「私たちの使命は、女性の士気を上げること」:メリンダ・ゲイツの新刊からの抄録
世界経済フォーラムBook Clubの今月の本は「ザ・モーメント・オブ・リフト」 Image: ビル&メリンダ・ゲイツ財団/Prashant Panjiar
本稿はメリンダ・ゲイツの著書「ザ・モーメント・オブ・リフト」からの抄録です。同書は世界経済フォーラム「ブック・クラブ」の5月の本に選出されました。当フォーラムでは、毎月新しい書籍を選び、グループでディスカッションを行っています。各月の最終日には著者も加わり、読者からの質問に答えます。
子ども時代を振り返ると、ロケットの打ち上げは私の人生の大きな出来事でした。私が育ったのは、テキサス州ダラスのカトリックの家庭。母は専業主婦、父はアポロ計画に携わる航空宇宙学の技術者で、子どもは4人いました。
打ち上げ当日は全員が車に乗り込み、父の友人の一人であるアポロ技術者の家へ向かい、皆で一緒にこのドラマを見つめました。カウントダウンのときのはらはらした感覚を、いまでも体で感じることができます。「20秒前、カウントダウン続行、15秒前、指揮を船内へ切り替え、12、11、10、9、点火シーケンス開始、6、5、4、3、2、1、0。全エンジン稼動、離陸! 離陸しました!!」
この瞬間を思い出すたびに興奮します。特に、エンジンが点火して地面が揺れ、ロケットが上昇を始める離陸の瞬間(モーメント・オブ・リフト)。私の好きなスピリチュアルライターのひとり、マーク・ネポの著書で、「モーメント・オブ・リフト」というフレーズを最近目にしました。マークはこの言葉を使い、恵みを受けた瞬間をこう捉えています。何かが「風に舞うスカーフのように高揚(リフト)した」とき、深い悲しみが消え、心が軽くなったのだ、と。
マークの高揚のイメージは、驚きに満ち溢れています。驚きとは、私にとって2つのことを意味します。それは、畏敬の念と好奇心。私はたくさんの畏敬の念を持っています。でも、それと同じだけの好奇心もあります。高揚がどのように起こるのかも、知りたいのです!
家族で飛行機を利用する機会が、過去に幾度もありました。機内に着席し、滑走路の長い移動が終わったとき、離陸の瞬間(モーメント・オブ・リフト)を待つのは不安なものでした。子ども達が小さい頃、飛行機が離陸態勢に入ると、私はこう言ったものです。「車輪、車輪、車輪…」。そして、機体が地面を離れた瞬間に言うのです。「翼!!」。後には少し成長した子ども達もこれに加わるようになりました。何年かの間は、皆で口を揃えて言ったものです。ときには、「車輪、車輪、車輪…」と口にする回数が予想よりも多い、ということがありました。私は思ったものです、なぜ離陸にこんなに時間がかかるのだろう、と。
ときに離陸にそれほど長い時間がかかるのは、なぜだろう? あっという間に離陸することもあるのは、どうしてだろう? 浮上する力が下降する力に勝り、地面から浮かんで飛行を始めるティッピングポイント(転換点)を通過させるものは、一体何なのだろう?
夫のビルと共同で設立した財団の仕事で、私は20年にわたり世界を旅してきましたが、そのなかで次のことを疑問に感じてきました。
人類にとってのモーメント・オブ・リフト、特に女性にとってのそれを、どうやって呼び起こすことができるだろう? なぜ女性かといえば、女性の士気を上げれば(リフト・アップ)、人類の士気も上がるからです。
さらに、こう思いました。人の心のなかにモーメント・オブ・リフトをつくり、女性の士気上昇を誰もが望むようにするには、どうしたらいいのだろう? なぜなら、女性が士気を上げるには、女性の価値を落とすことを止めるだけで十分、という場合が往々にしてあるからです。
私が旅のなかで知ったのは、非常に多くの女性が、子どもを持つかどうかや、いつ子どもを持つかを自分で決めたいと願いながら、そうできないということです。それは避妊具を利用できないから。女性や少女に与えられていない権利や特権は、この他にもたくさんあります。結婚するかどうかや、いつ誰と結婚するかを決める権利。学校に行く権利。収入を得ること。家庭外での就労。単に家の外を歩くこと。自分のお金を使うこと。お金の使い道を自分で決めること。起業。借り入れ。財産の所有。夫との離婚。病院の受診。公職への立候補。オートバイに乗る。車を運転する。大学への進学。コンピューターを学ぶ。投資家を探す。これらはいずれも、世界の一部の地域で女性に与えられていない権利です。こうした権利が法によって認められていない場合もありますが、法律上は認められても、女性への文化的偏見が原因で権利が与えられていないことも、ままあります。
公共の代弁者としての私の道のりは、家族計画から出発し、後にほかの問題にも声を上げるようになりました。でもすぐに気づいたのです。家族計画や、先に挙げた問題それぞれについて意見を述べるだけでは十分ではないと。すぐにそう指摘を受けたのです。私に必要なのは、女性について語ることでした。そして、女性が男性と同じ地位を獲得しようとするなら、権利をひとつずつ、あるいは段階的に勝ち取ることでは実現しないことも、すぐにわかりました。権利は、女性が力を与えられるにつれ、波のように次から次へと獲得できるものなのです。
これらの教訓は、私が出会った特別な人達から学んだものです。読者の皆さんにも、この人達にぜひ出会っていただきたいと思います。なかには、あなたを悲しい気持ちにさせる人もいるでしょう。気持ちを高揚させる人も。これらの人達は、みな英雄です。学校を建てた、人の命を救った、戦争を終結させた、少女に権利を与えた、文化を変えた、など。きっと皆さんを触発することでしょう。私もそうでした。
私が出会った特別な人達は、女性が士気を上げたときに起こる変化を教えてくれました。これを皆さんにも知っていただきたいのです。彼らはまた、人に影響を与えるために何ができるのか、ということも教えてくれました。皆さんにもこれを知って欲しいのです。これが本書を執筆した理由です。つまり、私の人生に目的と切迫感を与えてくれた人達の物語を共有することです。私達は、互いの活躍を助け合える方法を知るべきです。エンジンが点火し、地面が揺れると、離陸する。いま私達は、歴史の決まりきったパターンを打ち砕くための知識やエネルギー、道徳的な知見を、過去のどんなときよりもたくさん身に付けています。いまこそ、すべての代弁者の手助けが必要です。女性も男性も。誰も置き去りにされるべきではありません。すべての人が参加する必要があります。私達の使命は、女性の士気を上げること。そして、この大義のために団結するとき、私達自身が「リフト[A1] 」できるのです。
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