深層地理学

チョコレートが地球を救う:その方法とは

西アフリカでは、チョコレートの主原料であるカカオが森林伐採の主因になっています

西アフリカでは、チョコレートの主原料であるカカオが森林伐採の主因になっています Image: REUTERS/Oswaldo Rivas

Richard Scobey
President, World Cocoa Foundation

「森林に何か問題があるときは、社会に何らかの問題がある」

—ジンバブエのことわざ

過去10年にわたり、熱帯林の伐採ペースを鈍化させる徹底した取り組みが行われてきたにもかかわらず、2017年には1分につきフットボール競技場40個相当の樹木が 消失 しました。この森林消失のおよそ 半分 は、パーム油、大豆、食用牛やその他商品の商業的な農業生産によるものでした。西アフリカでは、板チョコの主原料であるカカオが森林伐採の主因になっています。

森林の保全と再生のために、新しいソリューションが必要です。カカオとチョコレートの世界的メーカーが、 カカオと森林イニシアチブで西アフリカの政府と手を組んだ理由も、ここにあります。複数のステークホルダーが参画するこの画期的なパートナーシップは、商品主導の森林伐採に対処するうえで 景観アプローチが持つ効力を実証しています。

カカオの2大生産国であるコートジボワール、ガーナの両政府と、 カカオおよびチョコレートの世界トップ企業33社 は、2017年、共同の アクションフレームワーク に署名しました。参加政府と企業は、カカオ供給の将来的な持続可能性と信頼性を高めながら、森林ガバナンスの向上、森林伐採リスクの低減、森林の保護と再生の促進、農民の暮らしの改善を実現するための政策変更と投資方針を具体化することで合意しました。

3月には、透明性と説明責任に対する確約に従い、政府と企業がカカオと森林イニシアチブの詳細なアクションプランを公表し、それぞれの取り組みに対する評価と進捗状況の追跡をすべてのステークホルダーが行えるようにします。

森林と土地利用のガバナンスに取り組む

コートジボワールのナショナルプラン は、2018年5月に採択された 政府戦略 をベースとしています。戦略上のおもな優先事項は、新しい森林法の成立、森林保全回復国家基金の創設、国レベルのカカオトレーサビリティシステムの構築と実施、優先5地域におけるパイロットプロジェクトの実行などです。

ガーナのナショナルプラン では、森林伐採に起因する温室効果ガス排出の大幅な削減と、持続可能な森林管理による炭素貯蔵の増加を実現するために、 ガーナカカオ森林REDDプラスプログラムを活用します。優先的アクションとして、景観アプローチの強化を通じた介入ホットスポット6地域における森林劣化の終息、気候変動対応型農法の導入によるカカオの増産、サプライチェーンのマッピング強化が盛り込まれています。

コートジボワールとガーナは、森林保全管理の改善に、それぞれの森林劣化程度に応じた異なるアプローチを採用。森林被覆および土地利用に関する最新マップ、カカオ農民に関する社会経済データ、森林管理と土地利用を対象とする詳細な運用ガイドラインを作成し、これらを公開する予定です。

企業:大々的に関与

コートジボワールガーナ における企業側の初期アクションプランには、2018年から2022年に実行する業界の重要な取り組みが記載されています。これらのプランは、投資計画に必要な追加情報が政府から提供される2019年に更新が行われ、完成する見通しです。

森林保護について、企業の初期プランは具体行動として、直接のサプライチェーンにおけるトレーサビリティの100%達成、農民100万人のGPS位置情報のマッピング、保護地域近辺における森林伐採のリスク評価の実施を盛り込んでいます。企業はさらに、森林再生とカカオのアグロフォレストリーを実現するために在来種の樹木1,260万本を配布、植林し、40万ヘクタール規模でカカオのアグロフォレストリーを展開するほか、農民21万5,000人を対象とした環境保護活動への報酬契約の署名も行う予定です。

持続可能なカカオ生産に関して、初期プランでは、農民82万4,000人に対する環境的に持続可能なカカオ栽培のトレーニングの提供と、改良種のカカオの苗木2,200万本の配布、34万世帯の所得の多様化を支援する活動など、野心的な目標が掲げられています。

コミュニティへの関与についてカカオと森林イニシアチブ は、7,300のコミュニティで特に女性と若者を中心に、森林の保護・再生活動のための参加型の人材育成を行います。

試験的取り組みを拡大:無駄にする時間はない

イニシアチブの参加企業と政府は、世界銀行、英国国際開発省、ドイツ連邦経済協力開発省や、その他のパートナーの強力なサポートを受け、現地でプランを実行に移し始めています。主に以下のような施策が検討されています:

- 新しいアグロフォレストリーと保全プログラムのデザインに必要なベースラインデータを揃えるため、政府が優先地域における 土地利用および社会経済調査 に関するデータの収集を行う

- 保護地域外の農場からカカオが合法的に調達されることを徹底するため、 農場のマッピングトレーサビリティシステム の構築を行う

-断片化した森林保護区を結合して景観ガバナンスシステムを構築するために、 熱帯林同盟2020の取り組みと歩調を合わせて新しい 景観コリドー を設け、 コミュニティベースの景観管理 を確立する

- 「より少ない農地でより多くのカカオを栽培する」ことを目指し、持続可能な農業集約化に投資する。投資にあたっては、 気候変動に対応した生産技術農民のトレーニング土地と樹木の保有制度の改革資金調達手段へのアクセス拡大アグロフォレストリーの新しいモデルに重点を置く

- 農民と直接締結する 環境保全活動に対する報酬 契約に着手する

- 衛星による監視 を活用し、ホットスポット地域における違法な森林伐採の追跡と、森林伐採に対する警告発令を行う

その日に蒔いた種で判断

森林伐採を止めることは、社会的、経済的、環境的な問題であり、複雑です。景観アプローチは徐々に広がりをみせていますが、そのデザインと実行は極めて難解です。そのため、ステークホルダー間の十分な信頼構築と、森林伐採の主な要因に対する徹底した理解と分析、複雑な政策と投資行動の調整および順序付けが必要になります。

カカオと森林イニシアチブの取り組みを実行するとき、私達には適応性と柔軟性、そして忍耐強さが求められます。間違いなく失敗もするでしょう。ですから私達は、農民やコミュニティ、現場のその他の地域パートナーとともに学び、活動を続けていくなかでプランとタイミングを調整する必要があります。

「日々の良し悪しは、その日の収穫ではなく、その日蒔いた種で判断せよ」というギニアのことわざがあります。イニシアチブの参加企業と政府は前に進んでいます。この困難で複雑な道のりに、開発パートナーや環境保護団体、その他のステークホルダーが加わることを、私達は願っています。力を合わせて正しい種を蒔き、カカオと森林の持続可能な景観のなかで大切に育てましょう。

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