健康と医療システム

「役割」が生きがいに。おじいちゃんがビールのブリュワーを務めるウィーンのケア施設

このブルワリーがあるのは、ウィーン南西郊外のシニアホーム「Haus Atzgersdorf(アッツガースドルフハウス)」の地下だ。

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木曜日の朝。モルトのあたたかな香りが漂う小さな部屋に、ヘルムートは誰よりも先に出社する。エプロンと手袋をつけると、手動のボトルキャッパーでビール瓶の栓閉めにとりかかる。

他のメンバーが出社してくると、部屋は気さくな雑談と笑い声で満ちはじめる。88歳のルパートは、ビール瓶に素早くラベルを貼っていく。ラベルに書かれたビールの銘柄は、「Opa and Oma(おじいちゃんとおばあちゃん)」。

このブルワリーがあるのは、ウィーン南西郊外のシニアホーム「Haus Atzgersdorf(アッツガースドルフハウス)」の地下だ。中心となって働くのは、80歳を超える5人のホーム入居者たち。彼らは、醸造からボトル詰め、ラベル貼り、広告まで、ビール製造の全てのプロセスに関わっている。

アッツガースドルフハウスを運営するのは、シニアケアの分野でオーストリア最大規模を誇る非営利組織「Kuratorium Wiener Pensionisten-Wohnhäuser(以下、KWP)」だ。1960年に設立され、現在ウィーンで30軒のシニアホーム(日本でいう老人ホーム)を運営している。

同施設の前ディレクターは、シニア世代の孤独が特に深刻化した2020年のコロナ禍で、「入居者に意味のある時間を過ごしてもらいたい」と考えていたところ、この「シニアホームでマイクロブルワリーを運営する」という一風変わったアイデアを思いついたのだという。

「私たちは、歳をとることが、『悲劇的』で『受け身になること』だという考えを変えたいと思っています」と、KPWの広報であるHans Grasser氏はReasons to be Cheerfulに語る。「私たちが適切な枠組みさえ用意すれば、高齢の方々にはできることがたくさんあるのです」

ウィーンでは、高齢者に社会的役割を与えるこうした取り組みが活発に行われている。例えば、ウィーン中心部の人気カフェ「Vollpension」では、主に高齢の女性たちが自身のレシピで、昔ながらのケーキを焼いている。カフェでの仕事は、ひとり暮らしの多い高齢世代にとって定期的に誰かと連絡を取ったり話したりする機会になるだけではなく、彼女たちの収入を月40%向上させることにもつながっているという。

また、「Omadienst」は、子どものケアが必要な家族と高齢者をマッチングし、50年以上にわたり高齢者の孤独と子育てのニーズを同時に解決してきた。今では、“出勤できる”おばあちゃんが、市内に約400人もいるという。

2020年、世界の60歳以上の人口は歴史上初めて5歳以下の子どもの数を超えた(※1)。さらにこの数は、2050年には現在の2倍の2.1億人に到達すると予想されている(※2)。こうした世界的な高齢化の流れを受け、WHOと国連は同年末に2021年から2030年に向けて「Decade of Healthy Aging(健康長寿のための10年間)」と名付けたイニシアチブを立ち上げ、高齢者の生活の質向上や高齢者へのスティグマの是正を世界に呼びかけている。

こうした高齢化社会について考える際に忘れてはいけないのが、人間はみな「社会的な生き物」であるということだ。社会的孤立や寂しさは、メンタルヘルスや身体能力を低下させるだけではなく、認知症や心臓病、脳卒中などのリスクも高める。私たちが生きるためには、人とのつながり、そして「誰かに必要とされている」という実感が、欠かせないのだろう。

ープンから4年、アッツガースドルフハウスのマイクロブルワリーは予想外の反響を呼び、今では市内で人気のマイクロブルワリーのひとつに数えられるほどになった。2023年には拡大する需要に応えるため、生産規模を1万2,000ボトルに拡大、2024年にはそれをさらに2倍にする計画だという。その味の良さはもちろん、作ることが高齢者の生きがいにつながるというコンセプトに、人々が勇気づけられているのかもしれない。

今日もブルワリーでは、ルパートがラベルを真っ直ぐ、綺麗に貼っている。ラベル貼りは、側から見るよりも難しい作業だ。だが、毎週木曜日、4年間にわたり練習してきたルパートは、もうその道のプロである。「この場所は、私たちの人生の第二章なのです」と彼は言う。「私たちは、まだ必要とされていることが、嬉しいのです」

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