深層地理学

地球の脱炭素化、中国が握る命運 対策次第で好循環も

9月29日、中国の習近平国家主席はこのほど、二酸化炭素(CO2)排出量を2060年までに実質ゼロにするとの骨の折れる宿題を自らに課して見せた。中国・ハルビン氏の火力発電所付近で2019年11月撮影

中国の習近平国家主席はこのほど、二酸化炭素(CO2)排出量を2060年までに実質ゼロにするとの骨の折れる宿題を自らに課して見せた Image: 2020年 ロイター/Jason Lee

George Hay
Associate Editor, Reuters

地球規模で脱炭素化を進めるには中国の手助けが欠かせない。世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという目標実現に許容されるCO2排出量は、地球全体で350ギガトン(1ギガトン=10億トン)。年間では約33ギガトン前後になるが、中国はこの28%を占め、余裕で世界1位の排出国となっている。

習氏による排出量削減の約束には疑念を抱く理由が多々ある。実質ゼロ目標の達成期限は欧州連合(EU)よりも10年遅いし、目標達成の具体的な手段も示されなかった。習氏は「緑の革命」に言及して他の国々を鼓舞したが、こうした振る舞いは米国が実質ゼロ目標の達成期限を示さないことへのあてつけもあったかもしれないのだ。

しかし中国の指導部が本気だと考えてみよう。中国の現在のエネルギー消費は年間88エクサジュール(EJ)。世界全体の消費量の5分の1で、石油換算で21億トンに相当する。しかも悪いことに、中国のエネルギー消費は化石燃料が3分の2を占める。石油は自動車燃料の大半に、天然ガスと石炭は家庭用暖房に使われ、石炭は国内発電の3分の2を賄っている。しかし、中国のエネルギー消費のうち電力はわずか4分の1だ。

習氏にとって最善の策は、この電力の生産を増やすことだ。風力や太陽光で発電ならCO2を排出しない可能性がある。さらに、エネルギー効率という観点もある。ノルウェーのエクイノールによると、内燃機関に比べて電動エンジンはエネルギー効率が3倍から4倍高い。地熱利用の電気モーターを使用する熱ポンプも、ガスボイラーより3-4倍、効率が良い。LEDライトを使うと灯油ランプのエネルギー消費の5分の1で済む。

国際シンクタンクのエネルギー移行委員会(ETC)はそうした変化が進んだ場合の中国のエネルギー消費を試算した。電力によるエネルギー効率向上とあいまって建物の断熱性能改善の大規模な導入など生産性改善策が取られると、中国経済に必要なエネルギーは50年までに現在より25%程度減ってわずか64EJになる。このシナリオは中国の発電量が24EJから54EJに増加するとの想定で、その大半が風力と太陽光発電だ。

中国政府が依然として石炭火力発電所の建設を進めていることを考えると、これほど大胆な変革は多額の資金を要するだろう。ETCの推計によると、中国が今回打ち上げた期限より10年早くに実質ゼロを完全実現する場合、その年間コストは国内総生産(GDP)の1%。この間の成長率を年5%と想定すると、必要なコストは総額約10兆ドル、年間で3300億ドルだ。

大量の太陽光パネルや風力タービンの設置は実際のところ、容易な部類に入る。風力や太陽光の発電能力の新設は化石燃料よりも費用効率が良くなっている。ただ、常に十分な風力や太陽光が得られるわけではないため、大規模な蓄電施設が必要になる。

一方、中国のセメント製造や製鉄といった重工業は電化がほぼ不可能な状態。こうした企業がCO2の排出を抑えようとすると、多額の補助金が必要となる。

ETCの分析は楽観的過ぎるかもしれない。国際エネルギー機関(IEA)の推計は、世界が地球温暖化問題に比較的真剣に取り組んだ場合には、中国のエネルギー消費は40年までに83EJまでしか減らないとしている。地球温暖化への世界的な取り組みがこれまで同じ程度の状況が続けば、中国のエネルギー消費は年間120EJに達する。

ただ、中国ほどの経済規模の国であれば、10兆ドルという予算は可能だ。習氏がCO2排出量の徹底的な削減に本気なら、国家主導型の中国経済であれば水素生産のコスト低減などの難題に集中することも可能だろう。水素生産コストが下がれば、恩恵は同じ課題を抱えた世界中の国々にも及ぶ。同様の努力によってエネルギーの貯蔵コストも下がるかもしれない。

〈背景となるニュース〉

中国の習近平国家主席は22日、国連総会一般討論のビデオ演説で、2060年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするとの目標を示し、各国に「緑の革命」を呼びかけた。中国の排出量は30年までにピークを迎えるとした。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。

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