自然と生物多様性

新たな問題の解決のため見直されるテクノロジーハブ

One week's worth of plastic waste collected by just one family. Many say they reuse and recycle as much as possible but need more solutions to ensure they can be truly effective.

1世帯から1週間に出るプラスチック廃棄物。再利用やリサイクルには限界があるため、真に効果的な新しいソリューションが必要と言われている。 Image: REUTERS/Paul Hanna - RC163CC264B0

Helen Burdett
Head, Technology for Earth, World Economic Forum
Antonia Gawel
Director, Sustainability and Partnerships, Google
  • テクノロジーハブは、さまざまな分野からの専門知識のコラボレーションによって、独自のイノベーションを実現しています。
  • これまでテクノロジーハブでは、天然資源の保護や持続可能性の実現など、収益が見込めない長期的な地球規模課題の解決に、必ずしも積極的に取り組んできませんでした。
  • プラスチック廃棄物を削減し、サーキュラー・エコノミーを実現するスケーラブルなソリューションの提供を目的としたハブなら、ビジネスの収益性と持続可能性を両立させることができます。

新型コロナウイルスの感染拡大で既成概念が崩壊すると、世界のシステムは新しい視点で変化するようになりました。かつては変化が遅いと言われていた産業界も、急速に新しいソリューションを導入。デジタル分野の変革者たちは、新しいパートナーとの新たなコラボレーションを模索しています。革新的な思考を導入せざるを得なくなった今日の世界は、天然資源への負担を減らして製品を長く使えるようにするサーキュラー・エコノミーの考え方のように、社会の課題に取り組むためのまたとないチャンス得ているとも言えます。

テクノロジーハブの再考

コラボレーションは、イノベーションの中でも目に見えない要素です。結局のところ、過去50年の間に私たちの生活を変えてきたイノベーションの多くは、シリコンバレー、東京、テルアビブなどの限定されたテクノロジーハブによるもので、変革の担い手がテクノロジーの専門知識、起業家的思考、投資資本と結び付くことで生まれたものです。

しかし、これらのテクノロジーハブは、単なる地図上の「点」ではありません。それは、アイデアや批判的精神を共有する人たちが分野を超えて協力し合い、今日の世界が抱える大きな問題に取り組む、血の通ったコミュニティなのです。

テクノロジーハブは、ビジネスリーダー、政策立案者、研究者をつなぐもので、本来どこにあってもいいはずです。しかし、近年は、一部の拠点が資本とイノベーションを独占する傾向にあります。その結果、本当の意味で包摂的に、さまざまな問題に取り組むための貴重な機会を、テクノロジー業界は逃しています。新型コロナウイルスの感染拡大によって明らかになったように、現在の技術的ソリューションは長期的展望に基づくものとは限らず、あらゆるテクノロジーを最大限に活用したものでもありません。

新型コロナウイルス感染拡大の収束後、世界全体で公平に分散された復興を目指すのであれば、さまざま場所でハブを発達させ、持続可能性などの大きな課題に取り組む体制を整える必要があります。

より多くのテクノロジーハブを創出し、発展させるには、地域のイノベーションシステムを丁寧に育て上げていくことが不可欠です。そのためには、政策、資本、グローバルな人材の受け入れのどれもが求められます。また、失敗をサポートしやり直しを認めるという文化も必要です。

新型コロナウイルス感染拡大の収束後、世界全体で公平に分散された復興を目指すのであれば、さまざま場所でテクノロジーハブを発達させ、サーキュラー・エコノミーへの移行などの大きな課題に取り組む体制を整える必要があります。

スタートから循環性の概念を組み込む

持続可能性のような広範囲に分散した問題に求められるのは、分散したソリューションです。ソリューションの策定を一部の都市に集中させてしまうと、その能力は制限されてしまいます。イノベーションを促進するには、問題に取り組むための環境を世界のあらゆる場所に広げる必要があるのです。さらに、サーキュラー・イノベーションを活性化させるには、新しい企業の基本構造に「循環性」の概念を組み込み、製品を市場に投入するところから無駄を省き、第四次産業革命技術の新しい使い方を見定めなければいけません。チリでトップ企業の半数が参加するグループ「SOFOFA Hub」のエグゼクティブディレクター、アラン・ガルシア氏は、「サーキュラー・エコノミーへの移行には、強い意志とテクノロジーに加え、企業、イノベーター、政府機関の連携が不可欠です」と述べています。

循環性を完成させるには、長期的な視点に立った新しい設計も求められます。形ばかりのハッカソンや、どこかで見たようなイノベーションのやり方では、ソリューションをスケールアップさせるには不十分で、現在の「資源の投入、生産、廃棄」のモデルから脱却することはできません。循環型ソリューションを目指す市場を育成する政策、金融機関からの支援、有力な買い手や市場関係者へのアクセスが必要です。言い換えれば、サーキュラー・エコノミー・イノベーションの活発なエコシステムを作る必要があるのです。これが実現しない限り、サーキュラー・エコノミーのイノベーターが、規制の壁を破り、市場の需要をひねり出すことなどできません。

世界経済フォーラムは、このような観点から、サーキュラー・エコノミーの持続的なエコシステムを構築し、ソリューションを広げていくためのイニシアティブである「Scale360° Playbook」を生み出しました。エコシステムに働きかけるこの独自のアプローチは、今年9月に始動し、サーキュラー・エコノミーに重点を置くよう設計されています。さらに、世界中から集結した新進気鋭のイノベーターたちは、世界経済フォーラムのオープン・イノベーション・プラットフォームであるアップリンク(UpLink)を通じて、アイデアとソリューションを共有し、協力しながら問題に取り組んでいます。

Scale360°の中心理念は、持続可能なビジネスのためのハブ構築に必要なものを表しています。

  • 多彩なパートナー:Scale360°は、多様なパートナーから知見を得ることの重要性を理解し、金融機関、ビジネスリーダー、非営利団体、政策立案者で構成される分散型パートナーシップハブを構築。さまざまなイノベーターをつなぐ架け橋となります。

    「Scale 360° Playbookが持続可能なソリューションに取り組むコミュニティに幅広く活用されることを期待しています」と、グローバルな持続可能性に向け優れた成果を上げる事業の特定、開発、投資を行う企業、グローバル・アライアンス・フォー・サステナビリティのCEOであるシャイハ・シャマ・ビント・スルターン・ビン・ハリーファ・アール・ナヒヤーン妃殿下は語ります。「現在のリニアモデルを見直しグローバルなサーキュラー・エコノミーの構築に取り組む上で、重要なツールとなるでしょう」とも述べています。
  • 実績のある方法論:実績のあるアプローチと構造化された話し合いの場があれば、ハブがその能力を素早く認識し、活用することができます。Scale360°が採用している戦略的で協議に基づくアプローチは、エコシステム固有のニーズに合ったソリューションを開発し、コンセンサスを得るのに効果を発揮します。

    Scale 360°のように、エコシステム内の意思決定者を動かすことができれば、その地域で影響力のある人物からの支援も約束されます。これにより、新しいイニシアチブへの支援が強化され、リソースを素早く投入できるので、確実な成果が期待できます。
  • スケーラビリティを重視:スケーラブルなアイデアは、「支援と継続」の両面でチャンスを最大化します。調査の結果が示す通り、中小企業のほとんどは道半ばで頓挫し、企業規模を拡大させることができません。スケーラブルなビジネスは、経済的なインパクトが特に大きく、雇用や価値創造にも貢献します。堅調で今まさに成長中の企業は、他の投資家や起業家の目に留まりやすく、エコシステムをさらに活性化させることができます。

    スケーラブルなアイデアにターゲットを絞ることで、初期の段階から企業に「循環性」の概念を組み込み、ビジネスの収益性と持続可能性を両立させることができます。こうした要素を考えて作られたハブなら、循環性を核に組み込んだ、レジリエンスの高い企業を生み出せるでしょう。
  • 創造性:どんな画期的なプラットフォームも、創造性がなければ、新しいソリューションを生み出すことはできません。創造性を確保するためには、さまざまな地域にハブを設置し、幅広い専門知識とアイデアを活用する必要があります。多様なステークホルダーや実績のある方法論といった要素と合わせれば、Scale360°のようなイニシアティブが真のイノベーションを生む日も近いでしょう。

    「Scale360° Playbookの素晴らしい点は、遊び心と創造性があって、お互いに協力できる雰囲気が自然と生まれることです」と、スタンフォード大学土木・環境工学科のウィリアム・マクダナー准教授は語ります。「誰もがPlaybookを使いたくなるはずです。新しい思考や新しいアクションを生むだけでなく、楽しく、生産的で、有益なコラボレーションへの扉を開いてくれるからです」。

    サーキュラー・エコノミーにおける数々の重要概念を提唱したマクダナー氏は、「未来のソリューションを過去の問題に適用できるなんて、刺激的です」と述べています。

未来を見据えて

年次報告書「サーキュラリティ・ギャップ・レポート」によると、2019年の世界経済のサーキュラリティ(循環性)はわずか8.6%。2020年の現状が示すように、変化というのは私たちが想像もしなかったスピードで起こり得るのです。より良い未来を目指して、変化を起こしましょう。新たな連携を構築し、すみやかに人材を集結させれば、大規模で難しい課題にも取り組むことも不可能ではないと、私たちは知っています。Scale360° Playbookのようなツールは、コミュニティがつながり、世界中に存在する変化や創意工夫を求める意志を活用するためのルートを作ってくれます。力を合わせて取り組むための道が示されれば、世界は変わるはずです。

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