Energy Transition

海運の脱炭素化 - グリーン燃料の価格差解消が鍵に

Scaling green fuels across sectors requires global regulation.

業界の垣根を超えたグリーン燃料の利用拡大にはグローバルな規制が必要です。 Image: Unsplash

Vincent Clerc
Chief Executive Officer, A.P. Møller-Maersk
Takeshi Hashimoto
President and Chief Executive Officer, Mitsui O.S.K. Lines
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  • 「ファースト・ムーバーズ・コアリション」のメンバーである、商船三井とマースクは、代替グリーン燃料を調達し、スケールメリットを追及していく積極的な姿勢を示しています。
  • 現在、グリーン燃料と化石燃料の価格差は3~4倍と推定され、海運の脱炭素化を決定的に阻害する要因となっています。
  • 価格差を解消し、グリーン燃料の供給を促進・拡大するためには、各国政府の行動と政策措置が引き続き極めて重要です。

パリ協定の気候目標を達成する上で、海運業がゼロエミッションを実現することは極めて重要です。海運業界は、遠洋航路で年間110億トンを超える物資を輸送し、グローバルな貿易を支えています。しかし同時に、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の3%近くを占める、脱炭素が困難な部門のひとつでもあります。その理由はシンプルで、世界の海を航行する船舶を稼働させるには、船上でも扱いやすいようエネルギーを高密度で軽量な形へと変換する必要があり、多くの陸上産業のように、安価な再生可能エネルギーを直接使うことができないためです。

このことが、船舶の脱炭素化への道を複雑にし、コストを押し上げています。業界は燃料消費量を削減し、船舶におけるエネルギー効率を向上させるために様々な技術開発に取り組んでいますが、燃料は船舶の運航コストの約30~50%を占めています。そして現在、船舶のエネルギー需要の99%を、主に重油(HFO)や留出燃料などのバンカー燃料が占めています。

ただし、近年、海運業界の脱炭素化の道程で、かつて「ニワトリと卵のジレンマ」と呼ばれていた課題に進展が見られています。現在、グリーン燃料で航行可能な180隻以上の船舶が、複数のセグメントにまたがる多くの海運会社から発注されており、その数が増加しつつあります。これは、新たな市場の出現を意味しています。2023年、マースク所有の「ローラ・マースク号」が、グリーンメタノールで航行する初のコンテナ船として就航。来年には、マースクの船隊に数隻の大型外航船が加わる予定で、画期的なグリーンメタノールのオフテイク契約に基づき長期的に燃料が供給されます。同船が初のメタノール対応コンテナ船として発注されたのは、わずか2年前のことでした。一方、商船三井は、コンテナ船、ばら積み船、タンカー、ガス運搬船、RORO船(積み下ろし用のゲートがあり、貨物を積んだ車両が自走して乗り込み可能な貨物用船舶)など様々な船種を運航しており、これらすべてのセグメントにおける脱炭素化を目標に掲げています。

しかし、現在使用されているバンカー燃料の量を全て満たす単一の代替ゼロエミッション燃料は存在しません。海運業界には、極めて多様な属性を持ったステークホルダーが関与しているため、あらゆる種類の船舶の脱炭素化を実現するためには、異なるパートナーとともに、様々なソリューションを生み出す必要があります。脱炭素化には、アンモニア、メタノール、水素のようなゼロエミッション(グリーン)燃料や、ゼロエミッション船舶に配備して電力を供給するためのバッテリーの生産の拡大が不可欠です。しかし、代替グリーン燃料は従来のバンカー燃料よりも高価で、この進歩の波を後押しするには、業界内外からの支援が必要になるでしょう。このことは、すべての海運セグメントに共通しています。新たな二元燃料対応船の発注がスケールアップしていく中、次のステップは、バンカー燃料とゼロエミッション燃料の価格差を解消することですが、これは極めて困難と言わざるを得ません。

輸送コストが業界移行の障害になってはならない

最近のデータでは、グリーン燃料の価格は従来のバンカー燃料の少なくとも3~4倍高いことが示されています。ゼロエミッション燃料とバンカー燃料のこうした価格差は、運賃に大きな影響を与える可能性があります。例えば、海事コンサルティング会社のドリューリーは、バイオマスやその他の方法で製造された温室効果ガス排出量の少ないグリーンメタノールに切り替えると、燃料費が350%増加すると試算しています。これは、アジアからヨーロッパに輸送される40フィートコンテナ1本あたり1,000ドル以上のコスト追加に相当します。

グリーン・ゼロエミッション燃料の価格上昇と、マージンの厳しい海運運賃全体への潜在的な影響を考えると、バリューチェーンのどこでグリーン・プレミアム(クリーンな技術を選択するのに必要な追加費用)をカバーできるのか、明確な道筋はありません。特に、導入の初期段階では、関連するすべてのステークホルダーはコスト上昇に直面します。最終顧客にコストを転嫁できる確かな見通しがなければ、どのステークホルダーも単独でコストを吸収することはできないでしょう。そして、顧客に支払い意欲があったとしても、バンカー燃料とグリーン燃料の価格差を埋めるには十分でないことがわかっています。2022年にBCGが行った調査では、貨物輸送を行う125社のうち、82%がゼロ・カーボン輸送にプレミアムを支払う意向を示していますが、同時に支払うことができるプレミアムコストはわずか3%にとどまっておりとても足りていません。ただし、調査対象者の65%は、将来さらに高いプレミアムを支払う意思があるとも回答しています。

こうしたバンカー燃料とグリーン燃料の価格差が、物流業界における脱炭素化を加速させるスピード感・必要性を妨げてしまうかもしれません。しかし、グローバル・バリューチェーンにおける脱炭素化は関係者全体で取り組むべきことであり、業界全体で責任を負い、従来の海運ステークホルダーの枠を超えて協力し合う必要があります。船主は、ゼロエミッション燃料に対応できる船舶を発注し、新造船に必要なグリーン燃料を確保するためのパートナーシップを進めています。荷主が、市場で入手できるサステナブルなゼロエミッション海運サービスを選択する動きも広がりを見せていますが、こうした移行のモメンタムを停滞させないためには、関与の度合いを大幅かつ急速に高める必要があるのです。

グリーン燃料の拡大は、部門を超えた責任であり、確固たるグローバルな規制が必要

現在、メタノール燃料技術はアンモニア以上に成熟した技術として一定の規模で展開されています。グリーンメタノールの市場はいまだ黎明期にありますが、中国、米国、ヨーロッパをはじめとする世界各地の取り組みにより急成長しています。2023年7月、国際海事機関(IMO)が2050年前後にネットゼロを達成するという脱炭素化目標が設定されたことに向けて、新造船発注時にはグリーン燃料を動力源とするものが主流となる道筋が見えています。これは、この業界の確かなリーダーシップと、ソリューションを下支えする力強いコミットメントを表しています。

また、規制当局の果断な行動は引き続き鍵となるでしょう。脱炭素化に向けた取り組みに意欲的な企業が前進するためには、外部からの支援が不可欠であり、その支援は特定の企業を不当に利するものではなく、公平な競争条件を確保するものでなければなりません。多様なプレーヤー間の健全な競争を刺激しつつ、「ファースト・ムーバーズ・コアリション」を強力にバックアップする非排他的な環境を醸成することが重要です。

規制当局は、化石燃料を使用しない燃料の生産を拡大するための障壁を取り除き、移行に取り組む荷主のためのインセンティブ制度を導入することで重要な役割を果たすことができます。大切なことは、私たちが海運バリューチェーン外部のステークホルダーとも協力し、海運の脱炭素化に向けたインセンティブを確保することです。グリーンな移行と自然災害による将来的な影響の両方のコストを軽減するには、早期かつ段階的な移行が必須です。気候変動のコストは、グリーン移行のコストよりもはるかに大きいのです。

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2024年4月28日

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