回復弱い日本の消費、危機感薄い政府 コロナ追い打ちも
5月に緊急事態宣言が解除され、経済活動が本格的に再開され出したが、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費の回復テンポが鈍い。背景には不透明感の強い雇用・所得環境が影響しているとみられるが、ここにきて東京都での新型コロナウイルス感染者が急増。夏休みのレジャーに大きな打撃になりかねない状況となってきた。ところが、政府は目立った消費対策を検討しておらず、「後手に回る」危険性が高まっている。
ペントアップ効果、力不足か
消費の動向把握には、政府統計よりも早く結果が出るビッグデータ処理を施した民間の指数が役に立つ。その1つであるクレジットカードの取引データを活用した国内消費動向指数「JCB消費NOW」(ナウキャストとジェーシービーが作成)によると、6月前半の総合指数の水準は、今年1月後半を基準にマイナス17.9%となり、3月後半の水準に達していない。4月後半のマイナス30%台を底に回復基調にあるが、そのペースは鈍化しつつある。
業種ごとにみると、百貨店や織物・衣服・身の回り品小売業などの外出型消費が急速に回復している一方、スーパーは5月後半に比べ、伸び率が低下している。百貨店は4、5月に休業しているところが多く、先送りされてきた需要がまとまって表出された(いわゆるペントアップ効果)が、スーパーは他の支出との兼ね合いで「節約」対象になった日用品を主に扱っており、しわ寄せを受けた可能性がある。
雇用・所得の不安が背景
政府は5月中に東京なども含めて緊急事態宣言を全面的に解除した。抑えられてきた分が回復するため、一部で「V字回復」も期待されてきた消費の足取りは、全般的に鈍い。
その背景にはいくつかの要因が絡み合っていると思われる。私が指摘する最大の要因は雇用・所得環境に対する不安感だ。5月の完全失業率は2.9%と4月から0.3%ポイント上昇。有効求人倍率は前月の1.32倍から1.20倍に低下し、その低下幅は46年ぶりの大きさだった。一部の民間調査では、非正規労働者が休業対象になっても、何も補償がないというケースが急増しているとの結果も出ており、足元で「節約」ムードが強まる構造を形成している。
4月家計調査では、実質消費支出が前年比マイナス11.1%と大きく減少したが、これが5月、6月と目立って回復し、今年後半に前年比でプラス圏に浮上することができるのかどうか。消費の先行きに点灯する「黄信号」が、「赤信号」に変わるリスクも浮上している。
東京で感染者急増
さらに消費を直撃しそうなのが、直近での東京都における新型コロナ感染者の急増だ。7月後半から梅雨明けと学校の夏休みスタートで例年なら、宿泊・レジャー関連の支出が急増する。ところが、東京都では2日に107人、3日に124人の感染者が確認され、にわかに「第2波」への警戒感が強まってきた。
今のところ、政府や東京都は他府県への移動の自粛を再度要請する考えは示していないものの、感染を懸念するムードが長期化すれば、政府の「GO TOキャンペーン」などで重要増を期待していた観光関連分野に「冷水」をかける事態になりかねない。夏休みの消費活動が制約されれば、7-9月期のGDPにも大きな影響が出るだろう。
4-6月期は前期比・年率で20%台のマイナス成長が予想され、7-9月期は相応の反発が期待されていた。だが、東京都を起点に「第2波」襲来に近い状況になれば、個人消費の打撃を外需でカバーすることが難しいため、2019年第4四半期から始まったマイナス成長が4期連続となるシナリオの現実味も出てくる。
政府に切り札なし
だが、政府は「弱い」個人消費への警戒感が薄いようだ。その証拠の1つに、キャッシュレス決済のポイント還元を6月末で終了させてしまった。代替として登場した「マイナポイント」は、マイナンバーカードとセットで登録されるキャッシュレスサービスを使用するとポイントが還元される仕組みになっている。9月以降、購入額の25%分を5000円を限度に受け取れる。
しかし、知名度が低い上に、使用は4000万人分が上限となっており、どこまで消費を刺激できるのか極めて不透明感が強い。また、日本政府がその他に持っている消費刺激の「カード」も、どうやら目ぼしいものはないらしい。
ドイツ政府は、7月1日から半年間の期限で付加価値税を19%から16%に引き下げ、食料品などの軽減税率も7%から5%に下がった。
日本では、消費税率の引き下げに対し、政府や与野党の「財政再建派」からは強い抵抗感が示され、コロナ対策のメニューからいつの間にか消えた。
だが、このまま個人消費の低迷を放置していれば、1年ないし2年後に現在の何倍もの規模の経済対策を打つ事態に直面する危険性がある。
これまでの財政・金融政策の効果で株価は支えられてきたが、それによって「真の実態」を見失って政策対応が遅れれば、日本経済の「傷口」が縫合できないほどに大きくなることを懸念する。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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