「コロナショック」に高まる不安、5つの緊急対応策
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、株安が止まらない。 Image: 2020年 ロイター/Athit Perawongmetha
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、株安が止まらない。2008年のリーマンショックと比較すると、今回の「コロナショック」は感染拡大がどこまで続くのかわからないという点が特徴となっており、「下がったら買い」という市場の定石が通用しない。政府は五月雨的に対策を表明しているが、それがかえって「場当たり」の印象を与え、混乱が拡大しているようにさえ見える。
そこで私は、ウイルス感染に関する国民の不安を沈静化させる方策と、資金繰り倒産を極力回避するための流動性対策を合わせた5項目の「緊急対応策」を早急に示すことが、何よりも不安感の沈静化に役立つと強調したい。
1つ目は移動制限
政府が25日に公表した新型コロナウイルス感染症対策の基本方針には、肝心の項目が欠けていた。それは感染症の発症が集中している特定の地域での「移動制限」だ。イタリアでは、新型ウイルスの感染拡大が続く北部のロンバルディア州とベネト州で移動制限が実施された。約10万人が影響を受けるとの報道もある。
日本では、対応する根拠法がないとの指摘もあるが、2013年に施行された新型インフルエンザ特別措置法を今回の新型ウイルス感染症にも適用すれば、移動規制のかなりの部分をカバーできると思われる。
どうしても新法が必要であれば、開会中の通常国会に緊急提案して成立させるべきだ。その間は、政府の「要請」ということにならざるを得ないが、感染症の拡大防止という緊急性を政府が国民に説明し、理解を求めるべきだと考える。
特定地域の移動規制による感染防止が、1つ目の項目である。
2つ目はPCR検査の拡大
2つ目は、DNAレベルでのチェックを行うPCR検査の規模を大幅に増やすため、保健所経由の検査を義務付けている現行の手法を改め、一般の医師が必要性を認めた患者の検体を民間の検査機関でチェックできるようすることだ。
26日の衆院予算委で加藤勝信厚生労働相は、今月18日〜24日のPCR検査実施件数は約6300件と述べた。1日平均では約900件になる。これに対して、韓国の検査実施数は27日までに約6万7000人にのぼった。1日平均の処理は5000件〜6000件は可能と衛生当局が説明しているという。
加藤厚労相は27日の衆院予算委で、来週中にも検査の費用を公的保険の適用対象とする方向で調整すると述べた。PCR検査の民間検査を事実上認めた発言と受け止められるが、保健所の関与を残すのではないか、との見方もあり、政府ははっきりと民間検査の容認と、医師が認めた患者の全員検査の方針を明確に打ち出すべきだ。
それによって、今の段階で国民の間で存在している不安感を低下させることができる。不安感を少しでも減らすことが、何よりも大切である。
3つ目は効果の望める薬の増産
3つ目は、アビガンなど効果が出てくる可能性のある薬剤を一刻も早く、一般の医師が処方できるようにすることであり、厚労省は関連規制を修正するべきだ。
また、米製薬大手ギリアド・サイエンシズ(GILD.O)は26日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されている同社の抗ウイルス薬「レムデシビル」について、2件の後期臨床試験を開始したと明らかにしている。
このような海外での新薬開発の情報も、迅速に把握しながら、厚労省は効果の可能性のある薬剤の使用に関し、柔軟に対応する方針を明確に打ち出すべきだ。
仮にアビガンなどの効果がはっきりしてくれば、製造元に政府は増産を要請し、重症化や感染数の激増を抑制できる道の確保を図ってほしい。
4つ目は強力な流動性対応策
このように新型ウイルスの感染拡大防止に向け、明確な手を打っていることを国民に分かりやすく示すことが、今回のような危機ステージでは極めて重要だ。この部分をなおざりにして、財政・金融政策での対応策を打ち出しても、底の抜けた浴槽にお湯を注ぐようなものだ。
という前提で、4つ目は経済的な対応だ。このコラムの多くの読者はすでに感じていることだと思われるが、観光関連のビジネスでは、2月以降の売上高が激減しているところが少なくない。売り上げが大幅に減少しても、必要なランニングコストはかかるので、「水揚げ」のない日が続けば、短期間で資金繰りが苦しくなってしまう。
そこで、政府は「非常時」との認識に立って、資金繰りの窮した企業が銀行から緊急の借り入れができるよう「保証」を付ける政策的な対応を早急に打ち出すべきだ。政府が今月13日に表明した「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」の中でも、流動性対応策は盛り込まれているが、観光業等の中小企業・小規模事業者に対象が限定されている。
売上高の大幅減少は観光業に限らず、幅広い業種に広がっており、限定を外して広範な対象で緊急借り入れが可能になるような大規模な「流動性対応策」を打ち出すべきだ。
日銀も必要に応じ、流動性供給を適宜適切に行って、3月末に資金繰り倒産が頻発しないよう目を光らせる必要がある。
5つ目はドル資金不足への対応
5つ目は、ドル資金の不足に対応する政策である。日銀の超金融緩和策の効果で、確かに国内における円資金は潤沢に存在し、本質的な意味での緊急危機が発生するリスクは抑制されている。
しかし、インバウンドへの「逆風」でこれまで潤ってきた広い範囲でのサービス業の経営が悪化のリスクにさらされているのは間違いない。こうした中で外資系銀行は、一部の国内銀行のドル貸し出しの許容度を引き下げているとみられ、一部の国内銀行ではドル資金不足を背景に、オープンマーケットでドルを取り上がろうとする動きを見せている。
日銀はドル資金の需給を丹念にウオッチしているとみられるが、需給タイトの兆しが見えれば、ドル資金供給オペを打つなどの対応をすべきだろう。
以上の5つの項目で構成された「緊急対応策」を打ち出し、何より日本国内での不安感を可能な限り、小さくすることが重要である。まずは、こうした日本国内でできる対応策を実行した上で、世界的に感染が一段と増加するのか、終息までにどの程度の時間がかかるのかを見極めるべきである。
もしも、不幸にしてコロナショックが長期戦の様相を示しても、「持ちこたえる」ことができる体力と体制を整えておくことが喫緊の課題である。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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