幸福学の教授が教える、新型コロナウイルスの時代を生き抜く方法
教鞭をとるイェール大学だけでなく、オンラインでも人気を集めるローリー・サントス教授 Image: Yale
- ローリー・サントス教授が、無料オンライン教育サービスのコーセラ(Coursera)で公開した「幸せの科学」講座に200万人を越える学生が履修登録をしています。
- 調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大が広がるにつれて、ストレスや不安からメンタルヘルスが悪化する人が増えています。
- サントス教授は「個人の幸せは他の人を助けることで高まり、企業や政策立案者はそのことを学ぶべきだ」と語る。
世界中の都市で実施されたロックダウン(都市封鎖)措置は、多くの人の心理的影響を及ぼしています。米国で最近行われた世論調査では、ストレスや不安を感じる割合が増えており、社会的隔離によって、一部の人にはうつ症状も見られるということです。
幸い、インターネットには精神的ストレスに負けないためのアドバイスが豊富にあります。中でも最も注目を集めているのが、最近さまざまなメディアで取り上げられている、イェール大学のローリー・サントス教授の講座です。
eラーニングのプラットフォーム、コーセラで公開されたサントス教授のオンラインコース「幸せの科学」は、200万人の受講生が登録し、コースページの閲覧回数は4000万回を超えるという社会現象になっています。また、「ハピネスラボ」というポッドキャストの配信も行っており、人気を博しています。
世界経済フォーラムのポッドキャストのインタビューで、サントス教授は、自分の洞察が孤立感や気分の落ち込みを紛らわせるのにどう役立つのか、また、政府や企業がそこから何を学ぶことができるかを説明しています。
メンタルヘルスへの影響
今、精神的健康を保つための解決策が求められているのだと、サントス教授は言います。手洗いやソーシャルディスタンスなどの明確なアドバイスとは違い、自分がどう感じているかについてケアすることはあまり単純ではないからです。
「誰もが不安や不確実性を感じ、一種の恐怖に苦しめられています。人々は自分の気持ちを和らげるためにできることを探しているのです」と、彼女は言います。
「この授業では、研究により心の健康が改善されることが示されている、科学的根拠に基づいたヒントを得ることができ、それは、今すぐ実践することができるものです。」
パンデミックによるロックダウン措置でストレスや不安を感じている人に対する心のケアが必要なことは、データにも明確に表れています。
米国の世論調査会社、ギャラップが最近実施した調査によると、米国人の60%近くが不安を感じると回答しており、昨年の夏と比較すると20%も増加していることが分かりました。一方、自分の生活が豊かだと思う人の割合は49%弱と、2008年の金融危機以来、最低レベルに落ち込んでいます。
記録を追跡する
新型コロナウイルスの危機が広がる前に、サントス教授には、自らのアプローチをロードテスト(試運転)する機会が豊富にあったと言います。
2018年、イェール大学で「心理学と幸福な人生」という新設コースを開始したところ、瞬く間に同大学の歴史の中で最も人気の高い講座となり、学生の4分の1近くが受講するほどでした。この人気の理由を「学生が、科学的根拠に基づいてメンタルヘルスを改善する方法を探していたから」と彼女は言います。
30年の歳月をかけて、研究者たちが「幸せな人はどんなことをしているか」という疑問に根ざし、彼女のアドバイスの根拠となるエビデンス=証拠を収集してきました。効果的な3つの教訓とは…
1.社交的でいる
「調査では、幸せな人ほど社交的な傾向が強いことがわかりました」と、サントス教授は言います。
「社交的になることは、新型コロナウイルスの時代には難しいことです。ソーシャルディスタンスとは、大切な人たちと物理的に接触できないことを意味するからです。」
しかし、テクノロジーの進化がこれを解決してくれるのだと彼女は説明します。「この調査では、リアルタイムで交流できること、つまりZoomやFaceTimeのようなツールは、人と人がつながる上で大変強力なものになることが分かりました。」
「相手の表情を見て、声に込められた感情を聞き取ることで、本当に人とのつながりを感じることができるのです」
2.他の人を助ける
「幸せな人は本当に『利他主義』な傾向が強いです」と、サントス教授は言います。つまり、自分よりも他の人の幸せを優先するのだそうです。
「文化的に考えると、少々ややこしい話かもしれませんね」と、彼女は語ります。「『セルフケア』という自分を自分でケアする概念があります。しかし、寄付など他人に良いことをすると、自分の幸福感が高まるという調査結果があります。無作為に親切な行為をするのは、誰もが苦しみを感じる時代だからこそ、信じられないほど力を発揮するのです。そして社会全体に対してもポジティブな影響を与えます。」
3.今を生きる
言い換えると、「マインドフルネス」を実践することです。「幸せな人は、今この瞬間に意識を向けています。今の自分に意識を集中させているのです」と、サントス教授は語ります。
「瞑想は、今、自分の体の中で起きていることにだけ集中できるので、こうした危機の中では信じられないほどパワフルなツールになります。補充用のトイレットペーパーをどこで手に入れようか、高齢の親戚はどうしているだろか、と思い巡らさずに済むのです。」
企業と政策立案者
こうした幸福感に対するシンプルで力強い洞察は、個人だけでなく、企業や政策立案者にとっても意義深いものだと、サントス教授は主張します。特に、何百万もの人々がそれぞれに苦しみを抱えている状況においては、重要な意味を持つのだと言います。
「他の人のために行動することが自分たちの幸せにつながることを、企業も気付き始めていると思います」と、慈善団体を支援したり、売上の一部をチャリティに寄付したりするといった企業の取り組みを引き合いに出しました。
しかし、もっと幅広い意味での教訓もある、と彼女は考えます。「政策立案者にとって最も重要なのは、私たちが考える幸せの理論が間違っているかもしれない、と気付くことかもしれません。つまり、『とにかくリラックスして、セルフケアに集中する』ことが幸せに思えても、実際は友人とのつながりの方が自分の心を救うことになる、ということです。」
彼女は前向きなトーンで最後を締めくくります。「これまで私たちは多くの喪失を経験してきましたが、より良い社会を構築し、一人ひとりが個人的な生活の幸せにもっと焦点を当てるために、社会がひとつになって、私たちがするべきことに取り組める状態に準備が整ったのだと思います。」
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