「説明できない賃金格差」を紐解き、男女の賃金格差解消へ
職階、勤続年数や職種、労働時間などの影響による『説明できる賃金格差』と、これらの条件を揃えたとしても残る『説明できない賃金格差』が存在します。 Image: Pexels/Francesco Ungaro
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教育・ジェンダー・仕事
- 20世紀における近代化、経済成長、女性の労働参加率や学歴の上昇にもかかわらず、依然として男女の賃金格差が存在しています。
- 「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」や、男女間の交渉力の差、データに現れない説明できない労働者の特性など、『説明できない賃金格差』生む原因は複雑です。
- 格差解消には、女性を労働市場に参加させるだけでは不十分で、『女性が働く』ことに対する社会全体の意識改革が不可欠です。
男女の賃金格差の要因を解き明かしたとして、ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が、女性として史上初、ノーベル経済学賞を単独受賞しました。米国の200年以上にわたる労働市場のデータを分析し、収入と雇用が時間と共にどのように、なぜ変化したかを明らかにした研究が、「労働市場で女性が果たしてきた役割に関する理解」を前進させたことが授賞理由です。
20世紀における近代化、経済成長、女性の労働参加率や学歴の上昇にもかかわらず、依然として残る男女の賃金格差。ゴールディン氏の研究は、賃金格差の大半が同じ職業に就く男女間で起きているとした上で、その主な理由は、女性が子どもを産むと労働時間と収入が減る『母親ペナルティ』と、不規則な日程と長時間労働を要求し、その代価として高い報酬を支払う『貪欲な仕事』に就けるか否かにある、としています。
伸びる女性の就業率、残存する賃金格差
1986年の男女雇用機会均等法施行から約35年。日本における、女性の労働参加や仕事と家庭の両立を支援する法制度の整備は進められてきました。1986年には約53%であった女性の就業率は2022年には約72%に上昇。また、2010年から14年は40%程にとどまっていた第一子出産後の就業継続率は、2015年から2019年には約70%まで拡大しました。
しかし、男女の賃金格差は依然として縮まっていないのが現状です。男性賃金の中央値を100とした場合の2022年の男女間賃金格差は、日本は75.7。24.3ポイントの開きは、OECD諸国の平均(11.9ポイント)の2倍です。その理由の一つは、女性が非正規社員として働く割合が高く、正社員と非正規社員との間に大きな賃金格差が存在していることにもあります。就業者の非正規雇用割合は、2022年、男性が22.1%であるのに対し、女性は53.2%といった調査結果も出ています。
また、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ・レポート2023によると、経済の分野で日本は146カ国のうち123位と、先進諸国の中でも大きく遅れをとっています。また、厚生労働省の「人口動態統計」によると、出産を経た女性の多くが、仕事と育児を両立させるために非正規雇用を選択、もしくは、出産を機に一度離職したのちに正社員として再就職することが難しく、非正規雇用に転換しています。
説明できない賃金格差
賃金格差の理由がすべて解明されているわけではありません。そのため、職階、勤続年数や職種、労働時間などの影響による『説明できる賃金格差』と、これらの条件を揃えたとしても残る『説明できない賃金格差』が存在します。1021社を対象とした、マーサーの「日本における報酬に関する市場調査レポート2022(Total Remuneration Survey 2022)」によると、『説明できない賃金格差』による男女の賃金差は6%あることがわかりました。
フリーマーケットアプリ大手メルカリの発表によると、同社の男女間における平均賃金は37.5%の格差。このうち、同じ職務・等級の正社員賃金では、女性が男性に比べて約7%低かったことが明らかになりました。同社9割近くを占める中途採用者に対し、前職の賃金水準を反映した条件を提示する慣行が定着していたことが、こうした『説明できない賃金格差』を招いたとしています。同社は、一部の女性の基本給を引き上げるなどして、この格差を8月までに7%から2.5%まで縮小。採用プロセスの見直しも進めています。
『説明できない賃金格差』は、スキルの調査データにも見られます。つまり、男女が持つスキルの違いは男女間の賃金格差の要因にはなく、そこには、「この仕事は女性に向かない」「この仕事は男性に向いている」などといった「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」の影響も見られるのです。こうした偏見の他に、男女間の交渉力の差やデータに現れない説明できない労働者の特性など、格差を生む原因は複雑です。
企業が、職務内容や責任範囲を明確化し、性別に依存することなく公正で明確な評価基準を設けることは、こうした格差を解消するための第一歩となるでしょう。
賃金格差への取り組みは、意識改革から
ゴールディン氏は、日本の女性は短時間労働が多く、男性のように終身雇用されるような仕事についていないとし、「女性を労働市場に参加させるだけでは解決にならない」と指摘しています。
また、賃金格差の改善に向け、昨年政府は、従業員数300人超の企業に、男女の賃金の差異の開示を義務づけました。対象となる企業は、正社員、非正規社員を問わず、全従業員の賃金開示が求められます。
こうした取り組みを契機に、『女性が働く』ことに対する社会全体の意識改革、また『説明できない賃金格差』に対処することは、日本の経済成長の追い風となる道のりを築く事にもなるでしょう。
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