アルツハイマー病の予防が、高齢化をチャンスに
新たな研究によると、レジャーや社会活動、学習がアルツハイマー病による認知機能の低下を防ぐのに役立つ可能性があります。 Image: REUTERS/Toru Hanai
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グローバルヘルス
- レジャーや社会活動、学習がアルツハイマー病に伴う認知機能低下を防ぐのに役立つ可能性があると新たな研究により明らかになりました。
- 読解力や仕事の種類も、脳のレジリエンス(強靭性)の重要な要因です。
- 世界の高齢者の人口は、2030年から2050年の間に7,800万人から1億3,900万人に増加すると予測されています。
クラブ活動、学習、スポーツなどのレジャーは、楽しいだけでなく、脳をアルツハイマー病から守ることにも役立つ可能性があると新たな研究で明らかになりました。
研究者たちは、さまざまな活動への参加や学習、読解力、仕事の種類などが、脳の「認知予備能」(加齢など認知症の危険因子から認知機能を守る盾のような存在)に影響する可能性があることを突き止めました。
アルツハイマー病は、認知症の主な原因であり、認知症は、記憶喪失、問題解決、言語や思考面での困難さなどを含む一連の症状をさすと、英国の慈善団体であるアルツハイマー病協会は説明しています。
アルツハイマー病とは
英国の研究者たちは、アルツハイマー病に関連のあるアミロイド斑を脳内に持つ人の中には、この病気の兆候を示さない人がいる一方で、同レベルのアミロイド斑を持ちながら記憶や思考に問題を抱える人がいる理由を明らかにしたいと考え、調査を実施しました。対象は、1946年に英国で生まれ、8歳と69歳のときに認知力テストを受けた1,184人です。
「教育レベル」、「充実したレジャー活動への参加」、「仕事の種類」の項目ごとに、調査対象者の、26歳、43歳、53歳の時点の「認知予備能指数」を測定。さらに、学歴や職業とは別の生涯学習全般の指標として、53歳時点での読解力も調査しました。
多くの活動に参加することが脳を鍛える
成人教育、クラブ活動、社会活動、ボランティア活動、ガーデニングなど、6つ以上のレジャー活動に参加していた人は、4つ以下のレジャー活動をしていた人に比べ、平均で1.53ポイントほどスコアが高くなりました。
専門職や中級レベルの仕事に就いている人は、一部技能職または技能職でない人に比べ、スコアが平均1.5ポイント高くなっています。
また、学士号などの高等教育の資格を持つ人は、そうでない人よりもスコアが平均1.22ポイント上回りました。
そして、幼少期の認知能力や読解力、ライフスタイルに関わる認知予備能指数が高スコアであるほど、69歳時点の認知テストのスコアが高くなることも明らかになりました。
認知能力の向上
研究の執筆者であるドリナ・カダー氏は、この結果が非常に興味深いものであると述べています。認知能力が私たちの生涯を通じたあらゆる要因の影響を受けること、そして、「知的、社会的、身体的に活発なライフスタイル」が認知機能の低下と認知症の予防に役立つ可能性を示しているからです。
ニューロロジー誌に掲載されたこの調査結果は、たとえ幼少期の生活が充実したものでなかったとしても、生涯を通じ、脳の強さである認知的レジリエンスを積極的に高められることを示唆しています。
ニューヨークのマウントサイナイ病院精神科のミハエル・シュナイダー・ベーリ教授は、「高等教育への投資、レジャー活動の機会の拡大、技能職ではない就業者へ認知力が求められる活動を提供すること」に、公衆衛生上または社会的に多くの利点があるだろうと指摘しています。
世界経済フォーラムのヘルス・エクイティ・リード、タイ・グリーンも同じ見解を持っています。「健康の社会的決定要因とは、教育、収入、住居など、人々の健康とウェルビーイング(幸福)に影響する医療以外のものであり、これらが、健康状態を決定づける要因の最大55%を占めています」とグリーン。「アルツハイマー病患者の認知機能の低下レベルにみられる差や、高所得国と低所得国間で平均寿命に18年の開きがあることなど、健康の社会的決定要因に基づく健康状態の格差に関する研究が進むにつれ、健康格差の是正はヘルスケアセクターだけの責任ではないことが明らかになってきました」。
「世界経済フォーラムの健康の公平性グローバルネットワークは、健康とウェルビーイングにみられる国家間および国内の格差に対処することを目指し、セクターや地域を超えてリーダーたちを招集し、組織戦略、運営、測定の核として、健康の公平性を高める行動を優先させることに努めています」。
人口の高齢化
世界保健機関(WHO)によると、認知症患者は世界で約5,500万人にのぼり、そのうち60%以上が低中所得国で暮らす人々です。
ほぼすべての国で高齢者人口の増加が進んでおり、2030年から2050年にかけて、世界の高齢者人口は7,800万人から1億3,900万人に増加すると予測されています。
国際通貨基金(IMF)は、経済的な側面から、高齢化は生産年齢人口の減少や経済成長の鈍化につながると指摘しています。スタティスタによると、2018年におけるアルツハイマー病の治療費は全世界で約1兆ドルでしたが、2030年には倍増する見通しです。
IMFによると、これは、就労している人々が高齢者を支えるために支払う負担額が増加することを意味しています。医療費や退職金の支出により政府予算が圧迫される恐れがある一方、労働者の高齢化は賃金の上昇や生産性の向上につながる可能性があります。
米スタンフォード大学は、長寿に関する研究の中で、高齢化は大きなチャンスであると述べています。ただし、過去1世紀に主な発展を遂げてきた現在の規範、政策、社会制度の大きな変化が必要であると指摘します。
同大学の予測によると、2050年には、現在の5歳児の半数が100歳まで生きられることが見込まれています。
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