25年間にわたるソーシャルイノベーションが変えた、数百万の人生

ソーシャルイノベーションは、7億人以上の人々の生活を向上させ、その数は今後も増え続けるでしょう。

ソーシャルイノベーションは、7億人以上の人々の生活を向上させ、その数は今後も増え続けるでしょう。 Image: Image: World Economic Forum/Sandra Blaser

Klaus Schwab
Founder, Executive Chairman, World Economic Forum
Hilde Schwab
Chairperson and Co-Founder, Schwab Foundation for Social Entrepreneurship, World Economic Forum Geneva
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クラウドソース・イノベーション
参加する クラウドソーシングのデジタルプラットフォームで、スケール感のあるインパクトを提供します。
  • ソーシャルイノベーターは、世界が抱える最大の課題に、包括的かつ持続可能なソリューションを提供します。
  • ソーシャルエコノミーの規模と重要性は、国連決議によって世界的に認識されるようになりました。
  • 社会起業家を支援するシュワブ財団のコミュニティは、25年にわたり世界に影響をもたらしてきました。

今、4つの大きな変革が世界で同時に起きています。それは、産業の劇的な脱炭素化を含む経済の変革、デジタルと物理の世界の融合及びAIの埋め込みという技術的変革、一極から多極への環境変化による地政学的な変革、そして、市民が大きな変化や相反する価値観に対処することが求められる社会的な変革です。

このような急速な変化に直面したとき、私たちは、社会を結びつける力となり、誰ひとり取り残さないようにするためのラディカルなイノベーションを必要とします。利益よりもインパクト、公平性、正義を重視する新しいタイプのソーシャルイノベーターの存在は、リソースの配置や価値の創造において、クリエイティブなソリューションの源として重要な役割を果たすのです。

こうした中、世界の最貧困層700万人の潜在能力の実現を支援し、急速に変化する世界の中で女性、農民、衣料分野の労働者が取り残されることがないよう、バングラデシュに拠点を置くBRACなど、真の変化をもたらすソーシャルイノベーターもいます。

ソーシャルイノベーターが、数百万人にリーチする方法

環境維持、ヘルス、教育、農村開発などの分野の課題に取り組むソーシャルイノベーターは、何億人もの人々にリーチできる能力を実証してきました。

ソーシャルイノベーターは、自由市場や既存の政府のシステムの力が及ばないところにディスラプティブ(創造的破壊)なサービスを提供することで、あらゆる分野や地域の取り残されたコミュニティにアプローチしています。こうした取り組みにより、企業は、新たな方法で消費者、従業員、多くの若者の要求と一致する社会的課題に取り組む必要性に気づかされ、業界全体が変革されつつあります。

25年前、私たちは、社会起業家を支援するためシュワブ財団を設立しました。その理由は、変化をもたらす力のある新たな世代のリーダーこそが、従来とは異なるビジネスモデルに創造性を注ぎ込み、世界を改善する可能性を秘めた力であると考えたからです。こうしたリーダーたちが必要としていたのは、世界的な知名度、パートナーシップ、そして、加速するためのプラットフォームでした。

1998年当時、ソーシャルイノベーターは、経済や国際的な開発努力の片隅で活動する、まさにパイオニアでした。彼らの努力は、しばしば認識されず、意思決定者へのアクセスや、規模を拡大するためのパートナー探しも容易ではありませんでした。また、政府、企業、一般市民から誤解されることも少なくありませんでした。

しかし、この四半世紀で潮流は変わりました。ソーシャルイノベーションの実践、ツール、そして社会起業家のモデルは経済と社会の主流となり、若者、女性、排除されたマイノリティグループなど、最もリスクの高い人々にライフラインが提供されるようになりました。

ソーシャルイノベーションを推進する国連決議

2023年4月末、国連総会が、国連の持続可能な開発目標の17項目すべてを前進させるとして、持続可能な開発のための社会的連帯経済の推進決議が初めて採択されたことで、大きな転換期を迎えました。

この決議は、世界中の政府に対して、社会的企業、協同組合、ソーシャルイノベーションを支援する政策の実施を求めるもので、EU、アフリカ連合、国際労働機関、OECDなどの国際機関が独自の社会的経済行動計画や勧告を採択するなど、この分野への幅広い認識の一環を担っています。

アフリカの農村、アジアやラテンアメリカの大都市、ヨーロッパや北米の恵まれない地域など、ソーシャルイノベーションの勢いが増すにつれて、ますます多くの人がその恩恵を受けています。Ziplineのような組織は、ルワンダの血液輸送に変革を起こしています。そして、スタートアップのAID:Techは、ブロックチェーンを用いてデジタルIDと決済を融合させ、援助や送金をできるようにし、スマートテクノロジーが十分なサービスが行き届いていない人々のニーズを結びつけることに可能性を見出しました。

その結果は驚くべきものです。コミュニティを助けたいという情熱を持った多くの個人が、善とビジネスを同時に行う新しい方法を考案するにつれ、ソーシャルエコノミーは世界の国内総生産の推定7%を占めるまでに成長し、世界の注目を集め始めているのです。

シュワブ財団 - ソーシャルイノベーションのプラットフォーム

シュワブ財団は、ソーシャルイノベーションの優れたモデルを促進するためのグローバルなプラットフォームを提供することで、この分野の成長の一翼を担っています。当財団は、25年以上にわたり、450人のチャンピオンのコミュニティを形成し、約10億人の生活にインパクトを与えてきました。2021年末の時点で、その数は7億2,200万人に達しています

ソーシャルイノベーターたちは、危機の時代にもアジャイルでレジリエントであることを示してきました。例えば、2008年の金融危機の後、イタリアやベルギーでは、パブリックセクターや企業においての急激な減少とは対照的に、ソーシャルエコノミーにおける雇用は増加しました。同様に、新型コロナウイルスの感染拡大時には、政府が必要な支援の提供に苦戦した時期に、ソーシャルイノベーターが、モバイルヘルスからオンライン教育まで、地域に根ざしたサービスを提供するために立ち上がりました。

また、シュワブ財団は、ソーシャルイノベーションの原則を所属する企業やプライベートセクターにおいて適用しているイノベーターも表彰しています。例えば、ガランス・ワッテス・リチャード氏は、AXAにおいて、異常気象や病気などにより壊滅的な影響を受けている数百万人の人々に保険へのアクセスを提供するための変化をもたらしています。また、細分化された家族介護サービスを再構築し、アブダビにFamily Care Authorityを設立したブシュラ・アル・ムラ氏の例は、家族を軸とし、複数の社会サービスを統合した先駆的なモデルと言えるでしょう。

ソーシャルエコノミーと企業をつなぐ新しいエコシステムの出現は、特に励みになります。このエコシステムは、ソーシャルイノベーションの原則をより広い経済とパブリックセクターに適用している、社会起業家グローバル・アライアンス (Global Alliance for Social Entrepreneurship)に象徴されています。大企業、国際機関、インパクト投資家、仲介業者、アカデミア、NGO、資金的強者など100を超えるメンバーたちが、20億人以上の人々の生活に影響を及ぼしている世界の10万人の社会起業家を代表しています。私たちは、このグローバル・アライアンスがソーシャルイノベーション革命を新たな高みへと導くために、影響力を持っていることを大変うれしく思います。

今後25年間は、経済、技術、地政学、社会の4つ側面で、世界が直面する変革に対処するための革新的なソリューションが一層求められるようになるでしょう。雇用が減少している多くの貧困国が汚染産業に過度に依存しており、地域コミュニティに力を与える代替モデルがなければ、さらなる不平等を助長する危険性があります。同時に、新たなテクノロジーへの投資は高所得国に偏りがちです。

ソーシャルイノベーターは、困難な時代において企業や政府の活動を補完する希望の光となるでしょう。彼らは、難しい課題に対して拡張性のあるソリューションを提供することで、変革を起こすことができることを実証し、既存の制度が変えられていくべき姿を見せるのです。

25年前、ソーシャルエコノミーが経済の大部分を占めるようになることを望むのは、あまりに大胆なことだと思われたかもしれません。しかし今では、世界のGDPの7%を占めるまでになりました。ソーシャルエコノミーの普及率が今後の成長を示すものであるとすれば、ソーシャルエコノミーは、より包括的で持続可能な経済への、稀に見るポジティブな転換点を生み出す軌道にあると言えます。

そして、ソーシャルイノベーターたちが、ステークホルダー・エコノミーを勢いづけるだけでなく、その活動を通じて、何十億もの人々にポジティブな影響を与える方法やその規模を世界に示していることを、私たちは間もなく目撃することになると期待しています。

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