限界を迎えた現代社会を解放する、Society 5.0

未来へ向けて - 都内で新年を祝う少年 Image: イメージ: ロイター/Reuters/Kim Kyung-Hoon

Hiroaki Nakanishi
Chairman, Keidanren

デジタル革新による変化

今、急激な変化の波が世界に迫っている。デジタル革新の波は止まることなく、個人の生活や行政、産業構造、雇用などを含めて社会のあり方を大きく変えていく。技術の進歩により社会が進む方向には、無数の選択肢がある。技術は生活の質や利便性の向上などのメリットをもたらす一方で、雇用への影響や格差の拡大、富や情報の偏在などの影の面も生じさせうる。それをどちらの方向に導くかは私たち次第である。未来がどのような社会になるかを予測するのではなく、どのような社会を創りたいかという視点をもたなければならない。

Society 5.0とは

こうした背景から、日本は、次の社会を「Society 5.0」と名付け、その理想像を示すことで、世界をより明るい未来に導いていきたいと考えている。2018年11月に経団連が公表した最新の報告書では、Society 5.0を「創造社会」と再定義した。

人々に期待されるのは、社会に散らばる多様なニーズや課題を読み取りそれを解決するシナリオを設計する豊かな想像力と、デジタル技術やデータを活用してそれを現実のものとする創造力である。Society 5.0は、創造社会であり、「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」となる。これは、国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献できる概念である。

Society 5.0のもたらすもの

Society 5.0では、Society 4.0まで克服できなかったさまざまな制約から解放され、多様な生活や価値を追求できる自由を獲得する。

人々は、効率重視から解放され、ひとつひとつのニーズに応え、課題を解決し、価値を創造することに重きを置くようになる。

人々は、性別や人種、国籍等による差別、考え方や価値観の違いによる疎外といった個性の抑圧から解放され、暮らし、学び、働くことができるようになる。

人々は、富や情報の集中によって起きる格差から解放され、誰もがいつでもどこでも活躍する機会を得られるようになる。

人々は、テロ、災害、サイバー攻撃に対する不安から解放され、失業や貧困に対するセーフティネットのもとで安心・安全に暮らせるようになる。

人々は、資源や環境の制約から解放され、どの地域にいても、持続可能な生活を送れるようになる。

つまり、Society 5.0では、誰もが、いつでもどこでも、安心して、自然と共生しながら、価値を生み出す社会を目指していく。

ヘルスケアの場合

報告書ではSociety 5.0のいくつかの重要分野を取り上げて、具体的な社会像を示している。

ヘルスケアを例にとると、人々が健康で長生きできるように、個々人の健康・医療データを生涯にわたり収集し分析することによって、個別化された予防ケアを提供できる。 日本がこのようなヘルスケアシステムの構築に成功すれば、近い将来高齢化社会に直面する他の国々にも適用でき、SDGsの第3のゴールの達成に貢献することができる。経団連は政府に対し、健康データと医療データを統合する基盤を確立し、さまざまな関係者がより良いヘルスケアサービスを提供するために利用できるようにすることを政府に求めている。同時に、縦割りを打破し、包括的なヘルスケアシステム構築に向けたパートナーシップを築くために、学術界や医学界と対話を続けている。

経団連は、Society 5.0の実現に向けて、政府やその他のステークホルダーとともに、企業や労働政策の改革、人材育成、データポリシーの確立、研究開発の強化、行政改革などに取り組んでいる。世界のパートナーの皆さまと目標を共有し、共に未来を創造していきたい。

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