サプライチェーンと輸送

日本の物流が築く、持続可能でレジリエントな未来とは

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「2024年問題」に備えて、物流業界は商慣行の見直しや物流の効率化を迫られています。 Image: Image: Unsplash.

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
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サプライチェーンと輸送

  • 4月より、トラックドライバーの年間時間外労働上限が960時間に制限されます。
  • 「2024年問題」に備えて、物流業界は商慣行の見直しや物流の効率化を迫られています。
  • 官民連携、これまでの商慣行にとらわれない新たな発想、先端テクノロジーの導入が、持続可能でレジリエントな物流業界の未来を切り拓く鍵となるでしょう。

コロナ禍からの経済回復が進む一方、さまざまな課題が浮かび上がっています。その中でも、物流の「2024年問題」は対策が急がれる課題のひとつです。

労働者不足を理由に、これまで時間外労働の上限規制が例外的に猶予されてきた物流業界。今年4月から、トラックドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に制限されることになりました。背景にあるのは、労働者が多様な働き方を選択できる社会の実現を目指し、2018年に公布された働き方改革関連法。2019年から順次施行され、長時間労働の是正やフレックスタイム制の拡充、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などを通じて、日本全体の労働環境改善と生産性の向上が図られています。一般的に、時間外労働の規定は年間360時間ですが、事業や業務の特性上、物流・運送業界には年間960時間の上限制限が適用されます。

こうした規制により、ドライバーの労働環境の改善が期待される一方、長距離トラックドライバーを中心に人手不足が加速し、対策を講じなければ、2024年には約14%、2030年には約34%運送能力が不足すると試算されています。この影響は、物流・運送企業の売上減少、労働時間の短縮に伴うドライバーの収入減少、運賃値上げによる荷主の物流コスト上昇など広範に及ぶ懸念があります。

迫る物流の「2024年問題」に先駆け、政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」と「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定。物流事業者や発荷主・着荷主事業者に、商慣行の見直しや物流の効率化への取り組みを義務付ける方針を示しました。こうした指針を基盤に、持続可能な物流業界の成長に向けた官民の取り組みが加速しています。

「フィジカルインターネット」が課題解決の糸口に

インターネットのパケット交換の仕組みを物流に応用し、物流システムの効率化を図る、「フィジカルインターネット」の実現に向けた動きが本格化しています。コンセプトは、企業間で輸送手段や倉庫を共有することで物流リソースの稼働率を向上させ、より少ない数のトラックで目的地までのルート上にある倉庫を経由し最適ルートで荷物を運ぶことで、環境負荷も低減する持続可能な物流システムを構築するというもの。政府は、2040年の実現を目指し「フィジカルインターネット・ロードマップ」を策定し、IoTやAI(人工知能)を利用した物資や輸送資産情報の共有・最適化や、パレットやコンテナ容器等の物流資材の規格統一化など、各業界が2040年までに段階的に行うべき取り組みを具体的に提示しています。

日野自動車の子会社、ネクスト・ロジスティクス・ジャパンが開発した、世界初の量子コンピュータによる自動配車・積付けシステム「NeLOSS(ネロス)」は、注目すべき取り組みの一つです。40%を下回ると言われる物流トラックの積載率と生産性の最大化を追求したこのシステムは、量子アルゴリズムを用いて荷物の割り付け、積み付けを自動化することで、手作業では約2時間要する作業を、40秒に短縮。荷姿や重量、温度帯が異なる荷物を最適に積み込むための組み合わせを瞬時に割り出し、同社が開発した大型トラック2.5台分の「ダブル連結トラック」で異業種の荷物を混載輸送します。アサヒグループジャパン、日清食品ホールディングス、ブリヂストン、三菱UFJ銀行を含む19社が出資する同社は、フィジカルインターネットのエコシステムの実現に不可欠となる業界を超えた連携を強化し、異業種全42社とともに輸送シェアリングの仕組みづくりを進めています

着荷主企業の連携

食料小売業界もいち早く物流改革に乗り出しています。九州、首都圏、北海道では、各地域の食品スーパー事業者が結集し、物流改善を図る研究会が発足。小売業の物流網では、大量の店舗をきめ細かく回ることから効率化のハードルが高いとされる中、競争ではなく協調を旗印に、大手スーパーが連携してサプライチェーンの商慣行の見直しを進めています。具体的には、発注・納品リードタイムの延長や、製造から賞味期限までの期間のうち最初の3分の1を過ぎた商品を仕入れないとする従来のルールを2分の1へと緩和すること、輸送トラックの共同利用など。物流の効率化とフードロス削減に同時に対処する業界各社の足並みの揃ったこうした取り組みは、今後も拡大していく予定です。

モーダルシフト:排出量を削減しながら積載率を高める

長距離輸送手段をトラックから船舶または鉄道に切り替える「モーダルシフト」で、輸送効率を高める動きも広がりつつあります。昨年9月、武田薬品工業は三菱倉庫とJR貨物と連携し、医薬品輸送の一部をトラックから鉄道輸送へと切り替えました。温度管理可能な鉄道コンテナを使用し、医薬品の適正流通ガイドラインに準拠した輸送を実現した同社は、輸送ルートでの排出量を約60%削減する見込みです。

また、日本製紙と大王製紙は、昨年8月にRORO船を使った共同輸送を開始。大王製紙が愛媛県の工場から首都圏に出荷した帰りの船に、日本製紙が福島県の工場から関西に出荷する貨物を千葉県から載せることで、排出量削減と積載率の向上を実現しています。

物流業界を革新する

世界経済フォーラムのレポート「ラストマイル・エコシステムの未来 (The Future of the Last-Mile Ecosystem)」によると、2019年から2030年までの間に、世界の上位100都市の道路を運行する配送車両の数は36%増加する見込みです。危機とも捉えられる「2024年問題」は、こうした物流需要の高まりに対応しながらも、ドライバーの労働環境の改善、環境負荷の低減、デジタルトランスフォーメーションを実現するまたとないチャンスです。官民連携、これまでの商慣行にとらわれない新たな発想、先端テクノロジーの導入が、持続可能でレジリエントな物流業界の未来を切り拓く鍵となるでしょう。

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