ブランド戦略が中国市場で通用しない理由:軌道修正するには?
中国市場への進出を目指すブランドにとって、現代の中国人消費者の動向を理解することが成功と失敗の分かれ目に
Image: REUTERS/Stringer
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小売り・消費材・ライフスタイル
バーガーキングは4月、ニュージーランドで公開していた広告動画を取り下げました。ニュージーランドから11,000キロ離れた国の消費者から反感を買ったことがその理由でした。
動画には、客が箸を使ってハンバーガーを食べようとする様子が描かれており、その描写に対し中国で激しい抗議の声が上がったのです。また、モデルが箸でピザとスパゲティを食べようとする広告動画を昨年公開したドルチェ&ガッバーナも、同じように中国の消費者から厳しい非難を受け、中国では商品の不買運動が広がりました。
これらの事例は、中国人消費者の嗜好や考え方を理解し、また敏感に感じ取ることの重要性を示しただけではなく、それらを間違って捉えた場合、ブランドは、グローバルに甚大な影響を受けることも示しています。
今の時代、企業はこれまで成功してきたブランド戦略、マーケティングの仕掛け、有名人によるお墨付きなどから離れて、全く違った視点に立つことが求められます。中国の消費者がますます洗練されてきており、企業は自らの存在意義と市場シェアを確立するために、中国市場の傾向をしっかりと把握する努力が求められているのです。さらには、中国以外の国でのマーケティング戦略が、中国における自らのブランドイメージが与える影響についても意識する必要があります。
透明性の高さが信頼を築き、価値を創造する
中国の飲料メーカーであるノン・フー・スプリング(Nong Fu Spring)は、企業としての信頼を確立し、ブランドロイヤルティー(ブランド信仰)を高めるために行動研究を効果的に活用しています。2016年、同社は「17.5° デジタル追跡が可能なオレンジ(digitally traceable orange)」と名付けたオレンジを発売しました。このオレンジは、購入した人がQRコードをスキャンすると、産地、育て方、成長の過程、品質に関する詳細などについて知ることができるようになっています。

このオレンジは中国の電子商取引市場で高級品として販売されており、実際、同じ地域で栽培される同様のオレンジの2倍の値段が付けられています。値段が高価であるにもかかわらず、なぜ17.5°オレンジがよく売れているのでしょうか。行動研究によると、17.5°オレンジに対する消費者の信頼を高めた理由として、以下のことが挙げられます。
(1) 消費者の判断を助けるベンチマークを設ける
甘さの感じ方は人によって違います。甘さを測る業界基準を採用したことにより(この場合は17.5%)、消費者は自分が好きなオレンジの甘さを客観的に測れるベンチマーク(基準)を認識できるようになりました。
(2) テクノロジーによる透明性の向上が消費者の信頼とブランドロイヤルティーを高める
QRコードをスキャンした消費者は17.5°ブランドに対し、さらに好印象を持つようになりました。オレンジを育てる過程、産地、さらには栽培を管理する責任者の名前までもオープンにすることで、企業は透明性と説明責任に最大限取り組んでいることが消費者に伝わります。商品に関する情報を簡単に入手できるようにすることは、企業と消費者の間の信頼関係を維持することにつながります。
(3)消費者は品質が保証された物には出費をいとわない
多くの消費者は、値段に躊躇せずこの高価なオレンジを買う理由としてQRコードを挙げました。消費者にとって、QRコードをスキャンして得られる情報は、17.5°オレンジが厳しいプロセスを通過して選別された商品であることを示しているのです。17.5°という基準をもとに、消費者は高価なオレンジとそうでないものとを区別しています。
重要ポイント:
● 自社製品の高い品質を強調するため、より客観的に数値化された分かりやすい評価基準を検討することが企業に求められます。商品に関する情報を明らかにすることで、消費者の客観的な評価を可能にし、自社の商品を選んでもらうことにつながります。
● 消費者との信頼関係を築くために、企業は自社商品について消費者が知りたい情報を隠すことなく提供しなければなりません。
● 通常、商品は高価格なものとそうでないものとで、品質に大きな差があります。基準を設けることは、ある商品が他に比べて高価である理由を消費者に理解してもらうために重要な手段となります。
有名人のお墨付きに効果は期待できず
有名人によるお墨付きや、企業からスポンサー収入を得て大量のメッセージを投稿しているインフルエンサーが、中国のミレニアル世代から支持されていないという状況が最近の行動研究から明らかになっています。有名人やスポンサーが付いたインフルエンサーに代わって支持を集めているのが、草の根で、いわゆる「ロング・テイル・マイクロ」(long-tailed micro」と呼ばれるキーオピニオンリーダー(KOL)と言われる人々で、彼らはもっと正直かつ公平に商品を評価します。このようなタイプのKOLはニッチないわゆる隙間市場に絞って活動し、少数のフォロワーを持つ普通の一般市民です。

中国ではXiaohongshuあるいはリトル・レッド・ブック(Little Red Book)と呼ばれるソーシャルメディア兼電子商取引プラットフォームが人気を集めています。当初は、中国の消費者が海外の商品を評価し、購入体験について他のユーザーと情報をシェアするプラットフォームとして創設されましたが、その後、メジャーな電子商取引プラットフォームへと成長しました。そこでは商品評価、旅行ブログ、ライフスタイルなどがユーザー間でシェアされ、今では登録者が2億人を超えています。行動研究で明らかになったのは、このサイトのユーザーは有名人よりも、信頼のおける、知識に基づいた内容を発信しているKOLを情報ソースとして選んでいるということです。
このような状況は実際に2つのソーシャルメディアの投稿を比べてみるとよくわかります。一方は有名なインフルエンサーであるアンジェラ・ベビー(Angela Baby)、もう一方は草の根(一般市民の)インフルエンサーであるKaixinguaのそれぞれの投稿を比較します。Kaixingua は自身のスキンケアの手順を全て写真に撮り、それらを順を追って投稿したところ、4万以上の「いいね」がつきました。同じ頃、有名なインフルエンサーであるアンジェラベイビーは彼女のスポンサー企業のベビー用品について投稿しましたが、「いいね」は8,000しかつきませんでした。
キー・ポイント:
● ユーザーはこれまで以上に目が肥え、インフルエンサーの偽りない体験を知りたいと望んでいるため、企業は有名人よりKOLを見据えて対応することが求められます。正直で、偽りがなく、偏った見方をしていない投稿は、有名人を頼りにしたスポンサー支援による投稿よりも優位に立てるのです。
● 企業はターゲットとする客層に合わせてブランディングを進める必要があります。行動研究や民族誌学をブランド戦略に取り入れることで、企業は求める客層の価値観、考え方、憧れを把握することが可能になり、また、自社商品と真摯に向き合えるのはどのKOLかを判断することにも役立ちます。
価格よりもライフスタイルに合うことが重要
伝統あるブランド企業は品質に基づいて商品価格を決めていました(例えば、品質の高い商品は高価格になります)。しかし、より洗練された若い消費者が中国市場で存在感を増し始め、彼らは価格や品質の枠にとらわれず、自分のライフスタイルに合うブランドに対してより強い一体感を持つようになっています。企業がこのような消費習慣を理解し、若い中国人消費者の購買力を開花させようと彼らの根底にあるモチベーションを明らかにするうえで助けとなるのが、行動研究や民族誌学の研究者の存在です。
中国の消費者が自身のライフスタイルにぴったり合うと思うブランドのひとつにユニクロが挙げられます。2018年、Taobaoによる「Double-11」ショッピングフェスティバルで、ユニクロは男女衣料品カテゴリーで売上1位を獲得しました。わずか35秒の間に1億元(人民元)を売り上げました。
ユニクロの商品は高品質なベーシックデザインとして中国で有名ですが、これは、あらゆる場面に合う革新的な商品を作るというユニクロの戦略で、中国市場で勝ち抜くための鍵となる重要なことでした。顧客の日々の生活にスムーズに馴染む、用途の広い高品質な衣類を作ることで、ユニクロは中国で成功への足場を固めています。
キー・ポイント:
ユニクロは中国人消費者の興味を引く、革新的で使いやすい衣類を幅広く提供しています。
彼らは自分の日常生活に合う高品質な必需品に対しては、お金を惜しむことはありません。
今後の取り組みは?
中国におけるZ世代初期の人々が成人になり、このZ世代がそれまでの世代とどう違うのかを理解しなければならないプレッシャーが企業にとって大きくなっています。今まで成功してきた従来型と同じようなマーケティングの手法は、新たな世代の消費者に対してはもはや十分とは言えません。今後、行動研究の専門家の意見を取り入れながら、中国の若い消費者の根底にある価値観、考え方、憧れを探り出し、彼らが時間と共に変化していく状況を追うことがますます重要になっていきます。
この記事はシャロン・ロー(Sharon Lo)およびガーケイ・ウォン(Garkay Wong)の意見を参考に書かれています。また、RADII(現代の中国における文化、イノベーション、生活に関する情報を発信する独立したメディアプラットフォーム)が開催したディスカッション「消費の未来(The Future of Consumption)」の内容に一部基づいて書かれています。
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