中央銀行デジタル通貨の挑戦
「e-CNY」を導入し、多くのリテール決済を試験的に導入している中国。 Image: REUTERS/Tingshu Wang
Cameron Nili
Project Fellow, Financial Market Infrastructure Modernization & Wholesale CBDC, Accenture- 中央銀行デジタル通貨(CBDC)には、主に一般利用型とホールセール型の2つの形態があります。
- 前者は一般の消費者が使用し、後者は銀行やその他の金融機関間の取引に使用されます。
- 一般利用型CBDCとホールセール型CBDCの研究は世界中で進められており、両者の詳細については、世界経済フォーラムの中央銀行デジタル通貨グローバル相互運用性原則とデジタル通貨ガバナンス・コンソーシアムの白書に記載されています。
21世紀は、歴史上最も変化の激しい時代だと言われています。世界と共に私たちも変化し、製品を購入する企業や、利用する公共サービスもそれに合わせて変化することが期待されます。
そのため、企業にとって顧客との関わり方を絶えず進化させることが、消費者を満足させる唯一の選択肢となります。オンラインバンキング、クレジットカード自動引き落とし、ピアツーピアの決済システムはそうした進化の一例であり、消費者に追いつく推進力になり得ることが、世界中の中央銀行が中央銀行デジタル通貨(CBDC)に注目している理由です。
CBDCはまだ初期段階にあり、多くの中央銀行はパイロットプロジェクトを進めるかどうかを決定する前に、潜在的な利点とリスクを検討している途中です。その中には、ホールセール型CBDCと一般利用型CBDCのどちらか一方を採用するか、両方を採用するか、あるいはどちらも採用しないかを決定することが含まれています。
ホールセール型CBDCと一般利用型CBDCの違い
一般利用型CBDCとは、一般市民が使用する中央銀行デジタル通貨の一形態です。
一方、ホールセール型CBDCは、銀行やその他の認可を受けた金融機関の間で銀行間決済や証券取引に使用されます。
それぞれの中央銀行は、各管轄区の中でCBDCを発行できます。世界経済フォーラムの白書「中央銀行デジタル通貨グローバル相互運用性原則(Central Bank Digital Currency Global Interoperability Principles)」は、一般利用型CBDCとホールセール型CBDCの両方を国内または国境を越えて使用することができると指摘しています。
一般利用型CBDCを利用する理由
一般利用型CBDCは最も活発に検討されており、バハマ、ジャマイカ、ナイジェリア、東カリブ通貨同盟を含む 11カ国ですでに使用されています。
世界初の一般利用型CBDCは、2019年にバハマで導入されたサンドドルです。米ドルにペッグされ、人口の18%が銀行口座を持たないバハマの人々の金融アクセスを改善し、国の決済システムのレジリエンス(強靭性)を高めることを目的としています。
前述の白書によると、ラテンアメリカとカリブ海諸国のほとんどの中央銀行は、一般利用型CBDCの研究開発を優先しており、将来的にCBDCを発行する可能性のあるいくつかの重要な動機を持っています。
その一つが、バハマのような金融包摂の促進です。その他の主な要因には、決済の効率性と安全性の向上が挙げられます。この点については、別のアジェンダ記事「What are central bank digital currencies and what could they mean for the average person?(中央銀行デジタル通貨と一般市民から見たその意義)」で詳しく取り上げています。
アジア太平洋地域では、デジタル決済に対する需要の高まりが、一般利用型CBDCを模索する主な原動力となっています。この地域には活発な電子商取引市場があり、モバイル決済の利用も盛んです。
「e-CNY」を導入し、多くのリテール決済を試験的に導入している中国。特に、2022年2月に開催された冬季オリンピックでは、e-CNYが初めて外国人向けに販売され、1日に約31万5,000米ドル相当の取引が行われました。
タイ銀行も、一般利用型CBDCをテストしています。金融インフラを劇的に変化させるデジタル化のトレンドに対応する必要性があるためです。
シンクタンクであるアトランティック・カウンシルのCBDCトラッカーによれば、米国では現在、一般利用型CBDCの研究段階であり、他に欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、日本銀行がプロトタイプの開発に取り組んでいて、潜在的なプライバシーや金融安定性の問題について協議を行っています。
ホールセール型CBDCを利用する理由
国際決済銀行(BIS)によれば、一般利用型CBDCに比べてホールセール型CBDCの方が、現行のやり方に近いとのこと。BISの白書によると、国内のホールセール型CBDCは、商業銀行が現在中央銀行に預けている準備預金とほぼ同じ方法で運営されています。
ただし、ホールセール型CBDCは、クロスボーダー決済、外国為替取引、クロスボーダー証券取引の合理化において、新たな機会を引き出す可能性があります。2021年、BISイノベーション・ハブ、フランス銀行、スイス国立銀行、アクセンチュアは、プロジェクト・ジュラの一環として、ホールセール型CBDCを利用した外貨清算の実現可能性を実証しました。
ホールセール型CBDCの分野では、いくつかの国が実験を進めています。最初の実験のいくつかはカナダ銀行とプロジェクト・ジャスパーによって行われました。南アフリカ準備銀行も、一般利用型よりもホールセール型の検証実験に力を入れています。ヨーロッパでは、スイス国立銀行がホールセール型CBDCで決済される債券を発行し、実験に成功しています。また、中央銀行はホールセール型CBDCを利用するテクノロジーの採用を検討しています。オーストラリア準備銀行は2021年に概念実証を行い、今年パイロット・スキームを実施します。
BISは中国、香港、アラブ首長国連邦、タイの中央銀行を集め、相互運用可能な複数中央銀行デジタル通貨(mCBDC)の試験運用を行いました。BISは、新しいテクノロジーが「より速く、より安く、より安全なクロスボーダー決済」を実現する可能性を示唆しているとし、試験的な運用を成功させています。
ECBは分散型台帳テクノロジーの利用を模索しており、ニューヨーク連邦準備銀行は、ホールセール型CBDCのプロトタイプを使用した12週間のトライアルを完了しました。同銀はテストの後、「ブロックチェーン技術によってサポートされるホールセール型のクロスボーダー・デジタル通貨取引を利用して、迅速かつ安全な決済を実現可能」だと述べています。
CBDCの相互運用性の構築
一般利用型CBDCとホールセール型CBDCのどちらを選択するのかは、入り口に過ぎません。消費者の利便性を高め、国際標準を定着させるためには、他のCBDCや他の決済システム(国内型と国際型の両方)との相互運用性を確保することが不可欠です。
最終的には、このような相互運用性こそが、消費者に一般利用型CBDCを、銀行にホールセール型CBDCを成功させるために必要なものです。オンラインバンキング、クレジットカード自動引き落とし、ピアツーピアの決済システムなど、21世紀のあらゆる進化と同様に、CBDCが便利で信頼でき、生活をより便利なものにしてくれることが証明されて初めて、人々はCBDCを使いたくなるでしょう。
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