第四次産業革命

2019年、10の明るい見通し

ルワンダはドローンの規制と使用において、血液輸送など先駆的な取り組みを進めています

ルワンダはドローンの規制と使用において、血液輸送など先駆的な取り組みを進めています Image: 画像:ロイター/James Akena

Oliver Cann

楽観的な人でも、2018年は大変な年であったと感じるでしょう。1年前の2018年年次総会で取り上げられた「分断された世界」は、ポピュリストたちのレトリックと国家主義者たちの計略によって一層の圧力を受け、同時に気候変動や不平等、自動化が仕事に与えるインパクトなどの課題に対して世界が協調して対応する喫緊性がますます高まりました。

こうした状況を見て2019年の世界を悲観的に捉えることは簡単かもしれません。しかし、新しい機会にも期待することができます。それはより強靭な社会を構築し、世界をより持続可能な場所にする可能性を持つ機会である、イノベーションと責任のあるリーダーシップの両方が合わさることで実現します。こうした機会は世界経済フォーラムの官民連携プラットフォームを通じて実現可能なものもあります。過去12カ月の進捗に基づいて、2019年に期待できるいくつかの明るい話題を紹介します。

1) 海洋の保護:世界は海洋プラスチック問題に注目し始めています。当フォーラムは2015年に海洋プラスチックが2050年までに魚類の数を超えると予測し、 その調査結果を公開しました。これを受けて、多くの国が使い捨てプラスチックの使用禁止を導入しています。なかでも、EUは昨年12月下旬に10品目の禁止を 宣言しました。その後、海洋への流出という当初の問題点から、プラスチックの生産を止める方法の模索へと焦点は移行しています。政府、企業、世界銀行の連携により、当フォーラムのグローバル・プラスチック・アクション・パートナーシップは、2019年にインドネシアなどの国においてパイロット事業を開始。この問題に対する専門性を具現化することを目指しています。

2) 人 :第四次産業革命により人間だけができる仕事がますます空洞化していくという脅威があります。しかし、当フォーラムが行った最新の 未来の仕事に関する調査によると、現実は多少異なるようです。AIやその他の新しいテクノロジーによって仕事を失う可能性は拡大するかもしれませんが、より多くの仕事が生み出されることも期待されます。ただし、それらの仕事に合ったスキルを持つ人々を配置できることが条件になるでしょう。当フォーラムのイニシアチブ「 クロージング・ザ・スキル・ギャップ」は、26の創設パートナーの支援によりタタ・コンサルタンシー・サービシーズが開発したテクノロジー・プラットフォーム。2020年までに1,000万人に新しいスキルの提供を目指すことを2018年に宣言しています。この目標は達成されるのでしょうか。進捗が期待されます。

3) 寿命の延命 :人間が排出する温室効果ガスの15%は家畜生産に起因し、そのうちの40%は食用や酪農用の牛から排出されています。この産業が与える環境影響を低減して人間の死亡率を削減し、かつ、畜産農業を営む世界何百万人もの人々の生活を改善して、消費者により多くの選択肢を与えることができるとすればどうなるでしょうか。1月に公開した当フォーラムの画期的な調査結果がその答えを明らかにしました。

4) ドローンの救急利用:無人航空機は、戦地での利用と並び、人命救助や食料安全保障の推進、経済成長の促進を象徴するものとなっています。この分野を先駆的に進めている国はルワンダ。ドローンを使用した血液の輸送や人命救助を国内で展開しています。2018年に、当フォーラムは、ルワンダが実績に基づいたドローン規制を実施する最初の国となるための支援を行いました。この規制により、大きさや形状にかかわらずすべてのドローンが領空にアクセスすることが認められます。当フォーラムは、ルワンダ政府がこの分野において急速に発展するイノベーションから遅れをとることなく、ドローンの利用方法を拡大し、他国のモデルとなるために支援しています。当フォーラムが新しいドローン・イノベーターズ・ネットワークを立ち上げたのに続いて、6月にはチューリッヒで世界初の全国無人交通管理システムのデモンストレーションが披露されました。この分野における当フォーラムの取り組みは、ドローンの安全使用を向上させ、社会的にインパクトを与えるこのテクノロジーの活用を世界中で加速させていくでしょう。

5)感染症大流行の防止:2014年から2016年にかけて西アフリカで起こったエボラウィルスの大流行により、主要な伝染病の大流行に対して私達がいかに脆弱であるかが明らかになりました。 2017年の年次総会において発足した感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は、感染症のワクチン開発を推進するための資金提供により、この問題に対処することを目的としています。発足後2年足らずで、CEPIはすでに15~20種類のワクチンを開発しています。開発されたワクチンのうちラッサ熱、中等呼吸器症候群MERS、ニパウィルス感染症の3種は、世界保健機関が「緊急の脅威」に指定するものです。2019年はさらに多くのパートナーがこの連合に参加し、人間の健康に脅威となる新たな感染症に対抗するワクチンが多く開発されることが求められています。こうした感染症には、蚊によって媒介され、「曲がるもの」に名前が由来するチクングニア熱やリフトバレー熱が挙げられます。

6)生物多様性の促進:2018年、世界自然保護基金は第6番目の絶滅危機から人類を守るのは、思い切った変化のみであると警告し、私たちが直面する自然保護の課題の大きさを強調しました。このアプローチの1つは、生物多様性を破壊するのではなく、保護するための人類への動機づけです。これは、ヒトゲノム計画にならい2018年にダボスで発足した、自然の状態を保ちながら経済的価値を引き出す方法を特定する アース・バイオゲノム・プロジェクトの目標です。 早々に得た成功事例から、地球上の生物の保護と経済成長の促進が相反するものではないことが明らかとなっています。

7) 女性 :世界経済フォーラムはグローバル・ジェンダー・ギャップを評価しているだけではなく、積極的にその是正に向けても取り組んでいます。当フォーラムの官民連携プラットフォームを通じ、チリ、フランス、アルゼンチンなど多くの国で男女平等に向けて取り組むタスクフォースは、自国のジェンダーギャップを 3年以内に10%縮小する目標を掲げています。また、女性がいかに第四次産業革命により労働市場で予想される変化に対して脆弱であるかよく知られるところとなっています。2019年は、多くの女性が将来的に価値の高まる仕事でキャリアをスタートできるよう支援していきます。

8) 第四次産業革命の発動:第四次産業革命においてもたらされる人類や社会のあらゆる発展も、必要とするものを責任と持続性をもって構築する方法が分からなければ無意味です。例えば、リチウムイオン電池の原料であるコバルトを児童労働により抽出されないようにすることはできるのでしょうか。あるいは、毎年排出される5,000万トンもの電子機器廃棄物が人間の健康や環境にどのような影響をもたらすのでしょうか。2019年、当フォーラムの グローバル・バッテリー・アライアンスは、低炭素社会が人間と環境にもたらす二次的な影響を可能な限り削減するための取り組みを加速させます。1月には、電気・電子機器廃棄物の問題への対処法に関する新しい調査結果とアイデアを公開しました。

9) 違法漁業の撲滅:海洋保護区における産業規模の漁業活動は、生物多様性だけでなく、海洋によって生計を立てる世界何百万人の生活を破壊しています。当フォーラムの フレンズ・オブ・オーシャン・アクションは、2019年に違法漁業の局面を逆転させるための施策を積極的に模索し、新たなテクノロジー・プラットフォームを発足させ、海洋保護区からの収穫物を荷揚げすることを難しくさせる政治的な意向を形成していきます。

10) 新しい外交:変化し分断する世界の影響を受ける現在の国家間システムは、自国の利益だけに妥協することなく、協調する方法を構築する必要性を各国政府に突き付けています。欧州連合と西バルカン諸国の近年の取り組みをみて判断するのであれば、当フォーラムのプラットフォームがそのようなモデルの1つとなるでしょう。2018年のダボスでの初会合を皮切りに、同地域のリーダーたちはソフィアやジュネーブにおいて会合を続けました。地域の頭脳流出防止や第四次産業革命への準備といった 共通の課題に焦点を当て、新しい協力の精神が根付こうとしています。

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