界経済フォーラムの報告書述べているとおり、パンデミックは「デジタルアクセスに依然として存在する格差を、はっきり露呈」しました。差別的アルゴリズム、データの非論理的な使用、雇用の喪失から、人々と社会を守るためには、責任あるテクノロジー・ガバナンスが必要です。また、過去1年程でインターネットへの依存度が一層高まったことで、サイバー攻撃が増えています。そのため、特に個人情報を扱う企業にとって、サイバーセキュリティがこれまで以上に重要になっています。
第四次産業革命は、気候変動のモニタリング、教育や職業訓練へのアクセスの格差是正、ソーシャル・インクルージョンの促進、気候変動がもたらす災害への対応、将来のパンデミックへの備えなど、多くの機会を提供しています。しかし、ここで重要なのは、私たちがテクノロジーを正しく理解して活用することです。
新興テクノロジーの導入が、成長の機会をもたらし、社会全体に貢献できるようにするために、リーダーシップとガバナンスの面で、最も緊急性の高い課題は何でしょうか?世界経済フォーラムの「グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット」の開催を好機とし、テクノロジーを正しく活用する方法と、それにより期待できる世界の変化について、グローバル・フューチャー・カウンシルズのメンバーが意見を寄せます。
「信頼のループ」を創出する
ベーカー&マッケンジー法律事務所 パートナー兼研究開発部門グローバルヘッド ベン・オールグローブ氏、同パートナー ベアトリス・アラウージョ氏
新型コロナウイルスのパンデミックとデジタルトランスフォーメーションの急激な加速を受け、「未来の職場」は一層現実味を帯びてきました。従業員の日々の経験は、今やテクノロジーによって支えられていると言っても過言ではありません。
新興テクノロジーが批判を受けることなく導入されると、既存の構造的なバイアスを軽減するどころか、定着および強化してしまう可能性が高く、結果として、従業員の信頼を損なうことなります。逆に、新興テクノロジーを正しく活用すれば、従業員の長期的な信頼を育み、組織の大規模な変化につながるでしょう。つまり、良い方向への変化をもたらすのです。
テクノロジーの先を見据え、企業はまず、従業員の信頼を培うための重要な要素である「説明責任」「透明性」「約束の遵守」を認識する必要があります。
テクノロジーは、従業員の日々の業務に影響を与える意思決定に厳密を与え、それが上手く構造化されれば、企業は、リアルタイムのビジネス活動から得られる洞察を拡大することができます。テクノロジーによって得られた知見をもとに、従業員と積極的にコミュニケーションを取り、その後の意思決定にも責任を持つことで、信頼のループが生みだされます。
「アジャイル・ガバナンス」を採用する
ヒューレット・パッカード・エンタープライズHP Labsフェロー兼チーフ・アーキテクト カーク・ブレスニッカー氏
単に「成功の見込みが低い」と告げるか、もっと遠回しに「水を差すようだけれど…」と表現するか、それとも受動的に「どうにもできない」と言うか。いずれにしても、イノベーターに対して、彼らの洞察が独創的であっても、それを実現できないと伝える方法はたくさんあります。
私自身、似たような経験をしたことがありました。ある自動車部品メーカーで研究パートナーと未来の自動車に搭載するAI(人工知能)について話し合っていた時のこと。話題は自動運転のことではなく、実際の環境条件と各地の運転慣習を想定して現場で訓練されたAIを使って、いかに安全性や信頼性、性能を向上させるかという話でした。ブレインストーミングを盛んに盛り上がってきたところで、それは法令遵守という壁に突き当たりました。規制当局が絡む限り、厳格な承認プロセスを受けていなければ、わずかな変化や応用も許容されないことが分かったのです。
AI最大の利点とも言える学習と応用が、私たちの抱える難題をすべて解決すると考えてはならないのです。自動車に設計上の欠陥があれば人の命を奪いますが、「死亡ゼロ、ストレスゼロ、排出量ゼロ」と、センター・フォー・オートモーティブ・リサーチの最高経営責任者(CEO)であるカーラ・ベイロが表現しているように、私たちは交通手段にもっと多くのことを求めています。
安全、公正、適性を賢く実現するための鍵となるのは、アジャイル・ガバナンス(透明性あるデータ主導の継続的改善、および、エンジニアリングから借用された反復的な方法論の導入)です。「ガバナンスが「害を与えない」以上のことを目指すとき、コミュニティーは繁栄するのです。
量子が未来を変える
テックマヒンドラMDマネジングディレクター兼最高経営責任者(CEO)、CP・グルナニ氏
新たな通貨が生まれ、データが新たな石油になり、AIが新たな電気となるような世界に、私たちは生きています。第四次産業革命は10年前に研究室の中だけに留まっていたテクノロジーの実用化をもたらし、AIと機械学習は、今や生産システムに組み込まれるようになりました。しかし、AIが成長すればするほど、シリコンの限界を思い知らされることになります。
量子ハードウェア、量子パスプランニング、量子暗号解読など、量子テクノロジーの利用は、現在、誰もが大きな期待を寄せている進歩です。その応用性に関しては、通常、実用化されたものだけが予測を出すことが可能です。多くの社会は、道路の安全、地下水問題、大気汚染など、周辺の課題を解決するためにこうした技術を必要としています。
周辺の問題が技術や設計を通じて解決されれば、世界のあらゆるところでそれが応用できる可能性を秘めているということになります。
「設計段階」から、セキュリティとプライバシーを埋め込む
アクセンチュア イスラエル テクノロジーイノベーション担当ダイレクター ベンジャミン・ハダッド氏、世界経済フォーラム サイバーセキュリティセンター 戦略的イニシアティブリード アルジルド・ピピカイテ
雇用市場からリーダーシップ、組織、金銭、アイデンティティ、そしてもちろん、テクノロジー全般に至るまで、社会のあらゆる領域で「信頼」に対する厳しい目が向けられています。例えば、企業がデータを急速にクラウド移行するに従い、規制当局はデータ保護法やプライバシー法の中核となる信頼性について、データに対する高度な主権的管理を求めています。データ保管場所をめぐるこうした政治的議論は、一国のソブリン債の外国人保有権に関する議論と同じくらい重要になると予想されています。
サイバーセキュリティの原則は、セキュリティと似たものであると私たちは考えます。つまり、新たなテクノロジーの設計段階から、プライバシーがデフォルトで埋め込まれているべきということ。
データ保護規制がますます強化され、かつ非常に細分化されている現在の背景を踏まえ、複数のテクノロジープラットフォームを効率的かつ法を遵守した状態で統合させて構築することは、アプリケーション構築と同等に難しくなります。企業のワークロードの規模と複雑さが増大し、データの安全性、統合性、継続性を確保しつつ信頼できるユーザーにシームレスなオペレーション提供しするという課題に直面していることから、多くの企業がコンプライアンス上難しい立場に置かれています。
プライバシー戦争、データの分断化、信頼の問題が、デジタル化やクラウドコンピューティングの妨げとなっていることは、誰の益にもなりません。だからこそ、規制の調和、政策の調整、セキュリティとプライバシーのバイデザインのインセンティブ化、これら3つの欠如のバランスを取るために、データ構築を再考することが必要であると考えています。
「TIME TO ACT」
小池百合子 東京都知事
私たちは今、経済、気候変動、人口構造そして、新型コロナウイルス感染症の脅威など、かつて経験したことがない歴史的な転換点に直面しています。
現代の最先端技術であるデジタルテクノロジーの力は、新型コロナウイルス感染症の脅威を克服するだけでなく、様々な困難と課題をも解決に導くものだと確信しています。
都では、課題の解決に当たり人々の持続可能な復興を目指す「サステナブル・リカバリー」と、未来に向けた気候危機行動を加速するために、東京発のムーブメント「TIME TO ACT」を展開しています。
デジタルの時代にあっても、それを扱うのは「人」であり、行動するのも「人」です。
世界各国の皆様がこのようなサミットを契機につながりを深め、知恵を出し合い、人々の幸福に資するようなテクノロジーの「ガバナンス」を確立し、共有する必要があります。
デジタルテクノロジーの力を活用して新たな価値とイノベーションを創造し、今直面する危機を乗り越えて「サステナブル・リカバリー」を実現していきましょう。
今こそ、行動する時。「TIME TO ACT」を合言葉に、皆で未来に向けて実行性ある行動を加速していきましょう。
「忍耐とたゆまぬ努力」
インターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ(ICANN)欧州担当副社長兼ステークホルダー・エンゲージメント&マネージング・ディレクター クリストファー・モンディーニ氏
テクノロジー・ガバナンスの良い例を探すと、往々にしてインターネットに導かれます。マルチステークホルダー、ボトムアップ、コンセンサス主導のガバナンスは、インターネットのストーリーに根ざしています。
しかし、インターネットのガバナンスを、データ、デジタル・アイデンティティ、ブロックチェーンなど、未来のインターネットに影響を与えるコア・イネイブラーに適用するには、どうすればよいのでしょうか。インターネットの発明者は、インターネットを非中央集権的なものにしました。つまり、インターネットアドレスを含む共通の標準とプロトコルを使用する誰もが、インターネットに接続することができるのです。この、分散化されたオープンかつボランタリーな精神が、インターネットのガバナンスにも息づいています。すべてのステークホルダーが対等な立場で、制作的・技術的課題の解決に向けて、コンセンサスを得ることができます。
グローバルなコンセンサスを得ることは容易ではありません。政府、市民社会、技術者、ビジネス、ぞれぞれの意見のバランスを取るためには、ICANNもそうであるように、忍耐と努力が必要です。しかし、インターネットはグローバルなものであり、すべてのステークホルダー、とりわけ人間に寄与するものであるため、技術を管理してイノベーションを促進するには最適の方法なのです。
リスクを増大させずにテクノロジーを民主化する
KPMGテクノロジー&ナレッジ部門グローバルヘッド クリスチャン・ラスト氏
テクノロジーのガバナンスを再考し、正しく理解するならば、私たちはテクノロジーの変革力を社会全体に解き放ち、シチズンデベロッパーを生み出すことができるでしょう。これにより、迅速にイノベーションを起こす能力に対するニーズと、そのニーズに対応できる組織内の人材とのギャップを解消することができます。
人々は、ローコード/ノーコード・プラットフォームなどの、最新技術を利用するための能力とスキルを身につけるでしょう。これまでにほとんど経験のない組織内のエンドユーザーでも、わずかな時間と数分の一のコストで、革新的なアプリケーションを簡単にプロトタイプ化、反復、カスタマイズできるようになります。ビジネス部門とIT部門が共同で設立した、アジャイルなテクノロジー・ガバナンスは、セキュリティ、法令遵守の保証とデータガバナンスを確保する上で役立つでしょう。
これにより、長い時間と莫大な予算をかけるIT改革プロジェクトをはるかに凌ぐ、アジリティ・カルチャーが勃興することになるでしょう。さまざまなデジタルツールやソシューションを快適に利用できるだけでなく、次世代を含め、その進化に携わり、未来の実用化を進めたいと考える人々を巻き込むことができるのです。
「AIの大量適応を加速させる」
ロシア貯蓄銀行 執行役員会第一副議長 アレクサンダー・ヴェディアキン氏
AIは、よりインクルーシブで結束した、持続可能な世界を創造する立場にあります。この世界で、企業はAIの可能性を利用して製品の品質向上とプロセスの自動化を行い、人々はより意義ある興味深い仕事を得ることができるようになります。それにより、社会的・環境的な課題はこれまで以上に少なくなるでしょう。
しかし、これを実現するためには、企業と政府がともにAIの大量導入を加速させる必要があります。そのためには、長所と短所を見つけるための学習が不可欠です。
これには、AIの開発状況を総合的に分析し、その進捗を監視するツール、すなわち指標が必要です。このツールは、世界の第一線で活躍する専門家、オピニオンリーダー、科学者によって開発され、企業、産業、国のための分野横断的な方法論を提供するものであるべきです。
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