新型コロナ危機にあえて立ち止まる:「ポスト・コロナ」時代に向け一人一人ができること
新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、日本経済を盛り上げると期待される東京2020年オリンピック・パラリンピックの延期が余儀なくされた。 Image: REUTERS/Issei Kato
パンデミックで苦しみが広がるなか、日本は、デジタル・トランスフォメーションに投資し、また長時間労働が当たり前という文化を見直す事となった。また、このパンデミックは、男性中心主義だった企業文化と家族の関係をも見直す「きっかけ」ともなっている。
東京が静かだ。新型コロナウイルスの感染拡大で、学校は休みになり、テレワークで混雑した電車で出社せずに済む人も増えた。イベントは中止になり、スポーツの試合も延期に。夜の飲み会も減っている。経済的ダメージは大きい。
帝国データバンクによると、新型コロナの影響で、クルーズ船、旅館、学習塾、観光企業などの倒産が相次ぎ、負債額が12億円を超えた企業もある。
同社が全国1万社以上から回答を得たところ、63%以上の企業が「業績へのマイナス影響」を予測した。
これからの私たちは、残念ではあるが、「日本経済を元気にする」と期待を寄せていた「東京オリンピック・パラリンピック」が一年後に延期された影響についても、対応していかなければならない。
その分、働き方を改めて、テレワークやビジネスのオンライン化で経済を回しつづける。在宅勤務が増えることで、家族との関係の変化にも対応して行く。
それぞれの会社、団体、そして一人一人ができることは何か。
私たちは否応なしに、「ポスト・コロナ」時代に向けた準備を迫られている
「僕ができることはリモートでも、仕事を続けること」
「大変な状況のなか、個人としてできる事を考えています…」
在宅勤務中のある大手企業の30代社員に聞くと、そんな答えが返ってきた。
2月下旬、会社の在宅勤務が決まった。その分、スマホのチャットやオンライン会議で仕事を進めている。会社にとっても初めて事だ。オンラインツールが苦手な年配の上司の手助けもしているという。
「オンラインで仕事ができると、もう何か月も上司に訴えてきました。皮肉な事に、新型コロナウィルスの感染拡大をもって、初めて技術を活用することになりました」。
日本経済新聞が国内の主要企業140社近くに聞いたところ、約5割の会社が原則または一部で在宅勤務に切り替えたと答えた。
日本では、長期労働をはじめ、夜の会食、認められるために必要な残業、数十年にわたって当たり前だった。この働きすぎ文化を、ウイルスが変えようとしている。企業は、リモートで仕事をする事が可能である事にようやく気付いたのだ。
パナソニックやユニ・チャームなど大手企業の在宅勤務の動きが連日ニュースになった。
思い切った対応を取り、経済を回し続けようという意思を感じる。
厚生労働省は、テレワークを新しく導入する中小企業に対する助成金もつくった。
経済が戻らないと弱い人にしわ寄せがいく
クラウドファンディング企業のREADYFORは、感染拡大の影響でイベントを中止した企業やアーティストらがネットで支援金を募れる仕組みを発表した。通常は12%の手数料を5%に引き下げ、損失のダメージを少しでもやわらげる。
コロナ対策は医療面だけでなく、経済活動を止めないことも大事だ。景気が悪くなれば、倒産や解雇が相次ぎ、弱い立場の人にしわ寄せがいく。
だから、コロナが終息した後にビジネスをいち早く通常モードに戻して経済的ダメージを最小限に押さえ、雇用を維持しなければならない。
イベントのオンライン化。参加者50人の予定が6000倍に
オンラインでマンガを配信したり、家庭教師のレッスンをおこなったりする幅広い分野の企業が次々とあらわれた。経済産業省はLINEヘルスケアやMediplatと組んで、オンラインで健康相談ができる窓口を開いた。
私たちハフポスト日本版も、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で感染者が広がっていた2月22日、あるイベントを予定していた。
覚醒剤に関する議論をするイベントだ。
リアルなイベントとしては50人の参加者を見込んでいたが、オンラインでは30万の視聴があった。6000倍の人数だ。
「薬物依存」ということで、リアルな場ではまだ顔を出しにくい当事者の関係者や東京の会場まで足を運べなかった方からの熱い感想も届いた。
当初の参加者やゲストの方には大変迷惑をかけたが、場所や顔を合わせることにとらわれない「ネットの良さ」を再発見した。
「就活のオンライン化」で日本型採用は変わるのか
新型コロナは採用にも影響を与えている。USEN-NEXT HOLDINGSは、グループでの新卒採用で、会社説明会から最終面接までのすべての選考プロセスをオンラインで行うことを決めた。
「就活生の健康」を第一に考えてのことだが、わざわざ何度も学生に会社まで足を運ばせるような、画一的な日本企業の「面接のあり方」への問題提起にもなっていると感じた。
在宅勤務で「夫婦の家事時間」を考える
新型コロナを機に、家族のあり方を考え直している人もいる。夫婦で企業広報支援の会社「シプード」を経営する舩木真由美さん。
「家事は私が6割、夫が4割だったが、いまは完全に逆転した。夫が6割やります。
日本では、家事に費やす時間は、女性が一日263分、男性は37分という調査結果が、国立社会保障・人口問題研究所から発表されている。女性の方が、「家庭と職場の両方」で責任を負っている。
フリーランスのエディター/ライターの宮本恵理子さんは、休校中の8歳の息子が楽しんで家事をやるように「お風呂掃除」や「床をふく」などの「カード」を選んでもらうゲームを考えた。
「日本の男性が家事に費やす時間が少ないのは、家事教育が影響しているはず。息子には、家事力の高い大人に育ってほしい」と宮本さん。
私がここまで書いたいくつかのエピソードは極小の「スケッチ」に過ぎない。
マクロの数字で見れば、日本社会や経済にとってのダメージは大きい。世界的に亡くなる人が増え続けていて、いつ終わるか分からない不安が覆っている。
それは「東京オリンピック」のような大きなインパクトはないかもしれないが。
経済を回し続け、弱い立場の人を支援し、さらに個人個人が自分のライフスタイルを見つめ直して、なんとか対応する。健康管理をしっかりすると同時に、できることを地道にやって行く。生命に関わる方への医療支援に加えて、こうしたことが求められているのではないか。
歴史的に、感染症は何百万もの命を奪う一方で、社会的インパクトから、文化の革命をも引き起こしてきた。アイザック ニュートンがロンドンで感染症が蔓延する中、故郷に戻って「ソーシャル・ディスタンス」を取り「あの木」の下に座っていたように。
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