中国をはじめ、急速に高齢化が進む国々が経済の未来にヒントをもたらす
人口動態の変化と政策決定を結びつけるべき時代がやってきた-中国と日本の例から学ぶ Image: Reuters
世界のGDPの80%以上は、高齢化が急速に進行する国で生み出されています。高齢者がどのように直接的および間接的に自国の経済を形成しているかという点は、今後、世界全体と各国の政治経済のトレンドを、特に政治的な意味において理解する上で、重要な要素になります。
北東アジアでは、すでに高齢化が顕著になっています。日本は、世界の高所得国の中で最も高齢化が進行しており、中国も、新興国でありながら高齢者人口が世界で最も多く、高齢化はますます加速しています。
そして、移民流入の傾向が低い両国を比較することは、高齢化に関連する経済の問題に対処する上で役に立ちます。さらには、世界のGDPの大半を生み出す国々が急速な高齢化の時代を迎える中、日本と中国以外の国々が潜在的な危険の一部を回避するのにも役立つかもしれません。
富裕高齢国、日本
今年6月、日本は、初の議長国を務めたG20サミットにおいて、人口動態を優先議題に含めました。超高齢化社会として知られている日本は、総人口に占める0~14歳人口の割合が極めて低い国と地域に含まれており、香港に次いで第2位です。この先には、高齢化だけでなく人口減少の時代が控えており、その結果、憂慮すべき政策課題が予想されています。
前日銀総裁の白川方明氏が最近述べたところによると、日本の当局者は、長期にわたり続くデフレの最大の原因は、人口動態ではなく経済政策にある、との誤った判断を下してきたとのこと。この原因の特定が遅れが、その後の政策課題を一層深刻化させたため、白川氏は、他の国々に対して日本の過ちから学ぶよう訴えかけています。
また、BNPパリバが最近発表した報告書によると、世界的な高齢化により、1990年以降、自然利子率は約2.6%低下し、今後も高齢化は進む傾向にあるとのことです。
高所得国、および同じく急速に高齢化が進行している多くの開発途上国(上の図表で赤と黄色で示した国と地域)は、危機感を持って白川氏の見解を受け止めるべきです。同様に、急速に高齢化が進行している高所得国は日本だけにとどまらないため、高齢化対策の何らかの指針として、日本の例を使用し、これに従って早期に政策を調整することは他の国々にとって有効でしょう。
調査する分野には、高齢者の生産性を支援するための介入のほか、縮小する労働力と高齢者の介護費用によって、高まる労働年齢人口への負担を考慮した税制の調整が含まれる可能性があります。人口減少がさらに深刻な場合は、政策を立案する上で、日本の政策当局者が直面しているように、全く新たなレベルの複雑な問題が再び生じるでしょう。
貧困高齢国、中国
中国は、まだ新興国ですが、30年以上続いた一人っ子政策が2015年に廃止されて以降、国民の出生率は、北東アジアの高所得国(日本、韓国、香港、台湾、シンガポール)の人口置換水準を下回る水準に急速に収縮しています。中国では、寿命の急速な伸長、世界最多の人口、および比較的低い定年退職年齢(女性が55歳、男性が60歳)に加え、退職者人口も最も多く、2017年には60歳以上の高齢者が約2億4,100万人に達しました。
国家開発に関する中国の政策論は、同国の人口動態特性と同様に独特です。日本とは対照的に、中国では、国家開発の見通しに懸念を抱く政策当局者が、人口動態の変化が自国の経済に与える影響を30年以上にわたって調査し、調整を行っています。
具体的には、1980年代初頭の一人っ子政策実施後に、これにより発生した可能性がある問題について調査を開始しました。目的は、中国の発展の見通しに対する好影響と悪影響を評価することでした。1979年末には、当時の中国指導者、鄧小平氏による「改革開放」政策の開始に伴い、経済の近代化は政治の最優先課題となっていました。
人口統計学者のCangping Wu氏が主導した研究による調査では、高齢化社会を迎える前に中国が「富裕国」になれる見込みはない、との見解が示されました。豊かになるより先に「高齢化」するという懸念そのものが国家の近代化を阻む恐れがあるため、それ以降、中国の政策当局者は「早期高齢化」が国家の経済的成熟の見通しを妨げることがないよう細心の注意を払っています。
例えば、国家財政や次世代の納税者への負担が重くならないよう、年金の見込み額を極めて低い水準に抑えたり、次世代の労働者がその両親よりも高水準の教育を受けられるよう、あらゆる対策を講じたりしています。中国の高齢化が加速し始めた場合、労働人口の割合も低下することは早い段階で認識されていました。そうなると、賃金水準が上昇するため、これらの将来の労働者は、生産性をさらに高め、より高度な経済セクターに参加する準備を整える必要があります。国家発展のために生産性を高めるのは言うまでもありませんが、これは、単に生産性の水準を維持するのが目的です。現在、中国では、平均的に若年人口が高齢人口よりもかなり高い教育を受けていることが、教育達成度の統計に実際に現れています。こうした現象は、日本などの高齢化が加速している高所得国ではそれほど顕著には見られません。
同様に、中国の政策当局者は、比較優位が経時的にシフトしていることを明確に認識しています。中国では、国内の賃金水準が低く、労働供給量が豊富だった1980年代と1990年代には、政策当局者は労働集約型の製造業への外国投資に対するインセンティブを与えました。その後、これらの優位性が失われると、インセンティブもサービス・セクターやハイテク・セクター、さらには研究開発にシフトさせてきました。
つまり、中国の政策当局者は経済戦略だけでなく、経済人口動態戦略も有していたのです。このことから、中国は早い段階から経済の変化と人口動態の変化が相互に結びついていることを認識していたことが分かります。これは、富裕国か貧困国か、あるいは若年国か高齢国かを問わず、すべての国にとって教訓になるでしょう。
経済人口動態マトリックス
初めに、すべての国は4つの経済人口動態(貧困若年国、貧困高齢国、富裕若年国、富裕高齢国)のいずれかに分類することができます(下記参照)。これらのカテゴリーは、各国が経済人口動態の移行戦略を構築するための基本的シナリオを理解する上で有効です。
2つの極端な経済人口動態のケース、例えば、ニジェールと香港を見てみましょう。ニジェールは世界で最も人口が若い国であり、かつ最も貧しい国の1つです。2017年現在、内陸にあるニジェールの人口の50%は14歳未満、1人当たりGDPは400ドル未満でした。一方、2017年の香港の人口に占める14歳未満の割合はわずか11.9%と世界で最も低く、1人当たりGDPは46,000ドル近くに達していました。これらの極端なケースでは、非常に異なった経済政策が必要になります。
次に何が起きるか?
今は、新たな人口動態の時代を迎えているといえます。昨年、世界では初めて、65歳以上の人口が5歳未満の子どもの人口を上回りました。グローバリゼーションが新たな分断の段階に入り、世界の人口ピラミッドと地政学的基準の両方が逆になったことから、現在は、富裕国か貧困国、あるいは若年国か高齢国かを問わず、各国がそれぞれの経済人口動態を正確に把握する良い機会です。
理論的には、2020年代を通じて、最も所得の高い国の高齢化による負担は急増する状況が続き、各国の社会と経済はこの劇的な人口ピラミッドの逆転に適応する構造的な調整を可能にするために、資源を見出すことになります。これらの改革には、人口ピラミッドの変化と、それによるその他の影響を考慮した新たな課税制度や福祉制度も含まれるでしょう。例えば、日本の現在の高齢者の多くは、日本の次の世代や中国の多数の高齢者と異なり、非常に安定した高所得の職に就いていました。
日本は、人口動態の変化を考慮するのが遅かったという過ちを認識しており、高齢化に関して、世界に向けて伝道者のような存在になりはじめています。例えば、日本は今年に入り、ベトナムの高齢化対策の支援に投資しました。一方、8月にはアフリカ開発会議(TICAD)において、これに付随するサイドイベントを開き、アフリカ諸国における高齢化について話し合う場を設けました。現在、アフリカで高齢化が進行している国(65歳以上の人口の割合に基づきます)は、モーリシャス、セーシェル、チュニジアの3カ国のみですが、寿命自体が延びているため、今後数十年で、アフリカ全土においても高齢者の数が大幅に増加する可能性があります。
そのため、個人だけでなく国家にとっても、高齢化に備えるのに早すぎるということは決してありません。これは、中国と同様に、現在開発途上にあるアフリカや南アジアの国々において極めて重要な対策と言えますが、例えば、生産性低下のスパイラルなど、高齢者人口の増加によるリスクを回避する必要がある富裕国にとっても重要です。
中国は、高齢国でありながら、まだ富裕国ではない位置づけですが、人口動態と結びついた経済の本質を直接反映した経済政策決定を、長期的に行うための戦略的アプローチを素早く採用しました。したがって、中国は、政策決定と国家の発展に向けて経済人口動態を移行するアプローチを創設した国と言えます。国家の経済と人口動態の状況について検討する場合、すべての国は中国のアプローチに注目すべきです。
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