仕事と働き方の未来

日本の課題は生産性引き上げ、衰退阻止へクラウド活用

日本生産性本部によると、日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟36か国中21位にとどまり、主要7カ国(G7)の中では最下位が続いている。写真は1月23日、東京で撮影

日本生産性本部によると、日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟36か国中21位にとどまり、主要7カ国(G7)の中では最下位が続いている Image: 2020年 ロイター/Issei Kato

Kazuhiko Tamaki
Columnist, Reuters

2020年の日本経済にとって、極めて重要なチャレンジは生産性の引き上げだ。少子高齢化の流れが止まらない中で、国内総生産(GDP)を維持し、引き上げていくには生産性の引き上げが不可欠となる。それによって賃金引き上げの「下地」を厚くし、縮小均衡への転落を阻みたい。生産性が低いと言われ続けている中小企業へのクラウド導入を大幅に促進し、国内経済の底上げを図ることが重要である。

G7で最も低い生産性

2019年末は暗いニュースが多かった。24日発表の人口動態統計の年間推計によると、2019年の国内出生数は1899年の統計開始以来、初めて90万人を割り込み、86万4000人にとどまった。

また、日本生産性本部は18日、2018年のデータから算出した日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟36か国中21位にとどまり、主要7カ国(G7)の中では最下位が続いていると発表した。

GDPを押し上げるうえで重要な生産年齢人口は減り続け、18年10月時点での推計値は7545万人と総人口の59.7%にとどまった。今回の出生数の減少は、将来の生産年齢人口の減少幅を一段と大きくさせかねない。

この「潮流」に抗してGDPを増やすには、生産性を上げるしかないが、それが国際比較で低い。

生産年齢人口に限定した生産性は米国を上回るという試算もあるが、高齢者を含めた日本全体で国富を増加させるには、今以上の生産性向上に挑むしかない。

クラウド未開の中小企業

そこで注目したいのは、中小企業の生産性を底上げして、それを「起爆剤」に日本全体の生産性を引き上げることだ。

中小企業庁によると、日本の企業数の99.7%が中小企業で占められ、従業員数も75%を超えている。一方、時間当たりの労働生産性は、製造業では大企業の50%後半、情報通信で60%台にとどまっている。卸・小売業、サービス業では90%台となっているが、それは、この分野の大企業の労働生産性が製造業などに比べて大幅に低いためだ。

この現状を踏まえると、中小企業の生産性向上が、日本全体の行方を左右すると言える。

総務省が2017年にまとめた報告書によると、中小企業の3割超が手作業で会計処理を行い、約4割で給与計算にITが導入されていない。この「窮状」を打破するにはIT化の導入が不可欠だが、システムの初期投資を資金的にカバーできないなどの理由で、手作業を継続している企業が少なくない。

そこで注目すべきは、システム開発などの初期投資が不要なクラウドシステムの導入である。ソフトの開発やシステムの運用・保守作業などは専門の企業が対応するため、「自前」で対応する部分は大幅にカットできる一方、業務効率はかなり向上する。

特に労働生産性の低い卸・小売業、サービス業では、大幅な効率改善が見込まれる。

このような変化は、多方面に好影響を波及させることができる。従来から米中に比べ、日本には「生きのよい」スタートアップ企業が少ないと指摘されてきたが、クラウド管理に関連した企業の売上高が急増している。会計ソフトや予約台帳サービス、施工管理サービス、名刺管理サービスなどの企業が、クラウドサービスの「黎明期」におけるビジネスチャンスをしっかりとつかんで成長しているのは心強い。

また、ITを導入して従来とは全く異なったサービスを提供しようという試みも始まった。横須賀市と京浜急行電鉄(9006.T)、NTTドコモ(9437.T)は今月9日からAI(人工知能)運行バスの実証実験をスタートさせた。

横須賀市内のバス路線がないエリアで、スマートフォンのアプリなどで利用者が配車予約し、AIがリアルタイムに乗車できる車両を決定し、時刻表に縛られない運行を展開する。

こうした実証実験の積み重ねで、社会の効率性が高まっていけば、日本全体の生産性引き上げに「光明」が見えてくるかもしれない。

生産性上昇で見える賃上げ

生産性の引き上げにこだわる理由は、日本の賃金が国際比較で次第に劣位に甘んじる状況になっているからだ。

全国労働組合総連合(全労連)が経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに実質賃金指数を比較したところ、1997年を100とした2016年現在のデータでは、米国115.3、英国125.3、ドイツ116.3に対し、日本は89.7となっている。

また、国税庁の民間給与実態統計調査によれば、平均給与水準は1997年の467万3000円がピーク。2013年以降は前年比プラスが継続し、17年と18年は同2.5%、2.0%と伸びが大きくなったものの、18年の平均給与水準は440万7000円にとどまっている。

賃金を引き上げなければ、海外との人材獲得競争で負け、ビジネスの将来に暗い影を投げかけるだけでなく、前年比プラス0.5%前後で推移している消費者物価の上昇率も上向かない。

賃金を上げるには、生産性の引き上げが不可欠であり、政府は成長戦略の最優先課題として、中小企業を中心にクラウドシステムを導入した場合には、税法上の優遇も行うべきだ。

また、極めてい重要な係数である「生産性」のデータを政府が把握し、公表していないという現状は、早急に改めるべきである。

生産性の引き上げと賃金の上昇というトレンドが数年後に明確になれば、企業が貯め込んで増え続ける利益剰余金も、反転して減少する基調になると予想する。

2018年の1人当たりGDPは、世界ランキング9位の米国6万2868ドルに対し、日本は62%相当の3万9303ドルと26位に低迷。27位のイタリア、28位の韓国から猛追を受け、近い将来に逆転される可能性もある。

生産性の引き上げが軌道に乗れば、足元でのこうしたトレンドを変化させることができる。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。

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