世界経済フォーラム パブリック・エンゲージメント・リード 栃林直子
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2020年6月10日、スイス・ジュネーブ – デジタル化により、私たちの経済、社会は、過去20年以上にわたり急激に変化を遂げてきました。デジタル経済を活性化させる源はデータです。データは国境を越えて流通したときに、最も効果的に経済を活性化することができます。しかし、国レベルでのデータの取り扱いルールは多様で、接続性を欠き、時に国境を越えたデータ流通の障壁となるため、市民のデジタルサービスへの信頼を損ね、成長を減速させ、社会全体の利益が損なわれる可能性もあります。新型コロナウイルス感染拡大がもたらす「ニューノーマル」において、多くの人々がネットでつながり、様々なタスクがオンラインへシフトする中で、政府はグローバルなサイバー空間をオープンなものとして維持するために、共同で解決策を見出す必要があります。この新しいレポートは、その実現の方策を示すものです。
2019年まで、国際的なデータ流通と、関連するプライバシー、セキュリティ、データへのアクセスなどの課題に関わるあらゆる側面を討議する場は、存在しませんでした。約1年前、日本が議長国を務めたG20大阪サミットで諸国・地域の首脳が立ち上げた「大阪トラック」は、そのようなデータ流通に関わる最初の国際的なイニシアチブです。「大阪トラック」は、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)という目標に向けた取り組みです。この取り組みに寄与するため、世界経済フォーラムの声がけにより集まった企業、国際機関、学術界のリーダーたちは、この目標達成に向けた枠組みの提言を策定しました。リーダーたちは、データが国境を越えて流通する際に、そのデータが安全に保護されており、必要に応じてアクセスできる状態であることを確保するために、政策立案者や企業が利用できる手法を綿密にまとめました。こういった信頼を構築することで、逆に、各国は国境を越えたデータ流通の障壁を取り除くことができます。
株式会社日立製作所、取締役会長兼執行役の中西宏明氏は、次のように述べています。「現在、国境を越えるデータフローの世界共通ルールは存在せず、地域によりルールは様々です。今後、「信頼性のある」データフローがデジタル社会にとって重要な鍵となります。このコンセプトが「大阪トラック」で討議されて以来、世界経済フォーラムのコミュニティは、信頼性のあるデータフローの実現に向けた明確な道筋をつけるために取り組んできました。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響で誰もが非常に困難な状況にある今、国境を越えるデータフローは、将来の経済活動はもとより持続可能な社会の実現のためにも必要不可欠です。この白書は、世界レベルでの国際コミュニティの一員として、私たちが、このコンセプトをともに実現させるために何をどのように検討すべきか指し示すものです」。
英国BTグループ、グローバルサービス最高経営責任者(CEO)のバス・バーガー氏(Bas Burger)は、次のように述べています。「当社の多国籍のお客様には、180か国に展開する当社のスケーラブルな高性能ネットワークを通じて迅速かつ安全にデータを世界中に流通できる、と信頼をいただいております。統制が取れ、信頼できる、シームレスなデータの越境流通は、お客様のグローバルなサプライチェーンやバリューチェーン、そしてグローバルな発展には必要不可欠です。グローバルなデジタル経済の鍵を握る、この非常に重要かつ複雑な問題への議論を促進させる世界経済フォーラムのイニシアチブを歓迎します」。
本白書は、主に通商交渉担当者、国内規制当局、技術基準設定機関向けに、実践的な行動の要点を提示しています。例えば、政府の通商コミットメントはデータ流通の円滑化を目指すべきであり、また、規制面での協力は他の国内の政策目的との整合性を確保するためのメカニズムを提供できます。信頼性のある自由なデータ流通の実現には、様々なガバナンスの場の横断的な連携が必要です。
重要なことは、相互の信頼性の度合いが異なる政府間でも協働できるということです。新型コロナウイルス感染拡大収束後の世界では、デジタル化への国際的なアプローチがきわめて重要となります。グローバルなサイバー空間が分断化された不確実なものとなる事態を回避するために、今こそ政府を促す必要があるのです。