エネルギー転換

包摂的なエネルギー転換を「デザイン」する

エネルギー転換は、世界的に減速しています。

エネルギー転換は、世界的に減速しています。 Image: REUTERS/Jorge Luis Plata

Steve Dahlke
PhD Candidate, Mineral and Energy Economics, Colorado School of Mines
Morgan Bazilian
Director, Professor of Public Policy, Payne Institute for Public Policy

エネルギー転換を世界で加速することは、喫緊の課題です。世界経済フォーラムの効果的なエネルギー転換の推進2019年報告書でも、このことが強調されています。8年目を迎えた同報告書では、2019年エネルギー転換指数(ETI)から得られた所見がまとめられています。

ETIはエネルギー転換に関するファクトベースの構築を目的としており、意思決定者はこれを基準に、世界中の進捗状況を評価できます。ETIは、エネルギー、経済、環境に関する40のデータベースの指標を集約して作成。世界のエネルギーシステムの動向を、データを主体として総合的に提供し、長期にわたってこれを追跡可能にすることを目指しています。ETIは、豊富な情報ソースをその統計モデルの基礎としており、これらの情報に対する考察から、エネルギー転換に関わる世界中の多くの問題についてヒントを得ることができます。

昨年は、またしても記録的な温暖化の年になりました。気候変動に関する政府間パネルの憂慮すべきレポートは、温室効果ガス排出削減が緊急を要する問題であることを強調しています。このように変革の必要性が叫ばれているにも関わらず、エネルギー転換が世界的に減速していることがETIから浮き彫りになりました。前年比でみたETIの世界平均スコアの伸びが、過去5年間で最低となったのです。パリ協定を通じた政治的コミットメントの表明という、世界的に画期的な出来事から3年が経過しましたが、こうした進捗の遅れは、目下の取り組みの妥当性と課題のスケールについて、実態を把握するきっかけにもなります。

エネルギー転換上、地政学的に重要な側面で実現がみられることは明らかです。幸いなことに、エネルギーの安全およびエネルギーへのアクセスに関しては、ETIから良好な所見が得られています。これらの領域では指標の大幅な改善が続いており、その要因として、アジアの新興国および開発途上国における電気へのアクセスの急拡大と、燃料輸入国における貿易相手国の多様化の進展を挙げることができます。

2014年から2016年には、平均で毎年1億3,500万人が電気にアクセスできるようになりました。アクセスの改善は人口の多いアジアに集中しているものの、より広範囲で改善が実現しています。電気の完全普及がいまだ実現していない国を分析したところ、最新のデータでは、そのうち90%で毎年改善がみられています。特にケニアとエチオピアは進展が著しく、電気へのアクセスは前者が14%ポイント、後者が9%ポイントの改善をみせています。

指数のデータは、エネルギー貿易の地政学がどのように変化しているかも浮き彫りにしています。世界的にみてその主因となったのは、米国のシェールオイル革命と中国におけるエネルギー需要の急増です。入手可能な過去10年のデータによると、エネルギーの全供給量に対する正味輸入量は、米国で20%ポイント低下した一方、中国では12%ポイント上昇しました。これに対し、欧州連合諸国のエネルギーの正味輸入量は、ここ数年の間、比較的安定して推移しています。

報告書はまた、貧困削減および経済成長と環境の持続可能性とのバランスに、引き続き注意が必要なことも示しています。報告書が説明しているこのバランスの複雑さを知ることは、2018年に世界の炭素排出が増加し、過去最高に達した理由、および、世界の石炭消費が(インドと中国における需要増大によって)過去2年間に増加した理由を理解する一助となります。

こうしたバランスが必要とされるのは、開発途上国や新興国だけではありません。前述の指数の報告書は、米国エネルギー情報局の最近の調査に基づき、同国では3世帯につき1世帯が光熱費の支払いに苦労していることを指摘。また世界銀行のデータは、米国の所得格差が、OECDに加盟する36カ国中の33カ国を上回る水準にあることを示しています。米国の所得格差は2000年代初頭に横ばいになった後、近年では悪化を続けています。世界最大の経済国の地位にあり、最大のエネルギーシステムを擁していながら、米国は、ETIの分析対象となった115カ国中、全体では27位、また環境の持続可能性では89位という結果になっています。

エネルギー転換と経済的平等という二重の課題に米国が直面している現状は、「グリーン・ニューディール」に盛り込まれた、エネルギー、経済の両政策改革をひとまとめに断行する構想の正しさを、あらためて裏付けているといえます。その具体的な政策はなお作成段階ですが、これらの問題を巡る政治的な動きは大きなチャンスとなります。グリー ン・ニューディールの成功は、同政策が包摂的な経済成長に寄与し、一方で温室効果ガスと現地の汚染の削減を実現できるかどうかにかかっています。

フランクリン・ルーズベルト大統領はかつて、米国を大恐慌から脱却させるためにニューディール経済政策を実施しました。遠縁にあたるセオドア・ルーズベルト大統領は、国立公園、森林保護区などの国のシステムを創設したほか、環境保護倫理を確立し、世界中に広げました。いずれも欠くことのできないアプローチであり、その必要性は一層高まっています。 エネルギー転換に対するモニタリングは、たとえ不十分であっても、このトピックに関する世界的な対話に情報を提供することができます。ETIの今年の報告書では、環境面での改善の失速と、経済成長と開発の面での様々な結果が原因で、全体的に勢いに欠くことが明らかになりました。とはいえ、エネルギーへのアクセスおよび安全の領域では、大部分の国が大きな成果を上げています。また、他国を詳しく調べることで知り得る明るい話題は、このほかにも数多くあります。しかもそれらは、総合的な指数では見失われかねないものです。読者の皆さんには、裏付けとなっている大量のデータをぜひインターネットで利用することをお勧めします。 フランクリン・ルーズベルト大統領はかつて、米国を大恐慌から脱却させるためにニューディール経済政策を実施しました。遠縁にあたるセオドア・ルーズベルト大統領は、国立公園、森林保護区などの国のシステムを創設したほか、環境保護倫理を確立し、世界中に広げました。いずれも欠くことのできないアプローチであり、その必要性は一層高まっています。

エネルギー転換に対するモニタリングは、たとえ不十分であっても、このトピックに関する世界的な対話に情報を提供することができます。ETIの今年の報告書では、環境面での改善の失速と、経済成長と開発の面での様々な結果が原因で、全体的に勢いに欠くことが明らかになりました。とはいえ、エネルギーへのアクセスおよび安全の領域では、大部分の国が大きな成果を上げています。また、他国を詳しく調べることで知り得る明るい話題は、このほかにも数多くあります。しかもそれらは、総合的な指数では見失われかねないものです。読者の皆さんには、裏付けとなっている大量のデータをぜひインターネットで利用することをお勧めします。

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