世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2024年9月25日、スイス、ジュネーブ - インフレの緩和と活発な世界貿易が回復への慎重な楽観論をかきたてる一方、債務水準の高まりが大きな懸念となりつつあることが明らかになりました。世界経済フォーラムが発表した最新の「チーフエコノミスト・アウトルック」によると、債務水準は先進国で53%、開発途上国で64%と、いずれにおいても高くなっています。
本レポートは、主要なチーフエコノミストを対象とした調査に基づいており、債務水準と財政の課題が世界経済に大きな圧力を与え、将来の危機に対して脆弱な状態にしていることを強調しています。懸念が高まっているのは、債務返済コストの上昇により、各国政府がインフラ、教育、ヘルスケアなどの重要な分野への投資を制限されるという「財政圧迫」の可能性です。経済学者の39%が、今後1年間に開発途上国で債務不履行が増加すると予想しています。
「グローバル経済は安定化しつつあるかもしれませんが、財政上の課題が依然として重大なリスクをもたらしています。」と、世界経済フォーラム取締役のサーディア・ザヒディは述べています。「これらの課題に対処するには、政策立案者とステークホルダーが協調して取り組む必要があります。そうすることで、経済回復がこうした圧力によって損なわれないようにしなければなりません。今こそ、財政のレジリエンス(強靭性)と長期的な成長の両方を強化できる現実的な解決策が必要とされているのです」。
地域別見通し:経済成長の格差と債務リスク
グローバル経済の見通しは地域によって大きく異なります。米国では、90%近くのチーフエコノミストが2024年と2025年に緩やかな成長または力強い成長を予測しており、これは金融引き締め政策の実施期間を経て「ソフトランディング」が実現するという自信の表れです。調査対象者の約80%が、米国大統領選挙の結果がグローバルな経済政策に大きな影響を与えることに同意しており、多くの回答者が選挙関連のリスクを今後1年間の主な懸念事項として挙げています。
一方、欧州については回答者のほぼ4分の3が、今年末まで成長は低迷すると予想しています。同様に、中国の苦境も続いており、エコノミストのほぼ40%が2024年と2025年の両方で成長は「低迷」、または「非常に低迷」すると予測しています。
その他の地域における成長見通しはまちまちです。サハラ以南のアフリカでは、緩やかな成長またはそれ以上の成長が見込まれており、2024年の55%から2025年には71%に改善すると予想されています。中東および北アフリカ地域は依然として不透明な状況ですが、中南米では緩やかな改善が見込まれており、2025年には成長がわずかに加速すると予想されています。南アジアも際立っており、インドの堅調な業績に牽引されて、2024年と2025年には70%以上のエコノミストが「強い成長」または「非常に強い成長」を予測しています。
世界的なインフレは引き続き緩和傾向にあり、多くのチーフエコノミストが来年の見通しに楽観的な見方を示しています。米国では、高インフレを予測するチーフエコノミストの割合が、2024年の21%から2025年には6%に減少。欧州も同様の傾向をたどると予想されており、高インフレ予測は今年の21%から来年は3%へと低下しました。このことは、政策立案者にとっていくらか安心材料となるでしょう。
チーフエコノミストの過半数(54%)は、短期的には世界経済の状況は安定を維持すると予想していますが、37%は状況が悪化すると予想しており、改善を予想する回答者は9%にとどまりました。
よりバランスの取れた成長を達成する上での課題
政策立案者は、経済成長と環境の持続可能性、経済的平等、社会的結束といった他の優先事項とのバランスを取るといった、高まるプレッシャーに直面しています。回答者の3分の2は、成長が鈍化しても、これらの目標の達成は必要であるということに同意。しかし、現在の取り組みが効果的であると考えるエコノミストはわずか12%です。
よりバランスの取れた成長の達成における主な障壁として挙げられたのは、政治的二極化(91%)とグローバルな協力の欠如(67%)ですが、地政学的な緊張の高まりや国内政治の分裂により、短期的な改善の見通しは決して明るくはありません。
レポートによると、成長の質と量のバランスを取るためには、より大きな政治的コンセンサスと国際協力が不可欠となります。
長期的な経済リスク
今後について、レポートでは、財政的余地が限られているために、各国が将来の危機に対して十分な備えができていないことを強調しています。特に新興国(82%)では先進国(59%)と比較して顕著です。
債務負担の増大は、マクロ経済の安定に対する短期的な脅威であるだけでなく、気候変動、人口動態の変化、社会の結束といった長期的な課題に対処する各国の能力を妨げることにもなります。債務の持続可能性が依然として各国の支出能力に対する大きな制約となっている場合、各国はこうした差し迫った地球規模課題に対処しながら持続可能な成長を維持することに苦戦を強いられる可能性があります。
「フューチャー・オブ・グロース(成長の未来)」イニシアチブについて
「フューチャー・オブ・グロース(成長の未来)」イニシアチブは、スイスのダボスで開催された年次総会2024にて立ち上げられた、成長に関するグローバルな議論を再調整するための2年間のキャンペーンです。このイニシアチブは、新しい経済時代に向けて、イノベーション、包摂性、持続可能性、強靭性のバランスを取る意思決定者を支援します。イニシアチブの一環として、「チーフエコノミスト・アウトルック」は、パブリックセクターと企業のトップエコノミストの見解を四半期毎にまとめ、現在の経済情勢の概要および世界中の意思決定者が直面する主な課題を概説しています。2024年9月版の調査は2024年8月に実施されました。
レポート全文はこちら。
持続可能な開発インパクト会合2024について
2024年の「持続可能な開発インパクト会合」は、9月23日から27日までニューヨークで開催。様々な分野や地域から1,000人を超える世界のリーダーが一堂に会します。本会合は、マルチステークホルダーによる対話と行動を通じて国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速させることを目的とした、フォーラムの年間を通じた取り組みの一環です。
「持続可能な開発インパクト会合」の詳細はこちら。また、ソーシャルメディアでは、ハッシュタグ#SDIM24をご活用ください。
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