日本経済、ワクチンで「逃げ切り」の現実味。夏場に失速リスク
新型コロナウイルスは今なお感染収束のめどが立たず、大手企業が資産売却に踏み切るなど、日本経済の体力を確実に奪っている。 Image: 2021年 ロイター/Toru Hanai
新型コロナウイルスは今なお感染収束のめどが立たず、大手企業が資産売却に踏み切るなど、日本経済の体力を確実に奪っている。ワクチンの普及とともに夏までに感染者が減り、夏休みの旅行需要とともに消費は盛り返すとの期待が聞かれるが、接種が主要7カ国(G7)で最も遅れている日本では、懸念される感染第4波の時期や規模のコントロールが難しい。夏までに「逃げ切れる」との思惑とは裏腹に、夏場に失速するリスクも浮上する。
近鉄のホテル売却
近鉄グループホールディングスは25日、関西圏で所有する8つのホテルを売却すると発表した。同社は新型コロナの影響で鉄道やホテル事業の不振が続き、2021年3月期は最終損益が780億円の赤字になる見通し。ホテル事業は資産を売って身軽になり、運営に力を入れてコロナ後の需要回復を待つものとみられる。
近鉄だけでない。旅行やレジャーといった対面型ビジネスを手がける企業は、西武ホールディングスやANAホールディングスなども収益が悪化している。最悪期を抜けるまでいったん身をかがめ、コロナ収束後に客足が戻ることに期待をつないでいるところが多い。
夏休みの繁忙期をきっかけに業績が回復するのを祈っているのは、企業だけではない。政府も同じ期待を抱いている。マクロ経済政策の司令塔役となる経済財政諮問会議は22日、第3回会合を開き、民間議員の竹森俊平・慶大経済学部教授が「6、7月に予定されるワクチン接種の拡大で逃げ切りの目途が立つと思う」(議事要旨)との見通しを示した。
ワクチン空回りのリスク
だが、政府が切り札とみるワクチン接種にはいくつかのハードルが存在し、「逃げ切れる」と断言できるところまで行っていない。
接種を行う医師と看護師の不足が見込まれるのに対し、政府と医師会との間の調整が進んでいない。また、医師法などで注射できるのは、医師とその助言を受けた看護師のみ。米国などに倣って医学生も動員するには現行法の改正が必要になるが、政府・与党が今国会に改正案を出す動きはない。
接種者の情報を記録する台帳機能の電子化も、方式について最終的な方針が固まっていない。そもそも十分なワクチンを確保できるのか、政府が詳細な輸入数量を明示しているのは5月分までで、6月分は「5月を上回る供給を見込んでいる」としか公表していない。
4〜6月期は大丈夫か
新型コロナの感染状況は、足元で東京都や大阪府、宮城県などを中心に感染者が再拡大する傾向にある。感染症の専門家の間では、変異ウイルスの動向次第では第4波の到来があってもおかしくないとの声も出ている。
ワクチン接種が遅れれば遅れるほど、感染リスクをコントロールする力が削がれ、仮に第4波が来ても飲食店の時短強化や大企業などのテレワーク率引き上げ程度しか「有効打」がなく、収束へのめどが立たない事態に直面しかねない。そのまま4月末から5月の大型連休を迎え、さらに7、8月の夏休みシーズンに突入する「リスクシナリオ」の実現性が高まるだろう。
この長期感染シナリオが現実化すると、対面型ビジネスが主流の非製造業は業績が回復どころか「二番底」を付けに行く恐れがある。比較的堅調な輸出型企業のプラスを帳消しし、国内総生産(GDP)は1〜3月期に続いて4〜6月期も前期比マイナスになる公算が大きくなる。ワクチン接種が進む米国ではサービス業の業績回復が目立ち、日米間の経済格差はさらに拡大するだろう。
東京・日比谷にある旗艦ホテルを最大2500億円投じて建て替える帝国ホテルのように、コロナ後をにらんで攻めの投資に動く企業もある。しかし、足元で起きている経済的な地殻変動に対して政府が鈍感で、2期連続のマイナス成長を呼び込んでしまうなら、多くの経営者のマインドは悪化し、設備投資は急速に冷え込んでいくことが予想される。
2021年度予算案の成立が26日に見込まれる今こそ、政府は日本経済の弱点を見据えた追加経済対策の策定に入り、明るいビジョンを提示すべきだ。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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