仕事と働き方の未来

障がいを持つ人びとの雇用で企業が得るものとは

可視的なもの、そうではないものを含め、何らかの障がいを持って暮らしている就業年齢期の人は、米国だけで1,510万人に上る。

可視的なもの、そうではないものを含め、何らかの障がいを持って暮らしている就業年齢期の人は、米国だけで1,510万人に上る。 Image: Christina Morillo

Chad Jerdee
General Counsel & Chief Compliance Officer, Accenture

世界には、何らかの形の障がいを持つ人が10億人余り暮らしています。7人のうち1人が障がいを持っているという計算になり、そのうち80%は、障がいを持つようになったのが18歳から64歳の間、つまりほとんどの人の平均的な就業年齢期です。さらに、こうした人びとが失業する可能性は50%も高くなっているのです。

2019年、ビンク創業者のキャロライン・ケーシー博士率いる企業リーダー達が、ダボスにおいて、障がい者のインクルージョンがもたらす力について議論しました。企業リーダーとして、アクセンチュア・北アメリカのジュリー・スウィートCEOなどが参加。労働者数を上回る求人がある場合、多様でインクルージブな源泉からの人材雇用が企業に利点をもたらすことが、幾つかの国で認められつつあります。障がい者インクルージョンで先進的な米国の企業でも、収益性や価値創造、株主還元などで著しい改善を実現しています。しかし、障がいを持つ人びとを雇用する重要性とその潜在的な事業利益を、いまだに認識していない企業もあります。

可視的なもの、そうではないものを含め、何らかの障がいを持って暮らしている就業年齢期の人は、米国だけで1,510万人に上り、その多くが失業または不完全就業の状態です。アクセンチュアが、ディスアビリティ・インおよび全米障がい者協会(AAPD)と共同で作成した最新レポート、平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点で指摘しているように、もし企業が障がい者のインクルージョンを取り入れれば、新たに1,070万人余りの人材資源を利用できるようになります。これは企業にとって自社事業や経済性を強化する大きなチャンスです。

 平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点
平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点 Image: 労働統計局のデータにもとづくアクセンチュアの分析(2018年7月)

企業はなぜ、この手付かずのリソースを活用していないのでしょうか。中には、障がい者特有のニーズへの対応が企業にコスト負担をもたらす、という誤解を信じる傾向もあります。しかし、調査が示しているのはその逆。障がいのある人を労働力として雇用、支援するベストプラクティスを採用している企業は、業績において同業他社を上回り、財務上も利益を確実に実現しているのです。

実際、調査では、よりインクルージブな企業は同業他社に比べ、総株主還元額が平均して2倍程度高い可能性が示唆されています。また、経時的にインクルージョンを高めてきた企業は、総株主還元額が4倍も高い可能性があり、これも同業他社を上回っています。収益性と価値創造においては、これらの企業は、分析対象の4年間の平均でみて売上高で28%、純利益で2倍、経済的な利益率では30%と、それぞれ高い成績を上げていたのです。

こうした利益は、障がいのある人への対応コストを補って余りあるものです。職業配慮ネットワークの別の調査は、受け入れ労働力の60%にはコストが発生せず、残りの労働力については、従業員一人当たり平均500ドルのコストが生じることを明らかにしています。

 平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点
平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点

障がい者のインクルージブな雇用慣行は、当然ながら、利益額を遥かに超える利点をもたらします。障がいのある人は、周囲の世界に適応するため必然的に創造力豊かになります。問題解決能力や俊敏性、忍耐力、先見性、実験意欲などの強みは、現実に付随した部分であり、いずれもイノベーションに欠くことができません。

よりインクルージブな職場は、職員の定着という点でも良好な結果を示しています。障がいを持つ従業員と働くことにより、障がいのない従業員の間で、誰もが働きやすいよりインクルージブな職場づくりに対する意識が高まることが調査で示されました。安定した障がい者コミュニティ支援プログラムが導入されている場合、職員の離職率は最大30%低くなっています。

もちろん、企業の評価面での利点もあります。全国企業障がい者評議会が2017年に実施した調査によると、消費者の66%が、障がいのある人が宣伝に出演する企業の製品・サービスを購入したいと考えています。また、障がいを持つ人が利用しやすい物理的対策を職場に講じている企業から製品・サービスを購入したいと考える人は、78%に上ることが判明しました。多様性とインクルージョンを取り入れたサプライチェーンでも、財務的利益、ブランド強化、イノベーションの水準の高さに相関性がみられます。

幾つかの企業の間では、障がい者の雇用とインクルージョンの到達水準を引き上げる動きがあります。Tモバイルは、全米車いすバスケットボール協会のユースイベントにスポンサー提供を開始。イベントでは、職員が子ども達とTモバイルで働く意味を語り、新たなチャンスについて子ども達を啓発しています。バンク・オブ・アメリカでは、知的障がい者300名で構成するサポート業務チームが新設され、注文処理業務や外部顧客契約の管理を担っています。

ボストン・サイエンティフィックでは、新人研修に、多様性とインクルージョン(D&I)への取り組みをリーダーが説明する仮想ツアーと動画を採用。すべての従業員が利用できる資源に対し、各人の理解を促す有益な情報を共有しています。またCVSヘルスでは、研修プログラムを見直し、社会貢献活動からスキル探索へ、つまり創造性、問題解決力、忠誠心など障がいを持つ人特有の資質の活用へと、その軸足を移しました。

多くの企業が障がい者インクルージョンの明確な利点を理解し、障がい者の雇用が一般に考えられるほど困難ではないことに気づきつつあります。マイクロソフトはその一例。同社では、自閉症スペクトラム障がいを持つ人に特化した、障がい者雇用プログラムの構築に成功しています。その狙いは、人材を呼び入れ、自閉症スペクトラムを持つ人をサポートするインクルージブなアプローチを整備することにより、製品づくりとその提供という事業活動での障がい者の働き方に貢献することです。雇用プログラムは数日にわたる実践的な学びの場であり、作業能力、チームプロジェクト、スキル評価に重点が置かれています。応募者には採用イベントの場で自身の能力を紹介し、雇用責任者やチームと面談する機会が与えられます。またそれと並行して、雇用先候補としてのマイクロソフトを知ることもできます。

よりインクルージブな企業に変わるためには、自らの立ち位置に正直になることが、困難ではあってもやはり重要な第一歩だと、アクセンチュアは確認しました。アクセンチュアは 、米国従業員をジェンダー、民族、経験 、障がい者別の人口動態で把握し、これを公表した最初の企業のひとつです。そして、この経験から透明性が信頼を生むことを学びました。

アクセンチュアの米国従業員のうち、障がいがあることを自発的に認めた従業員は2018年に4.5%と、前年の3%から上昇しました。このように、従業員が安心して障がいを自認できる信頼感ある環境づくりは、説明責任とともに、インクルージョンの重要な指標となります。

障がい者インクルージョンの活かし方について深く学ぶ際、従業員の経験を理解することがアクセンチュアでは重要な第一歩となりました。アクセンチュアはディスアビリティ・インおよびAAPDと共同で、障がい平等指数に参加する140社の障がい者に関わる慣行と財務実績を分析。平等を求めて:障がい者インクルージョンの利点調査は、変化をもたらすために企業がとるべき4つの重要行動を明らかにしました。

採用する

組織は、障がい者が職場とその人材パイプラインに代表されることを徹底させなければなりません。雇用者は採用以外にも、障がいを持つ人を勇気づけ、前進させる慣行を実行する必要があります。

可能にする

リーダーは障がいのある従業員に対し、利用可能なツールと技術、および公式の適応プログラム(またはそのいずれか)を提供しなければなりません。企業は、それらのツールと適応プログラムに対する理解を障がいのない従業員の間で深めるため、公式の訓練プログラムの導入を検討し、チーム全体の意識と一体感の向上を図る必要があります。

関わる

組織全体でインクルージブな風土を育むため、企業は採用活動、障がい者教育プログラム、草の根主導の取り組み(被用者の資源グループなど)やイベントを通じ、啓蒙活動に投資を行わなければなりません。

力を与える

企業はメンタリングおよびコーチングのイニシアチブとともに、スキリング/リスキリング(再訓練)プログラムを提供し、障がいを持つ人が継続的に成長と成功を実現できるよう、徹底を図らなければなりません。障がい者は、指導的地位を含むあらゆるレベルの職務に就くべきです。

障がい者コミュニティ内に閉じ込められた価値を解放するため、組織はそうした価値がどこに所在するか、見定めなければなりません。そのために、障がい平等指数、現従業員に対する自己確認活動や、従業員の意欲および意識調査といった各指標ツールを活用する必要があります。

同時にCEOおよび投資家側では、健全な障がい者インクルージョンプログラムに関し、定性的、定量的な強固なビジネスケースを理解することが必要です。潜在的利益の把握、成功事例の共有、よりインクルージブな人材パイプラインの構築方法の実証に企業が取り組むことで、さらに多くの障がいを持つ人びとを、短時間のうちに労働力に変えることができるのです。

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