気候変動への適応に真剣に向き合うべき今、できることとは
気候変動への適応は、全体的な気候変動戦略の一部でなければならない。 Image: Freepik.
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COP28
将来起こりうる最悪の事態を避けるために、今すぐ行動を起こすべきだ――。長年、気候変動に対してこのような警告が繰り返されてきました。しかし、エジプトのシャルム・エル・シェイクで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されている今、こういった警告は力を失いつつあります。私たちは、自分自身と地球を守るための取り組みが必要であることをはっきりと認識しなければならない時期に来ているのです。
気候変動はもはや遠い未来の脅威ではありません。今この瞬間も、地球上のすべての生命と生活に影響を及ぼし、水環境などの生態系の循環バランスを崩壊させているのです。地球の平均気温は産業革命以前に比べて1.1度上昇し、異常な気候や気象に伴う災害は1990年代に比べて約35%増加しています。最近では、パキスタンやナイジェリアで大規模な洪水が発生し、多数の死者と避難民が出る事態を招きました。
温室効果ガスの排出削減と、食料システムや水循環システム、海洋システムの変革に継続的に取り組み、気温上昇に歯止めをかけなければなりません。同時に、気候変動がもたらす目の前の現実に足並みをそろえて適応していくことにも本腰を入れる必要があります。つまり、気候変動への適応を総合的な気候変動戦略の一部として考えなければならないのです。そのためには、企業活動や政策のアプローチを見直し、気候変動に起因する環境の変化や極端な気象現象を考慮した対応ができるよう、技術面・財政面での取り組みを講じていくことが求められます。
もちろん、最も危機的状況にある人々への支援にも、一層力を入れていかなければなりません。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した最新の報告書は、世界人口のほぼ半分に相当する約33億人が、気候変動に対して非常に脆弱な地域に暮らしていることを明らかにしています。これらの人々の多くは、気候変動への責任が小さく、その影響に対応する力が弱い人々でもあります。その顕著な例が、海面上昇による影響が深刻な小さな島国です。
気候変動への適応が必要なのは脆弱な地域だけではありません。近年、国を問わず異常気象が頻発し、気候変動の影響が地球全体に及んでいることを実感するようになりました。干ばつや山火事などの自然災害は、頻度と激しさが増しているため、多くの命を奪い、インフラを破壊し、サプライチェーンを寸断しています。すべての政府、企業、個人が適応策の準備を迫られているのです。
取り組みが遅れれば適応はより困難になり、かかるコストも増大します。そして、ますます多くの命と生活が脅かされることになります。国連は、気候変動への適応に必要なコストを、現時点で700億ドルと試算していますが、2050年には5,000億ドルに増大する可能性があります。カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトによると、今行動を起こした場合と、何もしなかった場合のコスト差は、水リスクだけでも5倍になるとされています。
では、気候変動への適応を加速させるためには、何ができるのでしょうか。
これまで、その責任は各国政府や多国籍機関、ドナー機関にあるというのが一般的な認識でした。いくつかの国では、国連気候変動枠組条約に基づき、気候変動への適応に向けた国家戦略が策定されています。また、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、気候変動への適応とレジリエンス(強靭性)の向上のため、開発途上国への支援資金を2倍にすることを求める内容が盛り込まれたグラスゴー気候合意が採択され、きわめて有意義な成果を得ることができました。
しかし、実際は、国家レベルでの取り組みだけでは実現は不可能です。昨年設定された目標が達成できたとしても、適応への資金はまだ必要水準に達してはいません。
そこで欠かせないのが、企業による取り組みです。世界経済フォーラムが公表した新しい白書で紹介されているように、明確なモデルケースが存在します。
企業は、バリューチェーンに沿ったリスク評価や、サプライヤーやコミュニティとの協働を通じて、衝撃に耐えるために必要なスキルやリソースを特定することで、事業上のリスクをより適切に管理・軽減し、多大な経済的損失を回避することができます。また、気候変動への適応に関するステークホルダーのニーズに対応した製品、サービス、ビジネスモデルに投資する機会を活かすことにより、効率性の向上、イノベーションの創出、持続可能な成長という恩恵を受けることができます。2019年のGlobal Commission on Adaptation(気候変動適応グローバル委員会)の報告書は、世界全体で気候変動への適応の取り組みに1.8兆ドルを投資した場合、2030年までに7.1兆ドルの純便益が見込めるとしています。
技術開発の経験やデータに基づくインサイトを活用できるという強みも、企業にはあります。例えば、エネルギー事業を展開する米国のセンプラ・エナジー社は、センサー技術と気象データを山火事による被害の軽減に活用しています。これは、自社のエネルギーインフラの保護と公共の安全の確保にもつながっています。
政府には、金融機関などのパートナーと協力して、脆弱な地域をより効果的に守るための新たな資金調達手段を模索するという選択肢もあります。例えば、米国国際開発金融公社とザ・ネイチャー・コンサーバンシーは、クレディ・スイスから金融市場と資本市場に関する専門知識の提供を受け、ベリーズでブルーボンドによる資金調達システムを構築しました。このシステムは、海洋管理、サンゴ礁やマングローブの再生、沿岸地域のレジリエンスの強化、そして持続可能な経済発展の促進を目的とするものです。
企業はさらに、自然ベースのソリューションによって、インフラや地域社会の気候に対するレジリエンスを強化することもできます。例えば、国際的エンジニアリング・コンサルティング会社のアラップ社は、地方自治体と協働して、グリーンビルディング設計や災害に強いインフラ整備を推進しています。その一例として、同社は、2017年に地滑り災害で壊滅的な打撃を受けたシエラレオネの首都フリータウンの災害復興支援の一環として、自然ベースの洪水リスク管理戦略を策定しています。
そして最後に、企業は、行政、開発機関、アカデミア、その他産業の関係者と連携して、政策の策定と行動変化を起こすことで、気候変動への適応に関する課題を幅広く提示することができるでしょう。
これを実行に移すためのかつてない機会となったのがCOP27です。気候変動に関する適応策は、これまでも常にグローバルな課題として認識されていましたが、今ようやく、緩和策などと並ぶ優先課題として重視されるようになったのです。
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