アジア太平洋地域で深刻化する、女性特有のがんの影響
アジア太平洋地域の女性をがんから守るためには、より良い診断、治療、政策が不可欠です。 Image: Reuters/Athit Perawongmetha
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ヘルスとヘルスケア
- 現在、世界の乳がん患者の45%と、子宮頸がんによる死亡者の58%がアジアで占められています。
- 子宮頸がん撲滅の目標を達成するために1ドル投資されるごとに、3ドル以上のリターンが期待できるとされています。
- 女性特有のがんによる影響を軽減するために、政府が着手できる変革に向けた取り組みは数多くあります。
がんに、公平さはありません。医学や科学の著しい進歩にもかかわらず、毎年何百万人もの死者を出しているがん。その罹患率が世界中で急上昇を続ける中、女性への影響はますます深刻化しています。
影響が最も顕著なのは、アジア太平洋地域(APAC)です。現在、世界全体の乳がん患者の45%、そして、子宮頸がんによる死亡者の58%がアジアで占められており、世界の他の地域に比べ、今後も急速な増加が見込まれています。アジアで何らかの変化が起きない限り、2020年から2030年の間に、乳がん罹患率は21%、子宮頸がん罹患率は19%増加すると予測されています。
低所得国から高所得国へと一部の国が移行したことなど、この地域の人口動態の変化が、がん患者急増の一因となっていますが、同様に、スティグマ、認識不足、必要な医療サービスへの女性のアクセスが制限されていることもまた理由の一つです。そして、文化的な期待、根強いジェンダー規範、依然として続くタブーが、女性の健康増進を目指すサービスを優先する政治的な意思決定を妨げてきました。こうした状況はいずれも、アジアの女性たち、その家族、コミュニティにとって不公平なもので、こうあるべきではありません。
世界保健機関が掲げる目標
世界保健機関(WHO)は、2020年から2040年までの間に、乳がんの死亡率を年平均2.5%減少させること、そして、2030年までに、子宮頸がんのワクチン接種、検診、治療に関する目標を達成し、次の世紀に子宮頸がんを撲滅することを目指しています。
女性のがんが依然として急増しているAPACで、これらの目標を達成することは容易ではありませんが、アジア太平洋女性がん連合(WCC)は、WHOの目標達成に向けAPAC諸国が取るべき主要な行動を特定する調査報告書の作成をはじめとした取り組みを進めています。
同報告書の著者は、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムからの洞察を明らかにすると共に、政策と計画、予防と検査、診断とリソース能力、治療とアクセス、一般の認識と教育といった、5つの主要な領域における地域および国別の課題や機会を共有しています。
APAC諸国では、臨床ガイドラインの開発、治療範囲の拡大、疾患教育の強化など、特定の分野で進展が見られるものの、女性の生活を向上させるための潜在的な可能性がまだ残されています。6カ国すべてにおいて最も弱い領域は、診断とリソース能力です。
これらの国々は、治療を必要とする患者を特定し、患者へ適切な医療サービスを提供することに課題を抱えています。医療機関のキャパシティの問題から、治療計画が不明瞭で、患者が適切な治療を受けられない状況に陥ることもあります。また、診断を受けた患者は、特に最新の治療にかかる多額の費用にも悩まされることになります。
患者の視点が政策に取り入れられていないことも課題です。これは、無意識のバイアスの原因となり、女性の健康とウェルビーイング(幸福)に不可欠なパーソナライズされたケア提供の障壁となる可能性があります。私たちは、この負のサイクルを断ち切らなければなりません。
変革に向けたステップ
WHOが掲げる、子宮頸がんと乳がんに関する目標達成に向け、APAC諸国が優先的に取り組むべき重要な4つのステップを紹介します。
一次・二次予防に重点を置く- 子宮頸がんに対する国の予防接種プログラム(HPVワクチン接種)を展開・強化すると共に、住民を対象とした子宮頸がん・乳がん検診プログラムの実施を国が主導する。
革新的な資金調達モデルの模索 - 政府や財団、開発機関、多国間銀行などと協力して資金調達モデルを特定し、乳がんや子宮頸がんに対するコストの課題を克服する。女性特有のがん患者の健康転帰を改善することには大きな経済的利益があり、投資対効果が高い。
患者に適したクリニカルパスの作成およびサービスの設計 – 適切な医療施設への案内と明確な治療計画の作成は行うことで、必要な治療やサポートに患者が迅速にアクセスできるようにする。また、パーソナライズされていて、異なる人口グループ(都市部と農村部など)の患者ニーズにも対応するサービスを提供する。
政策とプログラムの成果を追跡 - 主要な成果指標を設定し、予防接種、検診、患者の転帰に関する情報を登録することで、予防と治療内容を追跡できるようにすると同時に、将来の活動に役立つ情報のデータベースを構築する。
がんとがん治療の経験に関する影響の性差を調査している、女性、がん、権力に関するランセット委員会(The Lancet Commission on women, cancer, and Power)は、こうした取り組みを強化しています。同委員会は、女性特有のニーズに対応したがん治療の重要性を強調しているほか、女性と少女のがんの早期発見と、診断へのアクセスを向上させるための戦略の設計と実施の必要性を訴えています。そして、医療従事者に対するジェンダー教育とトレーニングも不可欠として、導入を推奨しています。
アジア太平洋地域をより健康に
以上のことはすべて、女性やその家族、コミュニティに及ぼす乳がんと子宮頸がんの影響を大きく軽減する可能性を秘めています。しかし、こうした取り組みの実現には、女性特有のがんが政策の優先事項とされる必要があります。例えば、子宮頸がん撲滅のための国家計画や、WHOのガイダンスに沿った乳がんに対する戦略的計画を実行すること、予防、検診、治療を包括的なユニバーサルヘルスケアに組み込むことなどです。
そして、女性特有のがんの治療にかかる経済的負担と、より良い予防および治療がもたらす経済的利点を考慮した上で政策を形成することも重要です。子宮頸がんに関して言えば、WHOの目標とする撲滅を達成するために1ドル投資されるごとに、3ドル以上のリターンが期待できると見積もられています。
悪化する統計と女性特有のがんが、APACの何十万もの女性に与える深刻な影響は、見過ごすことができません。切迫した状況にあるからこそ、この地域の女性やその家族を苦しめる不公平な負担を軽減する重要な機会を得ているのです。
こうした機会を捉え、乳がんや子宮頸がんの予防とケアを普及させることを第一歩に、女性の健康が重要視されるよう力を合わせましょう。より健康で豊かなアジア太平洋地域の未来を構築するために、今日変えることができる行動に焦点を当てましょう。
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