管理職は必要?若年層が働きやすく、メンタルヘルスに効果的な職場環境とは
ビュートゾルフは、世界各地で事業を展開しています。 Image: Unsplash/Arlington Research
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労働力と雇用
- ある革新的な介護組織の最高経営責任者によると、「若い従業員のやる気を引き出すには、シンプルな思考と、オーナーシップを与えることが必要」です。
- ヨス・デ・ブロック氏が創業し、最高経営責任者を務めるオランダの在宅看護・介護組織ビュートゾルフでは、1万5,000人以上の看護師が世界中で活躍し、地域密着型のケアサービスを提供しています。
- ビュートゾルフの自律型組織による手法は、生産性を高め、人材不足という課題に対処し、将来の働き手に魅力的な環境を提供する、とデ・ブロック氏は強調します。
- これは、管理職を減らし、より多くのスタッフに本来の活動に専念させることを意味しています。
より積極的に効率よく仕事ができ、幸福感を味わえる秘訣とは何でしょうか。それは、管理職をなくし、チームが「自律」した組織として活動できるようにすることです。
このようにコメントしたのは、世界中で1万5,000人以上の看護師が活躍し、地域密着型のケアサービスを提供する、オランダの革新的な在宅看護・介護組織ビュートゾルフの創業者であり最高経営責任者(CEO)の、ヨス・デ・ブロック氏です。
多くの国が、高齢化や医療従事者の不足が原因で、介護崩壊の危機 に直面しています。世界経済フォーラムの白書では、ケアサービスへ投資することで、未対応であったヘルスケアの需要が満たされ、社会の流動性が高まり、経済成長が促進されることを明らかにしています。
しかしデ・ブロック氏は、スイスのダボスで開催された、世界経済フォーラム年次総会2022のセッション、「仕事の未来(Jobs of Tomorrow)」で、次のように述べています。「生産性向上と人材確保のためにはケアサービスの組織手法を変革することが必要です」。
「世界中で(本来の自分の仕事に)専従している人々は、わずか20%に過ぎません。これは、生産性の低下だけでなく、健康状態の悪化にもつながるため、非常に大きな課題です」。
「ケア従事者が新しい構想を柔軟に取り入れ、常に学ぶことができるような、そして効率の高い組織構造につながる職場環境を整える必要があると私は考えています」。
自律型組織、成功の原点
2006年、デ・ブロック氏と3人の同僚看護師は、患者の自立支援に看護師が専従できるようにすることを目的に、オランダの医療制度の簡素化に着手しました。
1つのチームからスタートし、各地域で自律組織化された870の自律型チームへと急速に拡大し、このモデルは24か国で展開されています。
ビュートゾルフの「玉ねぎモデル」は、患者・利用者の幸せを中心に考えられています。同社のウェブサイトには、「専門職は、利用者とその生活状況に合わせた支援を行います。その際には利用者の生活環境、周囲の人々、家庭でのパートナーや親戚、インフォーマル・ネットワーク(家族、友人や近所との人間関係)を考慮すること」と明記されています。
12名で構成される看護師を中心としたチームが、利用者のニーズに合う解決策を、利用者とともに策定。解決策は各利用者のフォーマル・ネットワークやインフォーマル・ネットワークにより異なってきます。チームは自分たちで仕事の進め方を計画し、責任を分担し、決定を下すのです。
国際会計事務所KPMGが2012年に発表したケーススタディーでは、ビュートゾルフがケアモデルを変更したことで、「ケアの時間を50%短縮し、ケアの質を高め、スタッフの仕事満足度を高めた」ことが明らかになりました。
デ・ブロック氏は次のようにコメントしています。「どのように学び、どのように職場に貢献するかを、労働者が自己決定できるようにすることで、人々がさらに柔軟に働けるようにすることが必要です」。
「従業員自身が、オーナーシップがあると感じると、職場でより活躍するようになるはずです。40~50年に及んだトップダウン思考は多くの人々にとって有害なものでした。オランダでは、200万人が鬱症状を抱えています。職場環境によって鬱を患うことは、世界全体の大きな課題であると思います。職場環境を改善することで、人々の幸福感、生産性、柔軟性が高めることができるのです」。
ヘルスケアにおける人材不足の危機
2016年、新型コロナウイルス感染症が世界の医療システムを大きく圧迫する以前に、世界保健機関(WHO)は「保健医療人材の世界戦略:労働力2030(Global Strategy on Human Resources for Health: Workforce 2030)」を発表しました。
2030年までに保健医療分野でおよそ4,000万人の雇用が創出される、とWHOは試算しています。同報告書では、4,000万人の大半は中・高所得国の人材であり、低所得国では1,800万の人材不足となるとしています。
ビュートゾルフの手法は国レベルで生産性を30%向上させる可能性があると、デ・ブロック氏は述べます。この手法を取り入れると、人材不足の課題に対処でき、将来の医療従事者に魅力的な環境を提供できるようになります。
「私たちは、教師や医療従事者が実施しなければならない、官僚的で非常に複雑な制度を多く作ってきました。(しかし)この機会を利用すれば、生産性の高いサービスを提供できるのです」と、デ・ブロック氏は続けます。
「どの経営学修士課程(MBA)も同じことを教えているように、私たちは戦略的経営や運営管理などについて考えることが必要です。しかし、それは今の世の中には当てはまりません。若者たちは、魅力的な仕事を求め、仕事に意義を感じたいのです。若者の希望を満たすことができれば、人材は育ち、生産性も高まります」。
「20~30年後には、多くの国々で70歳以上の高齢者が倍増するため、仕事の手法を変えなければ高齢者をケアする人材が得られなくなるでしょう」。
「人口統計を見てみると、状況はどの国でも同じです。医療従事者の不足や、制度の失敗はすでに始まっています。人材活用の柔軟性を向上させる制度に変えなければなりません。また自主性、自由、オーナーシップをより一層医療従事者に持たせることで、魅力的な職場を作ることが必要です」。
賃金の引き上げがもたらす成果
デ・ブロック氏は、「ビュートゾルフではスタッフの満足度と責任感は、常に高く維持されています。これは報酬が高いことにもよりますが、その他の理由もあります」と述べています。
「私たちは(医療従事者に)報いようとしているでしょうか。彼らの処遇改善を考えているでしょうか。この数年間、彼らの給与水準は抑えられてきました。ビュートゾルフでは賃金の引き上げを実施したことで、高い成果が得られたのです」。
「効率と効果について、間違った思い込みをしているのです。効率を追わないようにしたことで、高い効果と結果が得られました」。
「ビュートゾルフはスタッフに、オランダでの最高レベルの給与を支払っていますが、同業者からは『ビュートゾルフが賃金の引き上げを実施すると、プレッシャーを感じる』という声を多くいただきました。私は『いいえ、みなさんも同じようにできます。ただし、組織構造を変えなければなりません。架空の役割を担う管理職を減らし、より多くのスタッフに本来の活動に専念させるのです』と答えました」。
「過去50年間、私たちはあまりにも細かく分業化し、作業効率をさらに悪化させてきました。医療制度や教育制度を見るとわかるように、あらゆる作業は細分化され、最終的な結果ではなく、個々のプロセスや作業にばかりに焦点が当てられているのです」。
「ですから、結果に注目してさまざまな役割を統合すれば、仕事はずっと魅力的、効果的になり、少ない人員でこれまで以上の活動ができるようになるでしょう」。
自律型組織モデルはすべての組織で有効なのか
自律型チームの構造は、アジャイルソフトウェア開発手法がその基礎となっており、2001年に発表された「アジャイルソフトウェア開発宣言(Agile Manifesto)」の原則に従っています。
リーダーは往々にして自律組織化されたチームで生まれるという批評がある一方で、プロジェクト管理ソフトウェア事業者である米ライク社は、銀行のような厳格な序列構造がある組織では難しいと指摘しています。
デ・ブロック氏は、これが「異なるパラダイム」であることを理解し、信頼と人を思う気持ちを大切にする人々だけが成功する、とコメントしました。
「これまでとは異なるパラダイムだと理解することが非常に重要です。それは文化であり、ふるまいであって、さまざまな要素で構成されているものです」。
「フレデリック・ラルー氏はその著書『ティール組織(Reinventing Organizations 』で、組織に対する私たちの考え方は次第に変化すると記しています。多くの若年層がティール組織のような働き方を非常に身近に感じているため、組織のあり方はすでに変化しているのです」。
「私たちは、信頼と人を思う気持ちを大切にする、という同じ理念に基づいて次々に組織を作り上げています。なぜなら、『こうすれば、もっと利益が出る』という考え方ではなく、『信頼と人を思う気持ち』からスタートしたのですから」。
「それが理解できない人々は、変化することはできないでしょう。(しかし)スタッフの学び方、働き方、その健康を大切に思うのであれば、きっと変わることができます。理念はとてもシンプルですが、世界を複雑にしてシンプルに考えられなくしてしまったのは私たちです。これが最大の課題です」。
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