なぜ人はホームレスになるのか、その解決策は?
国連人間居住計画(ハビタット)は、16億人もの人々が「居住に適さない、混雑した安全でない住宅」に住んでいると推定しています。 Image: Kate Whiting
- 「ホームレスに対する理解を深め、ホームレスをなくすことは可能だという楽観的な見方を喚起する」ことを目的とした展覧会が英国のロンドンで開催。
- 世界中の人々が様々な形態及び理由でホームレス状態にあり、5人に1人以上が居住に適さない住宅に住んでいると推定されています。
- 世界経済フォーラムのレポート、「アフォーダビリティの再構築:包摂的かつ住みやすい都市を実現するための介入策(Reshaping Affordability: Interventions for Inclusive and Liveable Cities)」には、土地利用、持続可能なコミュニティ、インクルーシブデザインを通じて、より手頃な価格で都市に住めるようにするためのアイデアがまとめられています。
2013年の6カ月間、デイビッド・トーヴィー氏が暮らしていたのは赤いプジョー203の中。2024年8月、同氏自身が家の形をした彫刻へと変身させたその車は、英国のホームレスに関する展覧会の目玉を飾りました。
ロンドンのサーチ・ギャラリーにて開催されている展覧会「ホームレスネスを捉え直す(Homelessness: Reframed)」は、英国ウィリアム王子の「ホームワーズ・プログラム」から始まりました。このプログラムは、5年間にわたってホームレスを防ぎ、終わらせるために革新的なソリューションを推進することを目指しています。
この展覧会の開催により期待されているのが、英国における「ホームレスに対する理解を深め、ホームレスをなくすことは可能であるという楽観的な見方を喚起する」ことです。
受賞歴のあるアーティストであり、「アート・アンド・ホームレスネス・インターナショナル」の共同ディレクターでもあるトーヴィー氏は、自身の作品『Home 2013』について次のように述べています。「世の中に存在するもの、起きていることについて真実を伝えたかったのです。何千人もの人々が車中生活をしているのだと」。
同氏が車の中で暮らすようになったきっかけは一つだけではありません。当時30代で、脳卒中を患って事業を失い、大学に戻った後だったとビッグ・イシュー誌に語っています。当時は心身ともに健康を損ない、依存症とアルコール中毒に苦しんでいました。
「画一的な解決策を提示するのではなく、ホームレスになる理由が人それぞれであるならば、そこから抜け出すための解決策や選択肢も、それぞれに用意すべきです。シンプルなことですよね」。
世界のホームレスに関する統計
ホームレスであることの意味は人によって、また世界のどの地域にいるかによっても異なるため、国ごとの比較は容易ではありません。
ホームレスとは、住んでいる場所がシェルターまたは人が住むのに適していない場所であること、もしくは、一時的住居であると定義することができます。さらに、紛争や自然災害による国内避難を考慮する、しないなど様々です。
国連ハビタットの推計によると、世界中で16億人、つまり5人に1人以上の人々が「居住に適さない、混雑した安全でない住宅」に住んでいます。
同組織の報告書「都市の未来像(Envisaging the Future of Cities)」の中では次のように述べられています。「スラム及び非正規居住地は低・中所得国の都市の特徴ですが、先進国の一部の都市でも住宅における不平等が発生しています。
例えばロンドンは、都市部の住宅市場が限られているために、ホームレスが驚くほど急増しています」。
実際、2023年のデータによると、英国は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でホームレス状態を経験する人の数が最も多い国の一つであり、10万人あたり16人が路上で生活し、10万人あたり410人が一時的な宿泊施設やシェルターで生活しています。
英国においては、半数の子供を含む30万人以上が友人宅のソファーや車中、その他の一時的な宿泊施設で寝ていると考えられています。
また、同国の約1,400万人が相対的貧困状態にあると推定され、フードバンクに頼る人の数は2009年の2万5,000人から2024年には300万人以上に急増。
米国においては、路上生活者の数は10万人あたり76人で、仮設住宅に滞在している人は10万人あたり117人です。
米国住宅都市開発省によると、2022年に米国でホームレス状態にあった50万人のうち、およそ5人に1人がロサンゼルスもしくはニューヨークに住み、路上生活をする人の半数はカリフォルニアに住んでいます。
日本はOECD加盟国の中で最もホームレス率が低く、人口10万人あたりわずか2人しかいません。
2024年4月、ジャパン・タイムズ紙は、日本におけるホームレスの数が過去最低を記録し、1月までの1年間で8%減少。わずか2,820人になったと報じました。
その対極にあるパキスタンにおいては、900万戸もの住宅が不足しているために、都市人口の50%以上がスラム街や非正規居住地「カチ・アバディ」で暮らしています。
2022年の洪水で3,300万人が被災したように、パキスタンは自然災害に対して極めて脆弱です。
ホームレスの原因とその影響
英国のホームレス支援団体クライシスは、ホームレス状態に追い込まれる多くの理由のいくつかを挙げています。例えば、貧困や手頃な価格の住居の不足から、失業、精神的・身体的健康問題、さらに女性に多く見られる暴力及び虐待関係までさまざまです。
新型コロナウイルス感染拡大以来、高インフレに端を発した生活費危機により、英国では住宅購入がさらに困難になり、賃貸料も上昇しています。
ホームレスであることは、仕事を続けることを困難にし、既存の精神的・身体的健康状態を悪化させます。実際、ホームレス状態を経験している人々は、身体的な健康問題を訴える傾向が一般人口の2倍以上あり(78%対37%)、半数近く(44%)が精神疾患を抱えているのに対し、一般人口では25%以下です。
薬物やアルコールの使用率は、ホームレス状態にある人の方が一般人口の4倍高く、5分の2が精神衛生上の問題に対処するために薬物を使用していると報告されています。
世界のホームレス対策
フィンランドは、2008年に導入された「ハウジング・ファースト」イニシアチブにより、家と呼べる場所を持たない人の数を76%減らすことに成功し、ホームレスという課題に取り組む上で模範的な国となりました。
同国の「ハウジング・ファースト」政策は、一連の基本原則に導かれた人権戦略であり、ホームレスに終止符を打つという共通の目標のために、国、都市、地元のNGOが協力して、短期間のシェルターを手の届く価格の住居である「アフォーダブル住宅」に変えるものです。
この政策は、ホームレス対策の第一歩として恒久的な住宅を優先するものであり、シュピーゲル誌が指摘するように、都市や国によってはシェルターに入る資格がないような人々にもアパートを提供します。
他国の援助プログラムでは、飲酒や薬物の使用禁止が義務付けられている一方で、ハウジング・ファーストにおいては、これらが禁止されているのは公共スペースのみ。居住者には、セラピスト、医師、ソーシャルワーカー、さらには世界初の共感コンサルタントからなるチームが24時間体制でケアとサポートを提供します。
このモデルは、カナダの臨床心理学者サム・ツェンベリス博士によるもので、ホームレス状態をなくす方法として、精神疾患や薬物乱用の既往歴のある人々に住居と現場でのサポートを提供することを提唱しました。
「ハウジング・ファースト」は、同博士が5年間の試験プログラム「パスウェイズ・トゥ・ハウジング(Pathways to Housing)」として1992年にニューヨークでスタート。その後、アルゼンチンからオーストラリア、北欧諸国のデンマーク、ノルウェー、そして最も成功していると思われるフィンランドまで、世界中で採用されるようになりました。
「ホームレスという課題のもどかしさは、すぐに解決できることにあります。治療法を開発する必要があるわけではありません。ハウジング・ファーストの効果を示す証拠は数多くあるものの、その導入には政治的意思が必要です」と同氏はグローバル・シチズン誌に語りました。
英国では、ロンドンのランベスからヨークシャーのシェフィールドまで、ウィリアム王子の「ホームワーズ・プログラム」に参加する6地域が、それぞれ行動計画を策定しています。
「ホームワーズは、英国中の人々に、協力し合えば前進できると示し、ホームレス状態は防ぐことができるという希望を与えることを目的としています」とウィリアム王子。
「これは大きな課題ですが、協力し合うことでホームレス状態を短期間かつ繰り返し起こらない、ごくまれなものにすることが可能だと私は固く信じています。そして、この目標を現実のものとするために、6つの地域との協力に大いに期待しています」。
深刻なアフォーダブル住宅不足の解決策
ホームレスという課題に取り組む最善の方法は、支援団体クライシスの言葉を借りれば、「そもそもホームレスが発生しないようにする」こと。刑務所や介護施設からの退所者など、ホームレス状態に陥りやすい人々が家を持つことができるようにするのです。
世界経済フォーラムは2024年1月に発表したレポート「アフォーダビリティの再構築:包摂的かつ住みやすい都市を実現するための介入策(Reshaping Affordability: Interventions for Inclusive and Liveable Cities)」に、土地利用、持続可能なコミュニティ、インクルーシブデザインを通じて、より手頃な価格で都市に住めるようにするためのアイデアをまとめています。
「適切な住宅と基本的なサービスへのアクセスは、手頃な価格で利用しやすい都市の実現に不可欠です。これは、世界のスラムに住む8人に1人の人々のために、非正規居住地を適正なものへと整備することに投資することから始まります」と、ハビタット・フォー・ヒューマニティ・インターナショナルのCEO、ジョナサン・レックフォード氏と、シエラレオネの首都であるフリータウン市長のイヴォンヌ・アキ・ソーヤー氏は述べています。
2030年までに国連の持続可能な開発目標(SDGs)目標11にある「すべての人に適切な住宅を」を達成するためには、各国政府は「財政的コミットメントを増やし、有意義な政策変更を行う」ことで、「適切な住宅を優先」しなければなりません。
レックフォード氏とソーヤー氏は、住宅危機を緩和するために各国政府がとるべき3つのステップとして、土地所有権の保障の優先、気候変動に対するレジリエンス(強靭性)の高い住宅の強化、住宅金融の拡大を概説しています。
ポルトガル、リスボンのカルロス・モエダス市長が、8億7000万ドルの公共投資計画に加え、短期的ソリューションと長期投資の組み合わせにより、アフォーダブル住宅の供給を再構築しようとしている様子を伝える記事も含まれています。
このような取り組みは希望をもたらすと同時に、世界中の政策立案者と地域社会が協力して、あらゆる形態のホームレスを解消するための効果的な政策や介入策を講じる必要性を強調するものでもあります。
同フォーラムのアーバン・イノベーション・リーダーであるクリスティ・ヘンリッヒ・クラインは、次のように述べています。「都市におけるアフォーダビリティ(価格が手の届く範囲に設定されていること)及びアフォーダブル住宅不足と同様、ホームレスという課題にも単一の解決策はありません。ホームレスという課題には多様な根本原因があるため、多面的なプログラムを通じて取り組む必要があるのです」。
『ホームレスネスー捉え直す(Homelessness - Reframed)』展はロンドンのサーチ・ギャラリーで2024年9月20日まで開催。
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