<報告書発表> 岐路に立つグローバルな協力体制 高まる地政学的不確実性の中にある可能性

発行済み
2025年01月07日
2025
シェア

世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org

  • 世界経済フォーラムが発表した「グローバル・コオペレーション・バロメーター」は、高まる地政学的な緊張と不安定化により、グローバルな協力体制が「停滞」していることを示しています。ただし、気候変動対策資金、ヘルス、イノベーションにおける前向きな動きが希望をもたらします。
  • 変動性が高まる時代にあって、リーダーたちは、目に見える成果をもたらし、信頼を構築するために、「無秩序な」協力と、ダイナミックでソリューション主導の意思決定を受け入れる必要があります。
  • AIとその他の新興テクノロジーが激変を引き起こし、グローバル情勢を再形成しつつあります。メリットを活用し、リスクを最小限に抑えるためには、協調的な協力が不可欠です。
  • 「グローバル・コオペレーション・バロメーター」および付随するレポートは、こちら
    年次総会の詳細はこちら。ソーシャルメディアでは、ハッシュタグ #WEF25 をご活用ください。

202517日、スイス、ジュネーブ 世界経済フォーラムは「グローバル・コオペレーション・バロメーター」を発表しました。この指標は、グローバルな協力体制の現状を厳密に評価し、競争と紛争が激化する世界を描き出すと同時に、革新的な協力関係を通じて進歩を推進することのできる様々な分野を特定しています。地政学的、技術的、社会政治的な激動のさなかに発表された本レポートは、同フォーラムの年次総会に伴って発表される報告書の目玉となるものであり、共通の課題に取り組む緊急性を強調すると同時に、変化する世界における協力のあり方についてリーダーたちに指針を提供します。

マッキンゼー・アンド・カンパニーの協力をもとに取り組んだ「グローバル・コオペレーション・バロメーター2025」は、41の指標を用いて現在のグローバルな協力体制の状況を測定。「貿易と資本」、「イノベーションとテクノロジー」、「気候変動と自然資本」、「ヘルスとウェルネス」、「平和と安全」の5つの柱に沿って、広義の協力の輪郭をより深く理解するためのツールをリーダーたちに提供します。今回が第2回目となる本レポートでは、新たなデータを用いて、特に新テクノロジー時代の影響に焦点を当てると同時に、グローバルな協力体制の現状に関する最新情報を共有しています。

同フォーラムのボルゲ・ブレンデ総裁・CEOは、次のように述べています。「世界が大きな不安定さを抱える中、多くの新政権が今年に始まる任期中の政策を策定しています。このような情勢のもと、本レポートが示すのは、重要な経済、環境、技術的課題に対処するためには連携が不可欠であるだけでなく、それが今日のより不安定な状況下でも可能であるということです」。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのグローバル・マネージング・パートナーであるボブ・スターンフェルズ氏は、「2回目の本レポートでは、現在のグローバルな協力体制の現状と、新テクノロジー時代における協力体制のあり方に焦点を当てています」と、述べています。「グローバルなイノベーション、健康、繁栄、レジリエンスの向上は、単独では不可能です。リーダーたちは、意見が一致しない場合であっても主要な優先事項について協力するための新たな仕組みを必要としており、過去数年間で、そのバランスを取ることは可能であることが分かっています」。

最新版となる本レポートでは、グローバルな協力体制が重大な岐路に立たされていることを強調。分析によると、10年にわたって前向きな傾向を示し、パンデミック前の水準を上回っていた全体的な協力体制が停滞していることが明らかになりました。

これは、地政学的な緊張と競争の高まりにより、グローバルな集団安全保障が著しく損なわれたことが原因であり、過去7年間でバロメーターの「平和と安全」の柱が急激に低下したことが要因となっています。紛争およびそれに伴う人道危機のレベルは、中東、ウクライナ、スーダンなどの危機(ただし、これらに限定されない)により、過去1年間で記録的なレベルにまで増大しました。

東西冷戦後の時代を特徴付けていたおおむね安定した協力体制は、より断片化された状況へと変化しつつあります。しかし、気候変動対策から技術的ガバナンスに至るまで、差し迫った課題に対する解決策は依然として相互に依存し合ったままです。また、グローバルな安全保障上の危機にもかかわらず、新たな調査結果では、ワクチン配布、科学研究、再生可能エネルギーの開発など、様々な分野で協力が継続されていることが示されており、今後の協力のモデルとなることが期待されます。

本レポートによると、近年は「平和と安全」の柱が著しく低下しているとはいえ、バロメーターの他の4つの柱は依然として堅調であり、国際協力の新たな機会が生まれていることが明らかになりました。

  • イノベーションとテクノロジー:半導体などの特定の最先端技術をめぐる地政学的な競争が高まっている一方で、2023年にはグローバル経済のデジタル化も一因となり、テクノロジーとイノベーションに関するグローバルな協力体制は全体として進展。これにより、新技術の採用、重要鉱物の供給の大幅な増加(それに伴うリチウム電池の価格低下)、学生の流動性の回復が促進されました。しかし、AIなどの新興テクノロジーによる急速な混乱が世界の状況を再形成し、地政学的な競争の新たな最前線、あるいは「AIによる軍拡競争」さえも引き起こす可能性が高まっています。その莫大な潜在能力を活用しながらリスクに対処するには、協調的なリーダーシップと包摂的な戦略が鍵となります。
  • 気候変動と自然資本:気候目標に関する協力は、過去1年間で改善が見られています。太陽、風力、電気自動車などの低炭素技術への資金流入と取引量が増加しました。しかし、グローバルな二酸化炭素排出量は増加の一途をたどっており、ネットゼロ目標を達成するには緊急に行動が必要です。2030年までに気候目標を達成するために必要なことはテクノロジーのスケールアップと資金確保であり、そのためにはより大きな国際協力体制が不可欠です。
  • ヘルスとウェルネス:平均余命を含む一部の健康指標は、パンデミック後も改善を続けています。しかし、全体的な進捗は2020年以前と比較すると鈍化。国境を越えた支援や医薬品の研究開発は減少しており、ヘルスケア関連製品の貿易や国際規制に関する協力も停滞しています。一方、乳幼児や妊産婦の死亡率を含む様々な健康指標は依然として高い水準にあります。健康リスクの高まりと人口高齢化を踏まえ、リーダーたちは公衆衛生と持続可能な医療体制の強化に向けたグローバルな協力体制に投資すべきです。
  • 貿易と資本:2023年の商品やサービス、貿易、資本、人の流れに関する指標は、良くなったものも、悪化したものもありました。貿易は5%減少しましたが、これは主に中国およびその他開発途上国の成長鈍化によるものです。一方で、グローバルな分断化により、西側諸国と東側諸国間の貿易は引き続き減少。しかし、サービス、資本、人のグローバルな流れは、レジリエンスを示しました。また、外国直接投資は、特に半導体やグリーンエネルギーといった戦略的分野において急増。労働力の移動や送金も力強く回復し、パンデミック前の水準を上回りました。

今後、リーダーたちは、競争が激化する中でも協力し合う方法を模索する必要があります。なぜなら、国民の信頼と支持を維持するためには、目に見える成果が不可欠であるためです。本レポートは、激動するグローバル情勢を乗り切るために、適応力に優れた、ソリューション主導型のリーダーシップが緊急に必要であることを強調して結ばれています。協調的な解決策に軸足を移すことで、指導者たちは信頼を再構築し、意義ある変化を推進し、複雑な時代における共通の進歩とレジリエンスのための新たな機会を切り開くことができるでしょう。

「グローバル・コオペレーション・バロメーター」における調査方法について

2024年に初めて発表されたグローバル・コオペレーション・バロメーターは、相互に関連する5つの柱、すなわち「貿易と資本」、「イノベーションとテクノロジー」、「気候変動と自然資本」、「ヘルスとウェルネス」、「平和と安全」におけるグローバルな協力体制を評価します。41の指標に基づいて構築されており、協調行動指標(貿易量、資本フロー、知的財産の交換など、具体的な協力の証となるもの)と成果指標(温室効果ガス排出量の削減や平均余命の改善など、より広範な進捗状況の測定値)に分類。パンデミック時代の変化を反映するために2020年を基準年に設定しており、本レポートでは2012年から2023年までを分析対象としました。また、比較可能性を確保するためにデータを標準化(例えば、金融指標はグローバルGDPと、移民指標は人口レベルと比較)し、各柱の中およびそれぞれの間で同様に重み付けを行っています。

年次総会2025について

2025年1月20日から24日までスイスのダボス・クロスタースで開催される世界経済フォーラム年次総会は、「インテリジェント時代における連携」をテーマに、世界のリーダーたちを招集して行われます。本会合では、テクノロジーが急速に進歩する時代における5つのサブテーマ「成長の再構築」、「インテリジェント時代における産業」、「人材投資」、「地球環境保全」、「信頼の再構築」に焦点を合わせ、より持続可能かつ包摂的な未来を形作るための新たなパートナーシップと洞察を促進します。詳細はこちら

<ご参考>

世界経済フォーラムの 寄稿文日本語 | スペイン語 | 中国語で読む
フォーラムの インパクトの詳細を知る
フォーラム ストラテジック・インテリジェンストランスフォーメーション・マップ
フォーラムの動画写真、X @wef@davosインスタグラムリンクトインティックトックウェイボーポッドキャストフェイスブックYouTubeでフォローする
英文プレスリリース配信登録

世界経済フォーラムは、世界官民両セクターの協力を通じて世界の現状の改善に取り組むことを目的とする国際機関です。1971年に設立された同フォーラムは、政府、ビジネス界、学術界および市民社会の第一線で活躍するトップリーダーと連携し、世界をより良くすることを目的に様々な活動を行っています。(www.weforum.org)

すべての意見は、著者によるものです。世界経済フォーラムは、独立かつ中立なプラットホームとして、​グーロバル、地域、産業のアジェンダを形成する話題に関わる議論の場を提供しています。

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2025 世界経済フォーラム