世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2026年6月18日 、スイス、ジュネーブ— 世界経済フォーラムが発表した「エネルギー・エネルギー転換指数(ETI)2026」によると、地政学的緊張の高まり、供給網の混乱、エネルギー需要の増加を背景に、世界のエネルギーを取り巻く環境は分断化が進み、エネルギー転換の勢いは鈍化しています。
アクセンチュアとの協力のもと作成された報告書は、より持続可能で、公平かつ安全なエネルギーシステムへの転換として定義される世界のエネルギー転換が、過去最高となる3.3兆ドルの投資(うち2.3兆ドルがクリーンエネルギー関連)にもかかわらず停滞していることを示しています。報告書では、資本投入と転換準備態勢(トランジション・レディネス)との間に拡大するギャップが広がっており、転換準備態勢は10年以上ぶりに低下したとしています。これは、投資だけでは転換の勢いを維持できなくなっていることを示唆しています。
ホルムズ海峡で発生した混乱は、本指数が指摘してきた既存の圧力をさらに強めており、エネルギーシステムが依然として地政学的ショックに対して脆弱であることを改めて浮き彫りにしています。特にエネルギー輸入への依存度が高い新興国では、その影響が顕著に表れています。供給リスクや構造的制約により、各国はますます大きく、かつ不均衡な負担に直面しており、経済性、レジリエンス、長期的な持続可能性に影響を及ぼしています。今回の危機への対応は、エネルギー安全保障と持続可能性を相反するものと捉えるのか、それとも相互補完的な目標として位置付けるのかを左右する重要な試金石となるでしょう。
世界経済フォーラム エネルギー、マテリアル部門長のロベルト・ボッカは次のように述べています。「エネルギー転換は後退しているのではなく、分断化が進んでいるのです。より不安定な地経学的環境のなかで、安全保障、経済性、レジリエンスは進展を維持するための中核的要素となっています。目標と実行のギャップを埋めるためには、より多様で強靱なエネルギーシステムの構築、インフラ整備の加速、そして必要とされる市場へ資本を届ける仕組みなど、より強固な基盤づくりが求められます」。
エネルギー・エネルギー転換指数(ETI)は、各国のエネルギーシステムを「安全保障」「持続可能性」「公平性」の3つの主要指標と、転換を支える「トランジション・レディネス」の観点から評価しています。2026年版では、総合スコアは前年からほぼ横ばいとなり、世界全体で転換の勢いが鈍化していることが示されました。
資金調達環境の悪化やインフラ制約を背景に、エネルギー安全保障と「トランジション・レディネス」が低下し、他分野でみられた改善効果を打ち消しました。こうした逆風にもかかわらず、対象国の60%で総合スコアが改善しました。一方で、バランスの取れた進展を実現している国は限られており、「安全保障」「持続可能性」「公平性」、3つの主要指標すべてで改善を達成した国は全体の4分の1にとどまっています。
アクセンチュア グローバル・インダストリー・アンド・エンタープライズ部門責任者のムクシット・アシュラフは次のように述べています。「エネルギー転換は、より混乱が大きく困難な段階へと入りつつあり、企業にとってレジリエンスの強化はこれまで以上に重要な課題となっています。テクノロジーやAIを活用して適応力を高め、意思決定を強化し、変化への対応力を向上させる企業は、不確実性を乗り越えながら持続的な成長を実現できるでしょう」。
ETIランキングでは、北欧諸国が引き続き上位を占めました。一方、シンガポールは新たな規制導入と政治的コミットメントの強化を背景に10順位上昇し、最も大きく順位を伸ばした国の一つとなりました。先進国は上位20カ国中14カ国を占めましたが、進展は限定的で、平均スコアの上昇率は前年比0.2%にとどまりました。G20諸国では、ドイツ(9位)、フランス(10位)、英国(11位)、中国(14位)、ブラジル(17位)、米国(19位)がトップ20入りを果たしています。日本は、24位。主要経済国の中では、中国が過去最高規模のクリーンエネルギー投資を継続し、インドは転換準備態勢で最も大きな改善を示した国の一つとなりました。米国は総合順位でわずかに後退したものの、エネルギー安全保障の面では引き続き高い評価を維持しています。
地域別では、サハラ以南アフリカ地域が最も大きな改善を記録した一方、中南米地域では「トランジション・レディネス」の低下により全体的に後退しました。ブラジルはエネルギーミックスの強みを背景に地域のリーダーとしての地位を維持しています。中東・北アフリカ地域でも政策コミットメントやインフラ投資の弱まりにより進展が鈍化しましたが、サウジアラビアは大規模な財政支援と再生可能エネルギー導入の拡大によって改善を示しました。
こうした地域間の格差は構造的な要因によって形成されています。電化の進展、冷房需要の増加、デジタルインフラやAIの拡大を背景に、世界の電力需要は3%増加しました。電力需要の伸びはエネルギー転換における主要な制約要因となりつつあります。需要増加の約80%は新興国が占めていますが、これらの国々は依然として高い資金調達コストやインフラ不足に直面しています。また、過去最高水準の投資にもかかわらず、クリーンエネルギー投資の約75%は限られた国々に集中しており、資本が投入される地域と需要が拡大する地域との間のギャップが拡大しています。
報告書では、今後の進展を維持するための3つの優先課題を提示しています。第一に、危機発生後の対応ではなく、エネルギーシステム設計の初期段階から安全保障とレジリエンスを組み込むこと。第二に、送電網の拡張とシステム統合能力の強化を加速し、実行上のボトルネックを解消すること。第三に、安定した政策枠組みと的を絞った資本供給を通じて投資環境を改善し、とりわけ将来の需要拡大を牽引する新興国への投資を促進することです。
これら3つの課題に同時に取り組む国こそが、今日の圧力を将来の競争優位へと転換し、変化する世界の中で持続的な成長を実現できるでしょう。
関連ビジュアル・図表(英語のみ)
エネルギー・エネルギー転換指数2026は、世界経済フォーラムが16年以上にわたり実施してきたベンチマーキングの成果を基盤とし、120カ国を対象に44の指標を用いて、現在のエネルギーシステムのパフォーマンスと将来への備えをデータに基づいて評価しています。「安全保障」「持続可能性」「公平性」、3つの成果指標に加え、政策、金融、インフラ、イノベーションなど転換を支える基盤要素も評価対象としています。総合スコアは、エネルギーシステムの成果(60%)と転換準備態勢(トランジション・レディネス)(40%)を組み合わせて算出されています。結果は、データ収集時点で利用可能な最新データに基づいています。
