世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子naoko.tochibayashi@weforum.org
2026年6月23日 、中華人民共和国、大連 — 家庭内の安全対策の改善、身体活動プログラム、補聴器へのアクセス拡大といった身近で低コストな施策により、2040年までに4億件の家庭内転倒、850万件の新たな2型糖尿病、240万件の認知症発症を防ぐことができます。また、5.8兆ドルの医療費削減と6,450億ドルの生産性向上も期待されます。しかし、政府や企業は依然として健康、資産形成、労働参加を個別に捉えており、その結果、大きな社会・経済的機会が十分に活かされていないことが、世界経済フォーラムの新たな報告書で明らかになりました。
マーシュと共同で作成した報告書「長寿配当:健康と資産を結び付けるビジネスケース(The Longevity Dividend: The Business Case for Linking Health and Wealth)」では、21カ国における予防戦略を分析し、補聴器へのアクセス拡大、家庭内の簡易な安全対策、身体活動プログラムという3つの低コスト施策が、2040年までに大きな経済価値を創出し得ることを示しています。
健康状態の悪化は、医療制度や個人の家計に負担をもたらし、経済的レジリエンスを損なうだけでなく、社会全体にも大きなコストを発生させます。例えば、介護のために1年間就業を離れた女性は、離職による影響と男女間の賃金格差が重なることで、退職後資産が24%減少する可能性があります。しかし、こうした課題は経済への影響が拡大しているにもかかわらず、多くの組織や制度において個別に扱われています。
世界経済フォーラムのロンジェビティ・エコノミー担当リードであるハレ・ナゼリは次のように述べています。「ロンジェビティ(長寿)とは、単に高齢化を意味するものではありません。この数兆ドル規模の変化を活かすためには、政府、企業、個人が身体的健康と経済的健康を一体的に捉える必要があります。それによって、経済的レジリエンスの向上、医療費の削減、そして経済全体の生産性向上を実現できるのです」。
報告書は、人口の健康改善と経済的利益の双方に大きく貢献する可能性がある3つの重点分野を示しています。
・転倒予防:公衆衛生インフラとしての住宅安全対策
住宅の安全対策は、予防の経済価値を最も明確に示す例の一つです。滑り止めテープ、階段照明、手すりの設置といった簡単な改修によって、2040年までに約4億件の家庭内転倒を防ぐことができます。これは、高齢で転倒リスクの高い人々の住宅改修に必要な世界全体の初期投資額4,000億ドル未満に対し、累計で5兆ドル超の医療費削減をもたらす可能性があります。転倒は健康状態の連鎖的悪化や長期介護の必要性を引き起こす場合が少なくありません。転倒予防によって、特に女性に偏りがちな介護負担を軽減し、数百万人が労働市場にとどまることを可能にします。また、本来失われるはずだった3,630億ドル相当の生涯所得と経済的安定の維持にもつながります。サウジアラビアでは、住宅改修によって2040年までに33万件の転倒を防ぎ、38億ドルの医療費削減が可能と試算されています。
・身体活動と糖尿病予防:規模の効果が最も大きい分野
第2の重要分野は、特に大規模展開による2型糖尿病予防です。世界保健機関(WHO)が推奨する身体活動促進プログラムを地域レベルで実施することで、2040年までに世界で850万件の新たな糖尿病発症を防ぐことができます。必要な費用は1人当たり約1〜40ドルです。この取り組みにより、1,250億ドル超の生産性向上と850億ドルの医療費削減が期待されます。分析対象国の中で最大の機会を持つのは中国であり、糖尿病予防によって50歳以上の人々に1,600万年分の健康寿命を追加できる可能性があります。これは、予防を優先した場合に実現し得る成果を示しています。
・補聴器アクセス拡大と認知症予防
第3の施策は、認知症リスクを低減するための補聴器アクセス拡大です。難聴と認知症発症の関連性を示す研究は増えています。しかし、WHOによると、世界で推定4億人いる難聴者のうち、補聴器を利用できている人は20%未満にとどまっています。補聴器は認知症予防だけでなく、高齢期におけるコミュニケーション能力、社会的つながり、自立性の維持にも寄与します。世界全体で補聴器へのアクセスを拡大した場合、2040年までに240万件の認知症発症を防ぎ、3,250億ドル超の医療費削減が可能となります。
高所得国では、この施策だけで導入コストを十分に回収できます。例えばオランダでは、補聴器アクセス拡大によって8,000件超の認知症発症を防ぎ、医療制度全体で20億ドルのコスト削減が見込まれています。
これら3つの施策は、健康と経済的成果を別個の政策領域としてではなく、相互に関連する課題として捉えることで生まれる可能性を示しています。
経済的な意義は明白です。この機会を活かすためには、政府が予防と健康的な高齢化を軸に、健康・金融・労働政策および予算をより整合的に設計する必要があります。また、企業には従業員向けの身体活動促進や介護支援を優先課題として取り組むことが求められます。さらに、成功事例を各国で拡大するためには、官民連携も不可欠です。
マーシュのビジネスであるマーサーの社長兼CEOである、パット・トムリンソン氏は次のように述べています。「長寿は、あらゆる世代、あらゆる産業、あらゆる経済に影響を及ぼします。私たちの研究は、健康、金融、労働の分断を取り払い、リーダーたちが早期に行動を起こせば、経済成長を促進し、人々のウェルビーイングを向上させ、企業、政府、そして社会全体に持続的な価値を生み出せることを示しています」。
本報告書の定量分析は、21カ国における長寿関連施策の経済的影響を評価したものです。対象国は、地域、多様な発展段階、人口年齢構成を考慮して選定されています。対象国は、ブラジル、カナダ、中国、コロンビア、クロアチア、フランス、インド、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、韓国、サウジアラビア、シンガポール、タイ、アラブ首長国連邦、英国、米国、ベトナムです。
第17回 ニュー・チャンピオン年次総会は、「イノベーションの波及と深化」をテーマに、2026年6月23日から25日まで、中国の大連で開催されます。
本会合には、各分野から1,700人のリーダーが集い、急速に変化するグローバル環境の中、イノベーションや新興技術がどのように新たな成長モデルを生み出し、経済の前向きなモメンタムを促進できるかについて議論します。