テックジャイアント6社が目指す、携帯電話が再生材料で作られる未来
多くの企業が、限りある素材の、責任ある持続可能な供給に機会を見出しています。 Image: Jamie Street/Unsplash
- テックジャイアントたちは、二酸化炭素の排出量を削減し、限りある素材の、責任ある持続可能な供給を機会としていく方法として、サーキュラー・エコノミーに大きな期待を寄せています。
- 廃棄される電子機器の材料には、年間約570億ドルの価値があると考えられていますが、その80%以上は収集されないままです。
- アップルは、iPhoneとその部品を分解するロボット「デイジー」と「デイブ」を開発。iPhoneのタプティック・エンジンにおいて、スマートフォン製造に100%リサイクルされたレアアース(希土類)を使用する業界初の試みを行っています。
- デルは、ヘッドフォンやハードドライブなどの電子機器からレアアース磁石をリサイクルしています。
電子製品は今や、私たちの日々の生活に欠かせないものとなっています。特にパンデミック(世界的大流行)中には、電子製品によって繋がることの必要性がこれまで以上に高まりました。使用済みの古い電子製品には多くの貴重な材料が使われていますが、それらは未使用のまま放置されたり、最悪の場合、インフォーマルセクターや埋め立て地に消えてしまったりすることさえあります。
そこには、大きなチャンスがあります。使用されなくなった電子機器の材料には、年間約570億ドルの価値があると考えられています。引き出しの中に眠っていると推定される携帯電話は、ヨーロッパだけでも1億台。各企業は、デバイスの回収量を増やすための新しい方法、そして、回収材料の質および量を向上させるための新しい技術への投資を行っています。
多くの企業が、採掘された材料に比べ地球への影響が少なく、責任ある、持続可能な材料の供給に機会を見出しています。これらの機会を踏まえ、世界最大級のテクノロジー企業は、材料の使用や再利用の方法を見直し始めています。アップルは、電子機器を「分解」するロボットに投資することで、材料回収の質と量を改善する新しい方法を開拓しようとしており、2030年までのカーボンニュートラルの実現を目指す同社のロードマップにもサーキュラーデザインを取り入れています。一方、ヘルスケア技術事業者のフィリップスは、顧客が使用する製品を実際に所有する必要があるのかについて再検討を始めています。
このようなソリューションは、世界経済フォーラムが国連のE-Waste Coalitionの支援を受け、立ち上げた「電子製品の新しいサーキュラービジョン」の中心となるものです。これにより、大きな成果が得られる可能性があります。電子製品から金を抽出すれば、採掘するよりも二酸化炭素の排出量を80%削減することができます。1,000トンの電気・電子機器廃棄物が収集および分類されるごとに、15件の雇用と110件のトレーニングの機会が創出される可能性があります。 世界経済フォーラムの新しい報告書でも、国際貿易を通じてこれらの戦略を実現する方法を探っています。
サーキュラー・エコノミーへの移行に向けたテクノロジー企業6社の取り組みを紹介します。
アップル
世界最大のテクノロジー企業のひとつとして、アップルの行動にはテクノロジー分野全体への強い影響力があります。iPhone 11、iPhone 11 Pro、iPhone 11 Pro Maxの発表により、アップルは、タプティック・エンジンに100%リサイクルされたレアアースを使用するという業界初の試みを実現しました。他にも、新しいiPad、iPhone、Apple Watch、Mac製品に100%リサイクルされたアルミニウム筐体を採用し、多くのデバイスの部品に、リサイクルされた錫、プラスチック、タングステンを使用しています。
同社は、2030年までに100%カーボンニュートラルなサプライチェーンと生産ラインを実現することを宣言。この循環型社会構築に向けた取り組みは、製品を100%リサイクルされた再生可能素材だけで作るという野望とともに、同社をカーボンニュートラルへの実現へと動かす力強いきっかけのひとつとなっています。この目標を支えているのは、「デイブ」です。
アップルのiPhone分解ロボット「デイジー」がiPhoneを個別の部品に分解した後、別のアップルロボットである「デイブ」が、iPhoneの触覚フィードバックを提供するタプティック・エンジンを分解し、レアアースなどの材料、そしてタングステンや鋼などの貴重な材料を回収します。
アップルは、新たに採掘された材料と同じ品質と純度レベルでリサイクル材料を提供できるようにするため、自社のデバイスを収集するだけではなく、リサイクル業者と提携して「逆サプライチェーン」の構築も進めています。
シスコ
世界中のオフィスのあらゆるデスクに置かれている、シスコ製の電話。このテクノロジー企業は、今や、その多くをクローズドループプラスチックで製造しています。
「私たちは、使用済み製品が廃棄されるリニア・エコノミーから、限りある天然資源をより有効に活用するサーキュラー・エコノミーへの移行に取り組んでいます」と同社は述べています。その実現に向けた計画には、現場での機器の修理、社内での製品の再利用、再販プログラムなどが含まれています。
機器の所有者に使用済みハードウェアを返却することを奨励する、シスコの回収・再利用プログラムでは、製品の99.6%に再利用またはリサイクルを実現できているとしています。
また、シスコによると、これらのプロセスは環境に優しいだけでなく、高価な原材料や、廃棄物にかかる年間数百万ドルを節約でき、ビジネスとしても理にかなっているといいます。
デル・テクノロジーズ
コンピューターのハードドライブからヘッドフォンにいたるまで、「レアアース」磁石は、極めて重要な部品として使用されていながら、ほとんど知られていない部品のひとつです。採掘が難しく、高価であるため、リサイクルすることは理にかなっています。2018年、デル・テクノロジーズは多くの企業と提携し、「回収」プログラムを通じて、収集した古い機器からこれらの磁石を集めてリサイクルする「クローズドループ」プロセスを新しく構築しました。
デルはまた、サウスカロライナ州を拠点とするスタートアップ企業、カーボン・コンバージョンとともに、より軽量で低価格、そして環境に優しい、一部のノートパソコン向けの再生カーボンファイバー技術を新しく開発しました。
デルは、2030年までに、製品を販売した量と同等量の再利用またはリサイクルの実現を約束しています。同社は、リサイクルも最優先事項のひとつとしており、パッケージの100%をリサイクルし、製品に使用されている材料の半分以上をリサイクルされた、または再生可能な資源から作られたものにすることを目指しています。
ファーウェイ
多くの電子製品は、樹脂から作られた部品が使われていますが。樹脂を作り出す粉末はリサイクルが難しいため、埋め立て地のほとんどが大量の電子廃棄物で占められているのが現状です。ファーウェイは、樹脂粉末からゴミ箱やバスケットを作る試みをし、この分野における大きな一歩を踏み出しました。
ファーウェイはまた、世界の48の国と地域に1,300のリサイクルステーションを設置するなど、その世界的な存在感を生かした活動も行っています。同社のサービスセンターでは、昨年、毎月約30万個の使用済みスペアパーツ(重量60トン)を回収した有料リサイクルプログラムも実施されています。
ファーウェイは、リサイクルを奨励するためのクレジットベースのプログラムも導入しました。今や9カ国で展開している中国でスタートしたこのプログラムは、ファーウェイの顧客にリサイクルの見返りとして割引を提供しています。
マイクロソフト
マイクロソフトのブラッド・スミス社長は、「2030年までにダイレクトオペレーション、製品、パッケージの無駄をゼロにする」という目標を発表しました。
その一環として、多くの電力と機器を消費しているデータセンターでの廃棄物削減に取り組みむといいます。マイクロソフト・サーキュラー・センターでは、これらの施設でサーバーやハードウェアを再利用および転用していくことを新しく計画しています。
また、マイクロソフトは、プラスチック廃棄物に対する取り組みにも積極的です。国連によると、毎年発生するプラスチック廃棄物はおよそ4億トンですが、その約半分はパッケージによるもの。マイクロソフトが2025年までに消費者向け製品のプラスチックフィルムから同社データセンターの大型機器のパッケージまで、使い捨てプラスチックをパッケージからなくすことを宣言したのはこのためです。
フィリップス
昨年、ダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会で、ヘルスケア技術事業者であるフィリップスのフランス・ファン・ホーテン最高経営責任者(CEO)が立てた誓いは、「フィリップスは、消費者が返却する大型医療システムをできる限り多く回収し、再利用する」というものでした。同社は、この目標を今年達成できるよう進めています。
サーキュラー・エコノミー加速化プラットホーム(PACE)の共同議長を務めるファン・ホーテン氏は、900億トン、地球上の人間一人あたり12トン以上の天然資源が毎年採掘されているという、現在の消費パターンの持続不可能性に関する懸念を訴えています
これを踏まえ、フィリップスが目指しているのは、所有型からアクセス型のサービスモデルへの移行です。機器が壊れ、廃棄されるのを待つのではなく、消費者が一定期間機器を使用できるようにする仕組みです。同社は、2020年までにサーキュラー製品およびサービスが売り上げの15%を占めることを目標としています。
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Hazuki Mori and Soichi Noguchi
2024年12月20日