最高速度引き上げへ? トラック「無人運転」「自動運転専用レーン」の現在地
高速道路を走る大型トラックの最高速度引き上げ検討が進んでいる。 Image: Unsplash/Caleb Ruiter
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サプライチェーンと輸送
政府が発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」に「高速道路のトラック速度規制(80km/h)の引上げ」が盛り込まれたことをきっかけに、警察庁も検討を始めた。有識者会議を通じ、年内をめどに考えをまとめる意向だ。この速度規制引き上げの検討は、物流業界に残業時間の規制が適用されるために、物流の供給が追いつかなくなるといわれている2024年問題に起因する。
物流の維持と安全性が議論の焦点
そもそもこの議論が進み始めたのは「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で発案されたヤマト運輸の提案がきっかけのひとつだ。残業時間の規制が適用されれば、需要の多い東京ー大阪間の長距離輸送に2名のドライバー人員がかかる。現在の制限速度80km/hから100km/hへ引き上げられた場合、これまで通り1名の人員で済むという例が挙げられた。物流コストやサービスレベルを維持するための一案だ。車両開発やテスト走行の取り組みを同時に提案している。
一方、SNS上ではドライバーを中心に不安視する声が多数上がっている。現状の速度規制は、大型トラックによる交通事故件数の多さが考慮されて設定された背景があるからだ。スピードリミッターの車両搭載義務化も手伝い、事故件数は減少している。車両や道路環境が現状のままであれば、最高速度の引き上げは事故が増える要因になりえるだろう。
ここで最高速度を引き上げるための施策案として「既存の自動ブレーキや追従機能の技術活用」が挙げられている点に着目したい。2024年には新東名高速道路の一部に、自動運転車用レーンを設置する構想も政府は明らかにしている。想定される自動運転技術は「レベル4」。このレベル4は、限定された条件での自動運転を実現するレベルだ。
自動運転トラック技術の現在地
では自動運転トラックの技術は、現状どのような状況にあるのか。
長距離輸送におけるレベル4(限定条件)での自動運転サービス提供を目指し、実証実験を行う企業T2の代表取締役CEO 下村正樹氏に話を聞いた。同社が初期段階目標として2026年を目処に目指すのは、関東-関西圏における高速道路上の幹線輸送サービスだ。
下村氏は最高速度の引き上げに関する議論には言及する立場にはないものと強調したうえで、自動運転トラック技術の現状についてこう話す。
「合流に関しては、高い精度で周辺車両を認識し、車間距離を正しくとりながら走行できます。今は高速道路本線上で走行実験を行っている段階で、料金所はまだ走っていません。また空荷で実験を進めており、今後荷物を積んだ状態で車両を安全に制御する自動運転技術を確認する必要があります。1tの荷物を積んだとき、2tの荷物を積んだとき、それぞれ車両がどういう挙動になるのか。何をすれば荷物の破損が起きるのか。これから数限りないシミュレーションとテストコースでの実験を繰り返していくところです」
同社が目指すサービスは自動運転トラックの販売ではない。高速道路上におけるレベル4の自動運転技術を活用した輸送会社として幹線輸送サービスを提供することを目指している。未知の領域にチャレンジするため実証実験は慎重に進めている印象が強い。
直近の課題は「人が車両に乗った状態、つまりレベル2の実証実験を繰り返して課題を洗い出すこと」だという。
「まずは関東から関西を安全に走行できるよう、作り込んでいきます。『技術的にできる』ことと、『安全にオペレーションする』こととは別問題と考えます。人間と同等以上の安全を担保し、お客様に使って頂けるサービスにしなければなりません。『自動運転技術を活用した社会インフラを構築し、日本の物流の未来を支える』をミッションとして、社会課題を解決する取り組みを目指します」(下村氏)
今後の実証実験には「事故ゼロを目指して、誰が見ても一目見て自動運転の実証実験をしていると判別できるように黄色の目立つ色合いに塗装されたトラックを用いる予定」だという。「黄色いトラックを見かけた際には、自動運転実現に向けた社会実験を進めていると理解頂ければ嬉しい」と述べている。
速度規制緩和議論の前に課題は山積──
報道では「自動運転技術の実証実験が成功した」側面のみが切り取られがちだ。しかしその裏側では、ひとつひとつのシミュレーションが入念に行われている。自動ブレーキ技術が発達し、交通の安全が担保できたとしても、ただちに荷物を安全に運べることとイコールにはならない。
自動運転専用レーン、乗用車の少ない夜間、無人運転などの条件が揃えば、速度規制の緩和も安全に叶うかもしれない。しかし事業用車において今すぐに実現するものではなさそうだ。技術的に可能になったとして、トラック運送業界の99%を占める中小企業に、高価になるであろう最新技術を有したトラックが行き渡るかといえば疑問である。だとすればT2のようなビジネスモデルが台頭するのか。はたまた、安全性の議論はおざなりなまま進んでしまうのか。速度規制の緩和については慎重な議論を求めたい。
*この記事は、Forbes JAPANの記事を転載したものです。
文=田中なお
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