ヨーロッパで進むダムの撤去:河川再生と生物多様性の回復に貢献
河川の自由な流れの回復は、生物多様性の増加につながります。 Image: REUTERS/Denis Balibouse
- 2022年、ヨーロッパの河川から過去最多のダムやその他の障害物が撤去されました。
- 河川の自由な流れを取り戻すことは、生物多様性を回復させ、絶滅の危機に瀕した魚の繁殖を助けます。
- 世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2023年版では、生物多様性の喪失と生態系の崩壊が、今後10年で世界が直面するリスクの上位5つのうちの一つに挙げられています。
2022年、ヨーロッパの河川から過去最多のダムや堰が撤去されたことで、ヨーロッパ大陸の淡水の大動脈の健全性は、回復に向かっています。
野生生物と環境保護に関する7団体の連合体である、ダム・リムーバル・ヨーロッパ(Dam Removal Europe, DRE)の年次報告書によると、16カ国の河川で325の障害物が撤去されたことで、川の流れが改善し、魚が繁殖地に到達できるようになりました。
スペインが、先頭を切って河川の流れを最も妨げる障害物の撤去に乗り出し、スウェーデンとフランスがそれに続きました。ラトビアとルクセンブルグは、初めて障害物の撤去を報告し、DREによると、撤去されたものの73%が堰でした。
河川の自由な流れを回復させることは、生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せることができる重要な方法だと、同報告書は強調しています。世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2023年版では、生物多様性の喪失と生態系の崩壊が、今後10年で世界が直面するリスクの上位5つのうちの一つに挙げられています。
生物多様性の回復
世界自然保護基金(WWF)ウクライナは、同国が戦争状態にある中、カルパチア山脈のペルカラバ川にある120年の歴史を持つバユリブカダムを撤去しました。
当初、木材の運搬を助けるために建設されたこのダムは、40年間使用されることなく放置されたことで、崩壊の危機が迫っていました。ダムを撤去することで、27キロにわたる河川が再び開放され、絶滅の危機に瀕していたドナウサケなどの魚が、伝統的な産卵地に戻ることができるようになりました。
魚の個体数の回復により、ヒグマ、カワウソ、ヨーロッパミンクなど、この地域の魚食動物の数が増加し、カルパチア山脈の生物多様性のホットスポットとなることが期待されています。
ダム撤去のコスト
河川の自由な流れを妨げている障害物の約6分の1は、老朽化し、崩壊の危機があるために撤去されました。その中には、100年も前に建設され、老朽化して放置されていた水力発電ダムが10基も含まれていました。
ノルウェーのスポーツ・フィッシング・クラブが撤去を訴えていた、106年前に建設されたトロムサ川の水力発電ダムは、2022年1月にダイナマイトで爆破されました。ダムには、魚が再び川を遡上できるようにするためのステップ・プール構造のカスケードが作られました。
2022年6月には、ノルマンディーのセリューヌ川にあるラ・ロシュキ・ボワの水力発電ダムが撤去され、川の60キロもの流れが回復しました。一方、フィンランドでは、ラーナセンコスキーダムの撤去により、同国最大の河川再生プロジェクトが完成に向けて一歩前進しました。
DREによると、この1年間で少なくとも832キロの河川が再接続され、欧州連合(EU)および各国政府における河川の新たな法的保護策への進展も見られたといいます。
水力発電は、世界最大の低炭素エネルギー源であり、世界の電力発電量の約6分の1を占めていますが、水力発電が耐用年数を迎えた際の撤去コストを定量化するためには、さらなる調査が必要だとDREは指摘しています。
米国におけるダム撤去に関する最近の研究によると、高さ10メートルのダムの撤去費用は平均620万ドルとされています。ヨーロッパには、老朽化したダムが15万基ある中、DREは、個々のダムの正確な撤去コストを計算する新しいアプリを導入しています。
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