インフラに変革をもたらす画期的な6つの技術
大幅に遅れて開通したニューヨークの地下鉄セカンドアベニュー線、近年のインフラのイノベーションに恩恵を受けた可能性も。 Image: REUTERS/Andrew Kelly
交通渋滞でくたくたに疲れたり、遅れた電車に怒鳴ったり、過密な空港で遅延したフライトを待ちくたびれたり― 老朽化したインフラが原因で、こうしたイライラを感じるのも無理ありません。
2017年、ニューヨーカーたちは、プロジェクトの構想から第一段階の完成まで100年近くも待った後に、地下鉄セカンドアベニュー線の開通をようやく迎え入れることができました。また、悩ましいベルリン市民は、2011年開港予定だったブランデンブルグ空港が、旅客の受け入れを開始するのを今も待っています。このように、プロジェクトの予算超過や遅延はあまりにも常態化しているようですが、その間にもイノベーションはほかの国で生まれています。
とはいえ、見掛けは当てにはならないかもしれません。現に、イノベーションは、インフラ開発のあらゆる段階で発展をみせています。刺激的な新しいアイデアは世界中で生まれ、現場を変える可能性を持っています。
1. BIM:状況を把握できる設計
建設現場を遠方から眺めていると、たいして変化していないと思うのも無理ありません。しかし、よく見てみれば、インフラプロジェクトの設計方法を変える進歩が起きていることがわかります。ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)のソフトウェアプログラムは、2次元の製図やコンピューター支援設計(CAD)を超えて進行する建設プロジェクトを、デジタルに設計する能力を提供します。BIMは、建設プロジェクトにおいて、建築家、技術者、ビル管理者に至るあらゆる段階のプロが連携することを可能にします。
BIMが実現するのはコンピューターによる3次元設計だけではありません。時間、コスト、さらには環境への影響といった実用面の検討事項に対する洞察も、BIMによって提供されます。床から天井までの高さの窓を設置すると光熱費が上昇するだろうか?建築家が加えたがっている新しい壁は、技術要件にどのように影響するだろうか?など、BIMならこうしたすべての疑問にリアルタイムで回答できます。その上、さまざまなプラットホームへのアクセスを必要な関係者全員に提供してくれます。この能力は、とりわけ設計の最適化、ミスの低減、コストの予測可能性の向上につながり、期限内、予算内でのプロジェクト実行を促します。
2. 3Dプリンティング:建設の負担を担う
BIMのような画面上の進歩が、インフラ設計の改善につながる連携を促す一方、現場における技術進歩は、インフラの物理的な建設の在り方を変えつつあります。例えば、3Dプリンティングの技術は、建設現場を完全に破壊しようとしています。オランダの3Dプリンティングの企業、MX3Dは、世界初となる3Dプリンティングによる鋼橋の設計と建設を、すべて空中で行うことに挑戦しました。特殊な6軸ロボットの製造もこのプロジェクトの一部で、このロボットは自らの重みに耐えうる構造物を本体の下方に制作し、建築資材を設置しながら前方に移動して、建設を進めることを可能にします。全長12.5メートルのこの橋は、安全検査を経たのち、今年中にアムステルダム中心部の運河に設置される予定で、橋に搭載されたセンサーは、経時的に橋の状態を管理し、その洞察の収集を可能にします。この技術は、巨大なインフラプロジェクトを効率化する可能性を持っており、コスト削減や、無秩序で雑然とした建設現場における、作業の安全上の懸念を軽減する可能性もあります。
3. マスティンバー:木造超高層ビルの時代
インフラ開発の素晴らしい新世界は、新しい設計技術や建設技術に限られたことではありません。新しい資材も現場をリードしています。数世紀にわたり主要な建築資材であり続けてきたコンクリートの時代が、終わりを告げるかもしれません。マスティンバーというさまざまな代替資材の使用が主流化する動きが続いています。マスティンバーがセメントや鋼鉄などほかの建築資材を代替することが増え、CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー、木材の層を垂直方向に積層接着して形成したもの)、グルーラム(グルー・ラミネイティド・ティンバー、木材の層を相互の上面に直接積層接着して形成したもの)といった新製品は、木造ビルのさらなる高層化と強度向上を可能にしています。
ウィーンのホーホータワーは24階建て、高さ84メートルのビルになる予定です。最近ノルウェーに完成したミョーサタワーは18階建て、高さ85.4メートルで、目下のところ世界で最も高い木造高層ビルです。カナダのフォートマクマレー国際空港ターミナルは2012年に建設された当時、クロス・ラミネイティド・ティンバーを使用した北米最大のビルでした。フォートマクマレーがカナダ北部のアルバータ州という遠隔地にあり、労働人口が小さいこと、季節的な天候条件が厳しいことを考慮すると、ターミナルの建設にCLTを使用して工期を短縮できたことは理想的でした。
マスティンバーを使用することで、工期を最大25%短縮できます。しかも、炭素集約度が大幅に低い生産方法を用いることに加え、使用するエネルギーは鋼鉄生産の3分の1以下、コンクリートの5分の1以下に抑えられます。建設業者が、CLTやグルーラムなどの資材を用いたさらに高層の大規模プロジェクトに取り組む中、未来の空港ターミナルや鉄道駅の建設は、マスティンバーの活用によってより速くクリーンになる可能性があります。
4. プラスチックの道路:車輪の下でリサイクル
こうした伝統的な建築資材の破壊は、道路建設の主要資材であるアスファルトをプラスチックに代替する取り組みによっても続いています。オランダの工務店KWSは、プラスチック廃棄物のリサイクル品でできた軽量、組み立て式のモジュラー道路を開発しました。アスファルトと比較した利点は、敷設時間を短縮できること、耐用年数が3倍も長いことのほか、最終的に海洋投棄や埋め立て処理されるプラスチックを効果的にリサイクルできること。この道路は空洞になっており、ここに公共設備の配管や雨水の排水装置の設置が可能です。特殊な被膜で表面が覆われており、多くの場合、最終的に食品に混入することになるマイクロプラスチックの飛散を防いでいます。オランダのズウォレ市では、試験プロジェクトによってプラスチックコップ21万8,000個に相当する30メートルの自転車用道路が設置されています。道路にはセンサーが埋め込まれており、チームはプラスチックの道路や高速道路、ことによるとプラスチックの滑走路の開発に活用可能な洞察を得ることにこのセンサーが役立てられます。プラスチック道路は、環境からプラスチック廃棄物をなくす可能性だけでなく、敷設期間の短縮や交通を阻害するメンテナンスの減少により、節減を提起できる可能性も持っています。
5. ブロックチェーン:契約の合理化
設計技術の向上や、新しい建築資材の登場は明るい一面といえますが、インフラ開発において変革の機が熟した分野というのは、最初の青写真が描かれる遥か前から存在しています。契約および調達プロセスの停滞は、プロジェクトが始動すらしないうちから、プロジェクトの進行を大幅に減速させます。ブロックチェーンは、インフラプロジェクトの概念形成と実行の間に介在する多層的な契約および仲介業者を排除できる技術のひとつです。ブロックチェーンは、スマートコントラクトを補強できる能力を持っており、これをインフラ資産の重要な部分(地下鉄車両や換気システムの重要部品など)の支払いに利用することができます。スマートコントラクトのもとでは、複雑に入り組んだ別個の契約や仲介業者を介さずに、サプライヤーや海運会社、設置業者に対して段階的な直接払いが認められます。
ブロックチェーンは、完全なトレーサビリティも提供します。その本人認証アプリケーションは、適正な建設認可やセキュリティ関連の許可を持つ労働者や会社を探すことに付随する問題を軽減できる可能性があります。それどころか、ブロックチェーンのデジタルIDを活用することで、契約と下請け管理を自動化でき、直接合意を増やして混乱を減らせる可能性もあります。プロジェクトのライフサイクル全体で、特にBIMと併せてブロックチェーンを活用すれば、工期とコストの大幅な圧縮、不正行為の著しい低減を実現できるかもしれません。
6. レプリカ:乗客数をカウント
設計者は、調達計画の立案のほか、新システムの計画を作成するベストな方法についても理解しなければなりません。これは、大量輸送インフラプロジェクトの場合、乗客がどこにいて、どこに向かう必要があるのかを把握することを意味します。乗客の需要に対する理解を誤れば、無駄な費用のかさむ失策を招きかねません。例えば、見捨てられたモントリオールのミラベル空港の場合、当初は世界で最も混雑する空港になると見込まれていました。そして、ジャクソンビルのスカイウェイは、1日あたり予想乗客数の10%程度で操業しています(ただし、市は同システムを再活性化する興味深い計画を立てています)。
迅速な輸送ルートを新たに立案しようとするとき、都市計画のプランナーは往々にして、非効率的な世帯調査や限定的なトリップカウンター、またはデータ品質に難のあるモデリングソフトに頼ります。サイドウォークラボはレプリカというソフトウェアを用いて、この問題の解決に取り組んでいます。レプリカはリアルタイムの位置データを用いて大量輸送システムを立案できるソフトです。このプログラムでは、スマートフォンやアプリから集めた位置データを匿名化して、人口動態に関する総合情報に結合し、都市部で人が移動する方法、時間、理由についての情報をプランニング機関に提供します。レプリカは、地下鉄の新路線をどこに敷設するか、どの道路を拡張するか、あるいは混乱が最も少ないタイミングでいつ公共設備の配管の修理を計画するか、といったプランナーの判断を支援することができます。レプリカを利用すれば、インフラの計画作成やメンテナンスのスピードと効率が向上し、無駄な公共事業に終わるのを回避できる可能性があります。
素人目には変化がないようにも見える分野であっても、数多くの刺激的なことが起きているのは明らかです。社会を席巻するような技術変革は、実際のところインフラに大変革を起こす前から準備されています。にもかかわらず、意思決定者は、こうした新興の技術を幅広く受け入れるために必要な環境づくりを、さまざまな理由からいまだに躊躇しています。
こうした問題に対処することを目的に、幾つかの組織では、インフラの技術変革における効果的な方法について、官民両セクターの理解を深める支援を行っています。世界経済フォーラムのインフラに関するグローバル未来委員会(Global Future Council on Infrastructure)もそのひとつです。委員会では、新世代のインフラ開発に必要な知識を意思決定者に身に付けてもらうため、現在、実社会におけるベストプラクティスの事例を集めたケースブックを作成しています。インフラにおける技術進歩は、相互の結び付きが増す世界において、私たちの生活や仕事、遊びの方法を変える可能性を持っています。第四次産業革命がインフラの技術革命に拍車をかける環境をつくることができれば、世界が必要としている、ダイナミックで包摂的な繁栄した社会は、ほんの少しの距離にまで迫ることになります。
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Hazuki Mori and Soichi Noguchi
2024年12月20日