第四次産業革命が「経済」を再定義する
世界経済の需要の大半は中産階級が作り出している。 Image: REUTERS/Thomas Peter
今の経済の枠組みを根本から覆す第四次産業革命。誰がどのようにして富を作るのか、その答えに変化が見られます。人口構成は変化し、現代社会を作り上げてきた技術そのものも変化しました。今や、経営者や政策立案者は、自分の会社や顧客、あるいは有権者が直面する変化とリスクに責任を持つ必要があります。
第四次産業革命という大改革の中、喫緊に取り組むべき経済の枠組みのトップ3は、「所得創出」、「労働力率」、そして「国内総生産(GDP)の評価方法」。変化に立ち向かうために、これらのテーマをひとつずつ解き明かし、その意味を考え直していきましょう。
自動化が進む世界での経済成長
今後、富はどのように作られるのか。その鍵を握っているのが、現在、世界人口77億人の50%以上を占める中産階級です。
貧富の差や中産階級の成長率は、国や地域により異なります。中産階級の市場成長率は、欧州や日本のような先進諸国が年に0.5%なのに対し、中国やインドなどの新興国では6%。今後最も際立つのは、おそらくアジア中産階級の成熟でしょう。まもなく、世界中の中産階級の88%をアジアが占めることになります。
この変化は、歴史の転換点を意味しています。つまり、貧困層はもはや世界の多数派ではないのです。その地位は今や、世界経済の需要の多数派でもある中産階級に譲られました。
ほぼすべての技能レベルの労働者が、失業や先行きの不透明さを不安視する中、唯一明確なことがあります。それは、副業、フリーランス、独立業務請負業、単発仕事請負業(ギグワーカー)などの新たな労働形態に、労働者がますますシフトしていくということです。
インターネットを通じて単発の仕事を請け負う働き方や、それによって成り立つ経済形態「ギグ・エコノミー」の全世界における規模は、金額で見ると、現在2,000億ドル超。2023年までには、この倍以上の約4,550億ドルにのぼると見込まれています。
現在、新しい働き方で収入を得ている労働者のうち75%以上が、自らその形態を選択した人たちです。ギグ・エコノミーの女性労働者の86%にとって、フリーランスという働き方は、生計を立てるだけでなく、男性と平等の賃金を得る機会にもなっています。
従来型の働き方で、賃金が男女平等であると実感する女性フリーランサーは、41%に過ぎません。世界の平均的な男女間賃金格差は16%なので、41%という調査結果は大きな可能性を示しています。格差を解消し、ジェンダーパリティ(ジェンダー公正)を達成すると、世界経済が12兆ドル成長するとも言われています。
世界でギグ・エコノミーに火が付いた理由
ギグ・エコノミー台頭の要因は実にさまざま。グローバリゼーションの進展や技術の進歩、教育現場や組織が無気力で発展性がなく、労働需要の変化に付いて行けていないことなどです。
このような要因の影響を受けるのは、新しい働き方をする労働者だけではありません。今はまだとしても、いずれ、男女問わずあらゆる業界の労働者が、第四次産業革命がもたらす変革を体験することになります。
世界の企業の約50%が、2022年までに、自動化のため正社員の数が今より削減されると見込んでいます。また、仕事をやり遂げるための技能向上やリスキリング(再訓練)が必要な被雇用者は、同年までに54%以上にのぼると予測する調査もあります。
経済がジェンダーパリティ(ジェンダー公正)にメスを入れる
これからの労働に、テクノロジーが果たす役割については否定することができないでしょう。それどころか、労働はテクノロジーに左右されるでしょう。それでも、テクノロジーとこれからの労働が、世界人口の半分を占める女性にどう影響するのかを考えない限り、議論は終わりません。
平等性の問題はともかくとして、女性は世界の全労働力の39%を占めるほか、97か国における大学生の過半数を占めています。未来の労働とジェンダーパリティ(ジェンダー公正)を共に考えていかなければ、ダイナミックな新しい経済に備えようとする企業や政府の取り組みは骨抜きになってしまいます。
今後20年で、自動化により削減される労働力は女性では11%に対し、男性は9%に過ぎません。この理由は簡単です。全世界の労働力に女性が占める割合は半分未満であるにもかかわらず、女性が携わる比率の多い仕事(秘書、レジ係、ファストフード店員など)は、男性の仕事に比べて自動化によって置き換えられる可能性が70%高いからです。
このようなデータは、テクノロジーとロボットが「men’s work(人間/男性の仕事)」を追い抜くと表現しがちなメディアが持ち出すストーリーとは対照的です。
テクノロジー関連の労働では、いわゆる「ハイリスク」な、給料の高い仕事でも女性は置き去りにされています。2015年、情報通信技術(ICT)のスペシャリストの数は男性が女性の4倍で、ICT専攻の大卒者の数では女性は24%に過ぎませんでした。別の例を挙げると、オープンソース・ソフトウェア企業が行ったある分析では、ソフトウェア著作者の女性の割合は15%でした。
全世界で4,000万人の労働力が不足している今、世界の半分の国では、大学生の過半数が女性です。
労働力の変化や技術の進歩を考えると、テクノロジー分野のジェンダー格差という現実は、政策立案者と経営者に警鐘を鳴らしているはずです。男性が女性より高給を得ているのは、デジタル技能が高いからだと言っても誰のためにもなりません。何かを変える必要があるのです。
第四次産業革命によるデジタル経済の成功を評価する
第四次産業革命によって、世界経済がどう変わるのかを考える上で大切なのは、その成功をどうやって評価するのかを検討すること。現在、経済成長の指標となっているのは国内総生産(GDP)です。GDPは形のあるものの生産額を算出するもので、政策立案者はGDPを基に意志決定事項を発表します。
製造業を中心とする社会では、GDPは業績を示す指標となりますが、サービスやテクノロジーへの依存が高まる世の中では、複雑な経済をGDPでは的確にはつかめません。
過去30年、デジタル・テクノロジーへの投資1ドルにつき、GDPは20ドル成長しましたが、非デジタル・テクノロジーへの投資1ドルについては、3ドルの成長にとどまっています。2025年までには、世界のGDPのほぼ4分の1(24.3%)が、AI(人工知能)やクラウドコンピューティングなどのデジタル・テクノロジー由来となるとされています。しかし、ネットワーク、データ、サービス、インテリジェンスなどの無形資産の価値を正確に把握できない場合、この推算は正確と言えるのでしょうか。
第四次産業革命による経済成長の評価をGDPに依存すると、生産物として捉えたテクノロジーにはデフレ効果があるため、政策決定にはマイナスになります。
そこで、GDPに代わる経済健全性の評価指標を使うべきです。マサチューセッツ工科大学(MIT)で考案されたGDP-Bの、Bはデジタルの製品やサービスから消費者が受け取るbenefit(便益)を換算した値です。ウィキペディア、インスタグラム、グーグルマップなど、無料のデジタルサービスの使用に、消費者はいくらまでなら支払うかという金額をアナリストが見極めて、Bの価値を算出します。
ジェンダー格差を測定する国際指標として、国連が「ジェンダー開発指数」や「ジェンダー不平等指数」といった「ジェンダー・レンズ(ジェンダーの視点)」を取り入れているように、私たちもデジタル経済のGDP-Bにジェンダー・レンズを加えるべきです。人口の50%が貧苦にあえぎ、残りの50%が裕福になっても、果たして社会の進歩と言えるのでしょうか。
第四次産業革命の時代にリーダーたちがやるべきこと
経済変革の波に適応するために、政策立案者と経営者は、男女を問わず誰もが置き去りにならないように、以下のガイドラインを考慮しなければいけません。
第一に、デジタル経済における労働というものを再定義すること。拡大するギグ・エコノミーにはどんな労働が含まれるのか。労働者の健康を守るためにどんな社会保障が行われているのか。遠隔地や非正規の環境で、労働者の安全をどのように守るのか。
第二に、就業人口の変化を考え、未来の労働力を支える解決策を作ること。
第三に、政府と企業が、労働力の再訓練をいち早く進めるために、今すぐ行動すること。たとえば、米国政府が199億ドル投資すれば、テクノロジーに代替された労働力の4分の3以上を再訓練でき、税収の増加や社会保障費の削減という形で投資収益を生み出せます。
最後に、これからのあらゆる意志決定にジェンダー・レンズを取り入れること。ジェンダー・レンズを取り入れることは正しいことだからというだけでなく、ジェンダーパリティ(ジェンダー公正)が、世界経済を12兆ドル成長させる機会をもたらすからです。データ収集にあたっては、性別ごとのデータを収集すること。また、労働者を再訓練し、新しい技術を習得させる際は、女性が置き去りにならないようにするべきです。
第四次産業革命の課題への取り組みは、あらゆる人々の経済のパイ(総量)を拡大させ、インクルージョンに向けて歴史の流れを変えることもできます。インクルージョンがあるからこそ、私たちは強くなる道を選べるのです。
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