急回復するインバウンド、人手不足とオーバーツーリズムを解決するには
急回復するインバウンド、人手不足とオーバーツーリズムを解決するには Image: Unsplash/Sayaka Ganz
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- 日本を訪れる外国人観光客が増加し、宿泊・観光業の本格的な回復の兆しが見えてきています。
- 3月の訪日客は200万人近くに達し、パンデミック以前の2019年同月の集計値の66%に届きました。
- しかし、観光客数の回復度合いのスピードに受け入れ態勢の準備が追いつかず、人手不足が大きな課題となっている他、オーバーツーリズムの再熱も懸念されています。
新型コロナウイルスの感染拡大による打撃を受けた、日本の宿泊・観光業の復調の動きが本格化しています。
昨年10月に、外国人観光客の入国者数の上限が撤廃され、個人の外国人旅行客の入国も解禁されるなど、新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和された日本では、今年3月に、新型コロナウイルス感染予防対策も緩和され、マスクの着用ルールが、屋内・屋外問わず個人の判断に委ねられることになりました。
このことが追い風となり、同月の訪日客が一気に182万7,500人まで回復。この数字は、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年3月の集計値の66%に相当し、2022年3月と比較すると27.5倍となります。
3月に日本を訪れた旅行者を国・地域別に見ると、韓国からが46万6,8000人(2019年同月比79.7%)と最多。次いで、台湾27万8,900人、米国20万3,000人、香港14万4,900人、の順で多くなっています。また、日本は3月1日から、中国からの渡航制限を緩和したため、中国からの旅行者は2月のおよそ2倍の7万5,000人に上りました。
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内貴英氏は「2023年1年間のインバウンド需要は4兆9,580億円となり、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年のインバウンド需要4兆8,135億円を早くも上回る可能性がある」と、予測します。
しかし、記録的な円安により日本が外国人観光客にとって魅力的な旅行先であることも後押しとなり、インバウンド消費による経済の活性化が本格化する中、日本は、観光客数の回復度合いのスピードに受け入れ態勢の準備が追いつかず、課題が顕著化しています。
宿泊・飲食業で深刻な人手不足
宿泊や飲食サービス業の現場は、インバウンドの復活に対応できず窮地に立たされています。
帝国データバンクが発表した1月時点の調査では、人手不足を感じる企業の割合(非正社員)は、旅館・ホテルが81.8%、飲食店では80.4%に及びました。あらゆる業種の中でも、特にこの2業種が群を抜いた人手不足状態に陥っており、旅館・ホテルに関しては、過去最高の割合となっています。
宿泊や飲食サービス業の多くは、コロナ禍の休業や時短営業、業績不振などを理由に、人員削減や新規雇用の抑制をせざるを得ず、多くの従業員が他業界に転職しました。いったん業界から離れた人材を呼び戻すことは容易ではないことが、深刻な人手不足の最大の要因となっています。
日本の産業界は、人手不足の問題に対して外国人労働者を受け入れるという方法で、これまで解決を図ってきました。観光業界もまた、留学生アルバイトに大きく依存してきた業界の一つです。2021年の独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)のデータによると、宿泊・飲食サービス業が留学生のアルバイト先の4割近くに及んでいます。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより、留学生アルバイトがすっかりいなくなってしまいました。さらに、昨年後半から進んだ円安によって、諸外国から見た日本の賃金は大幅に低下。コロナ危機を乗り越え、経済回復の道を歩み出したにもかかわらず、日本は出稼ぎに行く国として魅力的な存在となくなってきており、外国人材の獲得が期待できなくなっているのです。
デジタル技術の導入で、人手不足のギャップを埋める
深刻な人手不足に陥る宿泊業界では、効率化を高めることで人手不足を補おうと、デジタル技術の導入によるホテル運営の改革が進められています。日本の大手旅行会社のJTBは、基幹システムと自動精算機といったデジタルツールを連携させて、チェックアウト業務などを省力化するシステムを開発し、ホテルや旅館にシステムの提供を進めています。
また、国内にホテルを45店舗展開する東急ホテルズは、顔認証やQRコードで非対面のチェックインを可能にするNECのスマートホスピタリティサービスを全国39店舗に導入しています。利用者は、事前に宿泊者情報と顔写真の登録を行えば、宿泊当日にフロントのタブレット端末へ顔をかざすだけでチェックインが可能。デジタル技術が、ホテル運営の効率化を実現すると同時に、人の滞留が起こりやすいホテルのロビーを人との接触が少ない空間へと変えています。
再熱が懸念されるオーバーツーリズムへの対策
人気観光地を訪れる観光客が過剰に増加する「オーバーツーリズム」は、かねてより日本の観光業界の課題となっており、観光地の地域住民は、混雑や交通渋滞、ゴミ問題、騒音などに悩まされてきました。オーバーツーリズムを防ぎながら、観光業が復活に向けて勢いを高めていくためには、旅行者が訪れる時間と地域を分散させることができるかどうかが重要な鍵となります。
観光庁の調査によると、多くの人が大型連休を含む休日に旅行をし、年間日数の7割を占める平日の旅行量は16.5%に過ぎません。政府は、休日に旅行が集中する課題に対処するため、観光需要喚起策として行う全国旅行支援で、平日の旅行に対するクーポン付与額を増額するなど、旅行需要の分散化を図っています。テレワークの普及で、平日に仕事と旅行を両立することも実現可能になった今、ワーケーションなど新たな需要創出も旅行需要の平準化につながる可能性があるでしょう。
観光先となる地域の分散も重要な課題です。新型コロナウイルスの感染拡大前には、観光客の集中する大阪、京都、福岡などでは宿泊施設の客室稼働率が80%近くまで上昇し、オーバーツーリズムによる弊害が叫ばれていた一方、外国人観光客の代表的な観光周遊ルートに位置する多くの県では、宿泊施設の客室稼働率は50%を下回るなど、地域差が生じていました。今後は、日本の多様な観光地の魅力を発信することで、こうした地域差を埋めていくことや、リピーターを獲得することで代表的な観光地以外を訪れる観光客を増やしていくことが重要になるでしょう。
新しい形の観光サービスへ
世界経済フォーラムが発表した「2021年旅行・観光開発指数レポート」では、パンデミックによる打撃から旅行・観光産業の立ち直りの早さから、日本が開発指数ランキングの1位となりました。旅行・観光産業が世界の経済的、社会的発展に重要な役割を果たすと想定すると、同産業開発のけん引役となるものへの投資が今後極めて重要になると同レポートは強調しています。
一方、ジェイアール東日本企画の高橋敦司氏は、これまでの日本のツーリズムへの取り組みに対し、「勘と経験と思い込み。われわれは長い間多くのことをデータを見ずに決めてきた」ことに警鐘を鳴らします。「データの見え方と解釈によって複数出てくる仮説からその時点での最適解を選ぶのが本来のマーケティング。しかし観光の分野ではまだまだ浅い気がしてならない」と。
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