持続可能な開発目標の達成に向けた協力に、競争が不可欠な理由

企業は、持続可能な開発目標の達成に向けた歩みを進めるヒントを示しています。

企業は、持続可能な開発目標の達成に向けた歩みを進めるヒントを示しています。 Image: Unsplash

Børge Brende
President, World Economic Forum
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本稿は、以下会合の一部です。 持続可能な開発インパクト会合
  • 2030年に定められた持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限が、刻一刻と迫っています。
  • グローバル危機と地政学的緊張が、遅々としているSDGs達成に向けた進展をさらに妨げる可能性があります。
  • 企業の「コーペティション」は、政府が目標達成に向けて今取るべき行動を示しています。

2030年に設定された、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限まで、残り10年を切りました。現時点で、17の目標に対する世界の達成度は、半分を少し超えたところですが、このままの進捗スピードではSDGsの達成は難しいでしょう。データが存在する目標のうち、軌道に乗っているものはわずか12%。ほぼ半分が進行していない状況にあり、3分の1以上は前進していないか、2015年に設定された基準値よりも後退しています。

北半球が記録的な暑さに見舞われた夏が過ぎ、グローバルコモンズの継続的な劣化と脆弱な経済成長の予測に直面している今、各国政府が、SDGsの達成に向けた歩みを前進させるために協力し、取り組みを改善していく必要があることは明らかです。それは、アントニオ・グテーレス国連事務総長も「気候危機や不平等の拡大から、新たなテクノロジーのガバナンスに至るまで、今日の地球規模課題の解決には、対話と協力が不可欠です」と、協力の重要性をこの夏に強調した通りです。

しかし、グテーレス事務総長が当然必要だと指摘する「協力」は、実現可能なのでしょうか。地政学的な競争と対立は増加の一途をたどっており、国際通貨基金(IMF)は、分断のリスクが高まっていると警告しています。これは、経済成長に最大7%のコストがかかる可能性があることを長期的には意味します。国連によると、昨年は第二次世界大戦以降最も多くの暴力的紛争が発生した年でもありました。

競争より協力を重視する企業のアプローチ

今日の対立の風潮は、控えめに言っても、SDGsの主要な目標である「人々と地球のウェルビーイング(幸福)の向上」に資するものではありません。しかし、こうした現実の中にあっても、グローバルな目標の達成に向けた歩みを前進させる方法があります。競争の激しい状況下で、効果的な連携を実現するアプローチが必ずあるからです。企業のアプローチに注目すると、競合相手と協力する方法は、スーパーの食料品棚やスマートフォン、郵便受けの中などに見ることができます。

ビジネスの競合同士が協力をしている一例に、ペットボトルの課題への取り組みがあります。石油や天然ガスを原料とするポリエチレンテレフタレート(PET)が使用されているペットボトル。その製造と廃棄による二酸化炭素排出量は、いくつか飲料メーカーの総排出量の30%を占めています。この課題に対処するため、競合関係にあるコカ・コーラ、ドクターペッパー、ペプシは、互いに協力し合い、2025年までにプラスチック包装の4分の1をリサイクル材料から調達することを2015年に誓約しました。

競合他社間でこのような協力関係が生まれることは、「コーラ戦争」を繰り広げている企業同士であっても珍しいことではありません。グリーン・テクノロジーに対する新たな市場需要を創出するために、2030年までにゼロエミッションの製品やサービスを購入することを約束するプラットフォームである、世界経済フォーラムの「ファースト・ムーバーズ・コアリション(First Movers Coalition)」には、エアバスやボーイングのような競合関係にある企業を含む85社以上が参画しています。

ライバル企業が同じ目標を達成するために協力することは、企業戦略における重要な要素であり、「コーペティション(競合同士による協調)」として知られています。例えば、顧客獲得で競合するDHLとUPSは、米国での配送において連携しています。ハイテク分野では、アップルはサムスンからiPhone用のスクリーンを購入し、サムスンは自社のデバイスでiTunesを提供するなど、協力が生まれています。

企業がコーペティションを実践できるのであれば、地政学的に競合関係にある国々も、このアプローチを取ることができるはずです。

政府は「コーペティション」の精神で、協力することができる

この夏、中国と米国が長らく中断していた気候変動に関する協議を再開し、地政学的な協調が強まる兆しが見えてきました。両国は、他の分野における意見の相違にかかわらず、気候変動対策で協力するべきだとの認識で一致しました。しかし、このコーペティションはまだ十分なものとは言い難いでしょう。

ビジネスや地球規模課題への取り組みに、コーペティションが魅力的なアプローチとして採用されるのは、市場シェアや地政学的利益をめぐる競争を続けながらも、コーペティションから利益を得ることができるとの認識があるからです。そして、企業は、競争を維持することがいかに有益で、イノベーションの促進、価格低下、公共サービスの改善につながるかを示してきました。この15年で、太陽エネルギーが、1キロワット時あたり1ドルから4セントにまで下がった理由の一つは、企業が、より安価なパネルを作るために競争したこと。そこには、政府の政策やインセンティブも重要な役割を果たしました。

すべてのリーダー、CEO、公職者は、コーペティションを行動計画や戦略に取り入れる必要があります。私たちは、コーペティションが、企業や顧客にどのような利益をもたらすかを知っています。今こそ政府は、その力を国や国民に示すべき時です。

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