新型コロナと未知の「疾病X」、都市の弱点は修正可能か
COVID-19のパンデミックで分かったことがある。 Image: 2020年 ロイター/Issei Kato
COVID-19のパンデミックで分かったことがある。混雑した居住環境や公共交通システムを抱える人口密度の高い都市が、ウイルスの空気感染に対してぜい弱だという事実だ。
効果的なワクチンを広く利用することが可能だとしても、今回が最後のパンデミックになるとは考えにくい。今後数十年の間に、コロナウイルス、あるいは他の空気感染するウイルスによる新たな疫病が発生する可能性は高い。
新型コロナウイルスを機に、人口密度が高く密接に結合された都市、特に巨大都市を中長期的にどのように再設計し、より安全にしていくかという深い再検討を加速すべきである。
パンデミックへの対応計画
疫学者たちは、第2次世界大戦後、新たな疾病が誕生する頻度が上昇していることに警告を発してきた。新たな疾病のほとんどは、動物由来である。
研究によれば、1960年から2004年までの間に、鳥インフルエンザからジカ熱に至るまで、ヒトが罹患する新たな疾病が335種類登場したことが分かっている("Epidemics and society", Snowden, 2020)。
公衆衛生の専門家たちは1990年代以来、パンデミックの可能性について警告してきたが、その切迫感は高まる一方だった。
2000年代初頭には、米中央情報局(CIA)とランド研究所が、国家安全保障と国民の幸福に対する「パンデミックの」脅威を強調している。
世界保健機構(WHO)は2019年9月、世界健康危機モニタリング委員会(GPMB)による最初の年次報告書を公表した。GPMBは、健康上の脅威への備えと緩和措置を各国政府に促すために創設された組織だ。
「危機に直面している世界(A World at Risk)」と予見的な表題を掲げた報告書は、「人命の損失だけでなく、経済への悪影響、社会の混乱をもたらす疫病、あるいはパンデミック」による脅威の深刻化に警鐘を鳴らしている。
ここ数十年、公衆衛生の専門家は新たな未知の「疾病X」のパンデミックに備え、健康と経済に対して想定される影響を検証しつつ、厳粛に計画を練り、対応・抑制戦略の想定訓練を重ねてきた。(WHOによれば、「疾病X」とは、現時点ではヒトが罹患する疾病の原因として知られていない病原体により、深刻かつ国際的な疫病が生じかねない、という理解を示す言葉である。)
鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MARS)といった疾病の流行は、すべて大規模なパンデミックに向けた本番同然のリハーサルだったと考えられている。
それぞれの疾病が発生した当時は、政策担当者の関心も高まり予算も拡大した。だが、緊急事態が遠ざかり、恐怖が収まると、各国政府・市民は通常運転に戻っていった。
歴史家のフランク・スノーデンは「微生物による脅威が生じるたびに、国際的にも各国においても、あらゆるレベルで熱狂的な活動の時期が訪れるが、結局は忘却の彼方に沈んでしまう」と述べている。
巨大都市再考
COVID-19を抑え込むための効果的なワクチンが開発できるとしても、「疾病X」を含めて、将来の疫病の脅威が消えるわけではない。
したがって、政策担当者は今回の新型コロナ禍を機に、都市や巨大都市の構造とその公衆衛生上の意味を含めて、急速な感染拡大をもたらした基本的な要因について、再検討を進めるべきである。
新型コロナウイルスは、都市化、過密化、貧困、医療サービスの偏り、公共交通と航空輸送をめぐる一連のぜい弱性を露呈させた。こうした点については、さらに深い再検討が必要である。
新型コロナウイルスを1つの警告として、活用しなければならない。「疾病X」を含めて、今後の疫病はさらに感染力が強く、致死性も高くなる可能性もある。
超過密で密接に結びついた都市は、リスク管理担当者や緊急対応計画担当者になじみ深い言葉を使うならば、ぜい弱で不安定なものになっている。
今求められるのは、都市の経済的繁栄をもたらし、住民にとっての魅力を生んでいる特徴を保持しつつ、都市をさらに強じんなものにしていくよう、改めて想像力をめぐらせ、再設計していくことである。
政策面でのトレードオフ
巨大都市及びその他の主要都市は、経済的に最も成功している地域であり、繁栄の大きな推進力である。また、限定的とはいえ、近隣の地域にも波及的な恩恵をある程度与えている。
都市化のあまり進んでいない地域や村落地域に比べると、都市は住民1人当たりの生産力がかなり大きく、所得も高く、技術革新においても圧倒的なシェアを占めており、エネルギー効率も高い。
英国家統計局の分析データによれば、2017年の時点で、ロンドンの住民1人当たり経済産出高は全国平均を77%上回り、英国内の大半の地域の2倍以上だった。
一方で、ロンドンのエネルギー消費は平均を大幅に下回っていた。これはもっぱら、バスや地下鉄、郊外鉄道路線などの公共交通システムへの依存度が高いためである。
ロンドンの輸送関連エネルギー消費は、2017年の時点で住民1人当たり約3100KWh(キロワット時)であり、隣接するイングランド南東部(7700KWh)、イングランド東部(8100KWh)の半分以下だった。
ロンドンの交通機関の効率改善は他のどの地域よりも急速に進んでおり、住民1人当たりのエネルギー消費は、2007年から2017年にかけて26%減少した。これに対して、イングランド南東部では13%、イングランド東部ではわずか7%に留まっている。
熱心な都市化論者や気候変動防止活動家にとって、人口密度の高い都市は1つのサクセスストーリーであり、エネルギー集約性を低下させ、二酸化炭素排出量を抑制しつつ、繁栄を生み出してきた。
だが、この成功には住宅や職場、公共スペースや公共輸送システムの混雑が増すというダークサイドが伴っていた。
決定的に重要なのは、都市、特に巨大都市の生産性とエネルギー効率の大部分を維持しつつ、過密化と疫病の感染可能性を低下させるような再設計が可能かという点である。
感染リスクを減らすために都市の過剰な混雑を緩和しつつ、生産性・エネルギー効率における優位を維持することは可能だろうか。
土地利用、空間計画、人口密度管理の変更を通じて、あるいは人々の行動や既存資産の使い方の変更を通じて、都市を再設計することは可能だろうか。
疾病監視その他の公衆衛生上の対策を通じて、人口密度が高く密接に結びついた都市の防御を強化することは可能だろうか。
そして、経済活動と人口、そして少なくとも今後の新たな成長を、巨大都市及びその他の主要都市から、中小規模の都市へとシフトするべき大義名分はあるだろうか。
惰性か、過去との決別か
都市の再設計は、政策担当者、企業トップ、不動産投資家、さらには個々の市民にとって、難しいトレードオフをはらんでいる。
新型コロナウイルスの余波と将来の疾病拡大の予感の中で、都市がどこまで変化するかは、「惰性」と「過去との決別」という2つの力のバランス次第である。
すでに強大な既得権層は、住宅や商業用不動産の配置、中央集約な働き方、通勤・輸送といった面で、新型コロナ以前の旧態への回復を推進している。
一方、各都市も国家全体も、過去1世紀の社会的・経済的混乱の中でも最大級のショックに見舞われており、学問・社会・政治の各方面で本格的な再検討が始まっている。
都市がどれだけ変化するか、あるいは旧態依然に留まるのかは、新型コロナによる衝撃が、惰性をどれだけ上回れるかにかかっている。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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