2020年にアジアのGDPは世界最大に。これが意味するものは
予想では2030年には世界の成長の約60%がアジア発となる Image: REUTERS/Issei Kato
- 企業は、急速に成長しつつある中流階級の消費者行動と、その特徴の変化に適応していく必要があります。
- 政策立案者は、持続可能な方法によって地域の成長を実現する方法を見つけなければなりません。
- 第四次産業革命がもたらしたデジタル変革と労働の変革に関わる課題に、貧困とインフラの欠如が追い打ちをかけています。
アジア地域のGDPは、2020年にはアジア以外の世界各国のGDP合計を追い抜き、2030年には世界の成長の約60%を占めると予想されています。アジア太平洋地域はまた、世界経済に新たに参入する24億人の中流階級の圧倒的多数(90%)を占めることになります。
中国、インド、そして東南アジア全体の開発途上市場が、アジア太平洋地域の成長の大部分を占めることになり、これは企業、政府、NGOにとっては、新たに多くの決定を下していくことを意味します。これらの国と地域は、多数の社会的および経済的問題の解決を念頭に設計された公平な方法で、アジアの発展を導いていかねばならないという圧力に直面しています。
国によって異なる見通し
上述の推定値は、消費の大幅な成長を見込んでいますが、実のところ市場全体の消費パターンの現れ方はさまざまであり、成長率は、地元の人口統計やその他のマクロ要因によって変化します。たとえば、「急成長する消費者市場における消費の未来」と題された世界経済フォーラムのレポートが示すように、中国の高齢化は、「人口ボーナス」にマイナスの影響を与えますが、賃金上昇、都市への人口移動、サービス業への就業、今後予測される家計貯蓄率の低下は、消費を押し上げます。インドでは、巨大な人口ボーナスと急成長する中流階級が消費を促進し、経済成長を支援するでしょう。
一方、インドネシア、フィリピン、マレーシアでは労働力が大幅に増加し、一人当たりの可処分所得が増加すると見られています。同地域では、デジタル経済の急速な発展によって、これまでサービスを利用できなかった人たちにサービスが新たに提供され、利便性と効率を求める消費者のニーズに応えることができています。
新しい消費者の姿
これらのマクロ要因はすべて消費の二極化につながるものであり、消費者の支配力が増大すると同時に、消費者は、コストパフォーマンスが高くて上等な商品とサービスを求めていくようになります。将来の消費者は、これまでよりもはるかに目が肥えていくと考えられます。つまり、消費するもの(個人向け/ローカライズ/ヘルシー/持続可能)から買い物をする場所(オムニチャンネル、自分の都合に合わせた買い物)、そして影響を受ける対象(企業の影響が減少し、ソーシャルメディアなどが増加)に至るまで、一層、消費者としての識別力を示していくでしょう。
地元および地域のプレーヤーの進出
これから重要性が増すと考えられる傾向のひとつは、地元企業や反主流派の企業が既存企業よりも速いペースで成長し、市場を混乱させ始めていることで、これは先進国市場と開発途上国市場の双方で見ることができます。地元の企業は機敏で、独占的アクセスと地元の知名度を利用して勝利を収めています。たとえば、ワルダはハラールに準拠した化粧品に取り組むことによってインドネシア市場で30%のシェアを獲得しました。
地元企業のもうひとつの利点は、短期的な混乱への対応にあります。インドネシアのあるコングロマリット(異業種で構成された複合企業体)は、四半期または年ごとの業績変動に惑わされずに長期的な視点で物事をとらえて投資を行い、それを堅持するという観点を経営陣が持っています。
また、テクノロジーにおけるファーウェイ、銀行業ではDBS、パーソナルケアのユニチャームと花王、食品・飲料のサントリー、ユニバーサルロビーナ、インドフードなど、アジアの多国籍企業の台頭も続いています。2019年時点で、アジアにおけるユニコーン企業は140社以上になり、起業家精神はピークに達しています。人工知能と深層学習における特許数では、中国が一位となっています。
企業が自問すべき質問は
アジア時代の到来、そして企業が意欲や取り組みを強化していく中、企業はいくつかの基本的な質問を自らに投げかけていく必要がありますが、中でも重要な点を紹介します。
- 活力に満ちたアジア太平洋地域に合致した、「未来を先取りする」戦略、つまり未来を想像し、10年または20年後の競争に参加できる会社としての取り組みがあるか
- 将来性と競争力における優位性、そしてビジネスモデルを構築しているか
- 消費者は何を望んでいるのか、どのような新製品が消費者のニーズに応えるのか、消費者を引き込み、その要求を満たす最善の方法は何かデータをどのように取り扱うか
- 地球の資源をこれ以上奪うことなく、消費ブームを支えることができる、持続可能な行動計画を持っているか
- この空前の機会を最大限に活用するために、機敏に組織を編成していく方法はどのようなものか
変革しつつある雇用市場
デジタル世界の基準に追いつくため、アジア太平洋地域の開発途上国の政府は、こぞって貧困やインフラ不足などの重大な障害の克服に向けて尽力しています。市場全体のデジタル化と第四次産業革命は、既存の雇用に取って代わり、この過程において各部門における雇用配分は大きく変わるでしょう。
たとえば、高齢化によって医療・ヘルルケア分野で雇用が増加すると予想されますが、製造、輸送、保管などの労働集約型部門では、自動化によって雇用水準が低下する可能性があります。ASEANだけで5300万人の労働者のリスキリング(再訓練)が必要になると予想されています。この力学はギグ・エコノミーの台頭によりさらに複雑化しており、教育を受けた有資格者が、客引きをする運転手やフードデリバリーの配達員として雇用される事態にもなっています。
持続可能性に向けた新たな焦点
アジア太平洋地域の政府やNGOが抱える課題として、持続可能性とその環境面、社会面、経済面への影響といった問題が重要性を増していくでしょう。企業の制度的な定義と業務の範囲は、健康とウェルネスから多様性と平等の機会までのさまざまなテーマを網羅する形で拡大し続けます。投資家も各自の役割を果たさなければなりません。アジア太平洋地域の大手投資家の多くは、石油やガス、鉱業、農産物などの一次産業から、環境的、または社会的ニーズに対応するビジネスモデルへの投資に切り替え始めています。例えば、再生可能エネルギーや、十分な医療サービスを受けていない人々が利用しやすい営利目的の病院ネットワークなどへの投資です。
政府にとっては微妙なバランス
このような将来が展開していく上で、政府はいくつかのことを正しく行っていく必要があります。各国政府は、貿易と投資家を支援する改革を実施し、社会的および財政的なインクルージョンを促進し、インフラのハード面とソフト面に投資し、官民パートナーシップを確立していく必要があります。競争力のある適切なスキルを持つ労働力を確保するためには、教育における革新と改革を実行していかなくてはなりません。このような取り組みの実施においては、技術の進歩と雇用の創出や人材のリスキリング(再訓練)、経済発展と持続可能性、およびスケールメリットと権力の集中、これらの間のバランスを取っていく必要があります。東南アジアの能力が成長の可能性に対応していけるかどうかは、それに大きく依存しています。
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