より健康的かつ公平で、持続可能な食料システムを構築するには
食料システムを変革する Image: REUTERS/Pascal Rossignol/File Photo
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COP26への道
- 世界経済フォーラムの創始者兼会長のクラウス・シュワブ教授は、10月15日、国連食糧農業機関(FAO)で開催された「世界食料デー」の式典で、以下のスピーチを行いました。
- シュワブ教授は、すべての人にとって、より健康的で、持続可能で、より公平かつ公正な方法で食料システムを変革するための4つの戦略について述べました。
マリア・ヘレナ・セメドFAO事務次長、
ご来賓の皆様、
ご紹介いただき、誠にありがとうございます。このたび、FAO「世界食料デー」の式典の一環として、講演を行う機会をいただき光栄に思います。FAOならびにローマに拠点を置く各機関の皆様が、食料システムにおいてリーダーシップを発揮され、「国連食料システムサミット」の開催とそれに続く調整を推進する役割を担っていただいていることに、敬意と感謝の意を表します。
世界経済フォーラムの使命は、官民連携を通じ、世界の状況をより良くすることです。私たちは、イノベーションと起業家精神がもたらす変革の力を信じています。今日、私たちが直面している困難な課題のいくつかは、システム変革によってのみ解決できると確信しております。それは、多くの社会が直面している、気候危機、社会的・経済的危機、そして当然ですが、新型コロナウイルス感染拡大による危機とその影響などです。
この1年は、さまざまな分野において重要な年となりました。その中でも、本日ここに参会された皆様の関心の的は、食料が世界的なアジェンダの中心に再び浮上してきたことでしょう。
食料が見直されたことは、当初は明るい兆しと見られました。その一例は、国連世界食糧計画(WFP)がノーベル平和賞を受賞したことです。また、今年9月に「国連食料システムサミット」が開催され、国連総会では、90を超える各国首脳が食料システムに関して演説を行いました。
しかし、食料がグローバルなアジェンダとして見直されたのは、懸念される理由もあったからです。世界のさまざまな地域では依然として、新型コロナウイルス感染拡大のパンデミック(世界的大流行)によって、健康危機にとどまらず、経済危機や食料危機が広まる恐れがあります。最も脆弱な地域では、既存の対立や、新たに生まれた対立により、そして気候変動の影響により、このような脅威が増大しています。
残念なことに、長年にわたる進展を経て、ここ数年間は、食料不安に苦しむ人々の数は再び急増し始めました。特に2020年には、最大8億1,100万人が深刻な栄養不良に陥っていおり、これは2019年に比べ、1億6,100万人以上の増加となりました。また、世界人口の約3分の1が、健康的な食生活を送る余裕がありません。いわゆる「先進」国の多くでも、食料不安が増大するという現実的な危機があります。
新型コロナウイルス感染拡大の危機から立ち直りつつある現在、すべての人にとって、より健康的で、より持続可能で、より公平かつ公正な方法での再構築が求められています。
食料システムの変革に着手するにあたり、このような変化は基本的に人間にかかわるものであることを忘れてはなりません。原則として、単にサプライチェーンの効率を上げるのではなく、社会的連帯や地方の経済成長を優先すべきです。食料システムは人間のために機能するのであって、その逆ではないという信頼感を高めていかなければなりません。
世界中の約10億人の生産者と70億人以上の消費者を、この変革を引き起こすチェンジ・エージェントとして参加させるという、大きなチャンスが私たちにはあります。そのためには、需要主導型の包括的な原則を、世界、地域、国別のアプローチに組み込む必要があります。
先頃の「国連食料システムサミット」の基盤となった、「食料システム・サミット・ダイアログ(Food Systems Summit Dialogues)」は、世界や国によるこのような行動の必要性を示しました。140か国以上がサミットの前準備として、一連の国家間対話を実施しました。また1,600以上の個別対話が発表され、その結果、100か国以上が「変革に向けた国家方針(National Pathways for Change)」をまとめました。
食料システムの変革の中心となるのは人間であると認識する一方で、私たち自身の役割についても、不都合な真実があることも認めなければなりません。
- 我々人類は、日々消費する食料を生産するために、地球上の居住可能な土地の半分を使用しています。
- そのうちほぼ3分の1は劣化しており、食料システムの長期的な持続可能性を脅かしています。
- さらに、世界中における生物多様性の損失の3分の2が、食料と土地利用活動に起因しています。
- 真水の3分の2以上が農業や食料生産のために利用され、温室効果ガスの3分の1が、食料と土地利用に起因しています。
つまり、「アグリ・フード」システムが問題の大部分を占めていることに疑いの余地はありませんが、同時に解決策の大半を占める可能性もあります。
さまざまな取り組みにおいて、問題解決策の青写真はすでに存在します。それは、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)にも見られます。
しかし、そのような目標達成のためには、イノベーションの「飛躍的な変革」とこれまでにない緊密な協力が必要です。狭い範囲に限定された計画や、限定された、視野の狭い特定テーマのみを追求することでは不十分です。
世界経済フォーラムでは、食料システムに関するあらゆる課題に取り組む、官、民、市民社会のフロントランナーを支援することを目指しています。
- 私たちは、「行動のための、統合されたグローバルなプラットホーム」の促進と構築を目標とします。
- 私たちは、経済システムと食料システムを、「すべての人にとってより公正」で、「地球にとってより持続可能なもの」にすることを目標とします。
- そして、「本当の意味での危機感」と、必要とされている規模感に「対処」することを目標とします。
このような目標を達成するために、FAOをはじめとする国連機関や、関連する国際機関と緊密に連携し、必要な改革をもたらすための駆動力や目的達成の推進力を引き出せることを喜ばしく存じます。
これからの20分ほどで、「食料システムの変革」という課題について、4つの異なる見解をお伝えいたします。皆様の間で議論が喚起され、深まれば幸いに存じます。
マルチステークホルダーによる対応の重要性
第一の見解は、体系的な対処が必要な構造的なリスクがあること、そして食料システムをよりよく変革するためには、マルチステークホルダーの総合的な対応が必要であるということです。
まず、世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2021年版」のデータを基に、食料安全保障と食料システムにかかわる、グローバルなリスクの状況を説明します。
私たちは毎年、約1,000人のシニア・リスク・エキスパートのネットワークに、30の主要な「グローバルリスク」に対する評価を依頼しています。主なグローバルリスクは、経済、社会、環境、テクノロジー、地政学の5分野に分類され、今後10年間のうちに認識できる影響と発生可能性を考慮してランク付けされます。
同報告書には、非常に興味深いことが示されています。
一部の見解とは異なり、金融、投資、ビジネス界の専門アナリストらは、食料安全保障、異常気象、気候変動への適応の不備、水危機、生物多様性の損失、エコシステムの崩壊などの社会面、環境面でのリスクが経済に及ぼす重要性が高まっていることを、「すでに」認識していると思われます。
専門家たちは、これらのリスクが互いに関連し合い、不本意な大量移住や国家間紛争のような、地政学上の問題に直面する恐れがあることも認識しています。
このように私たちは、複雑で困難な、根本的な構造的リスクの増加に直面しています。
しかし、このようなリスクは相互に関連しているため、従来の政策手段だけで対処することは困難であることが明らかです。システミック・リスクへの対応ではなく、サイロ化された(横の連携のない)個別リスクへの対応とすると、事態はさらに悪化します。
人類は、地球の健康とウェルビーイング(幸福)を決定づけるものは、より持続可能な食料と栄養へのアクセスであることを理解しています。しかし多くの人は「アグリ・フードシステム」という概念になじみがありません。
私たちは一人の人間として、アグリ・フードシステムに、日々参画しています。私たちの選択や行動が、相互に関連しながらシステムに影響を及ぼしているのです。
そのため、食料システムを、パズルのピースとしてではなく、全体として捉えることが重要です。サイロ化した見方は、断ち切らなければなりません。課題ごとのプロセスではなく、全体的な成果を重視する必要があります。さらに重要なことは、これらの複雑で多面的な課題に対処するために、どのように協力し、連携していくかをよりよく理解することです。
そのような意味で、食料システムへの考察を呼びかけた国連のビジョンと、「国連食料システムサミット」を成功裏に開催されたことに、称賛の意を表したいと思います。
解決策は、スケーラブルであること
第二の見解は、食料システムの変革に総合的に対応するには、国や地域レベル、そしてグローバルなバリューチェーンに沿って規模の拡大が可能な、マルチステークホルダー・プラットホームの構築が必要になるということです。
食料と土地利用にかかわる課題は、健康、環境、経済問題全体に及ぶため、その課題の複雑さを考えると、当然のことです。そしてもちろん、食料システムの変革に伴う、特定の地域やテーマにかかわる課題に対処する、個々のパートナーシップやアライアンスもすでに多数存在します。
しかし、課題の規模や緊急度に対応するためには、これまでの断片的な進展ではなく、食料システム全体を網羅した、グローバルに連携する取り組みへと急速に変化していかなければなりません。
今回のパンデミックは、共通の目標を達成するための、前例のないグローバルな行動と協調の力を示してくれました。
従来のパートナーシップは、多くの場合、特定課題への対応には非常に効果的でした。しかし、大規模な変化を起こすことはできず、食料システムの変革に必要とされる規模の変化や、複雑さに対処することはできません。
目的にかなう未来の食料システムを構築するためには、「行動のためのプラットホーム」というアプローチを取る必要があります。この手法を採用することで、さまざまなセクターや地域のステークホルダーが、地域のニーズ対応した官民の協力体制を構築するとともに、グローバルなニーズに対応するために協調し、一致団結できるはずです。
この手法には、基本的に次の3つの特徴があります。
- まず、機関、プロジェクト、予備調査ではなく、「プラットホーム」に焦点を当てています。
- 第二に、重複して取り組んだり、断片的あるいはサイロ的に取り組んだりするのではなく、「取り組みを強化し、連携させること」にエネルギーを向けます。
- 第三に、最初から規模を拡大した、協力的、部門横断的な、解決指向のマインドセットが必要とされます。
世界経済フォーラムでは、「ミッション・ポシブル・プラットホーム」がその好例です。
これは、2030年までにセクター全体をネットゼロにすることを目標とした、部門横断的な気候変動リーダーのアライアンスです。このアライアンスは、炭素集約型産業の最高経営責任者(CEO)のコミュニティで構成されています。彼らは、金融機関、顧客、サプライヤー、規制当局とともに、今後10年以内にそれぞれの産業を脱炭素化するために必要な決定に合意し、それに基づいて行動します。
食料分野では、「フード・アクション・アライアンス(Food Action Alliance)」もその好例です。
「フード・アクション・アライアンス」は、官民セクター、市民社会、農業団体や消費者団体、学界からの35以上のパートナーが主導しており、国や地域が主導するさまざまなイニシアチブをグローバルに調整しています。このアプローチにより、既存のパートナーシップやイニシアチブはそれぞれの独自性を維持しつつ、プラットホーム全体の総合的な能力を活用することができます。
具体的には、「フード・アクション・アライアンス」は、国際農業開発基金(IFAD)、WFP、そしてFAOの「ハンドインハンド・イニシアチブ」が主導するイニシアチブが含まれています。またこのアライアンスには、世界経済フォーラムが促進を支援した「グローアジア(Grow Asia)」などのイニシアチブも含まれています。「グローアジア」はおよそ600のパートナー機関と協力し、200万人以上の農家を支援しています。「フード・アクション・アライアンス」は、包括的な食料システムの手法を大規模に採用している、世界各地の20以上のフラッグシップ団体とすでに連携しています。
生産から消費までの一貫したバリューチェーンを強化して、農業生態系を発展させることは、多くの場合、食料システムの変革と飛躍的な経済成長のきっかけとなります。西アフリカの米作などでは特に、フラッグシップ・イニシアチブが重要な役割を果たしています。成功の要因は、(1)農家のベストプラクティスが広範に採用されること、(2)利用できる最善の技術と科学が、手頃な価格で利用できること、(3)金融やデジタル・サービスを利用して、市場への参入を促進させることです。さらに、このようなフラッグシップ・イニシアチブは、栄養改善や気候変動対策における、包括的な成果をサポートします。大規模に発展させることは難しいものの、世界の食料システムの鍵を握る、アフリカなどの地域で、より持続可能かつ公平な成長を実現するための青写真を提供する上で、このようなフラッグシップ・イニシアチブは非常に重要です。
このような連携や協力を通じて、何億もの人々が、より機能的で公平な食料システムのイニシアチブから確実に恩恵を受けられるようになるのです。
これは仮定の数字ではありません。世界経済フォーラムでは、実際に「1億人の農家(One Hundred Million Farmers)」イニシアチブに取り組んでいます。これは、2030年までにネットゼロや、自然に良い影響をもたらす食料システムへ移行するための行動を促すものです。また、熱意をグローバルに共有するだけでなく、食料経済の中心に天候、自然、レジリエンス(強靱性)を据えるよう、農家にインセンティブを与え、消費者に力を与える地域的な解決策を支援しています。
このような規模の活動は、世界やシステムの変革を真に推進するものです。農家が生産方法を変えるなら、企業はそれをサプライチェーンの中で行動原則として推進することができます。その結果、数十億人の消費者が、興味深く、透明性があり、信頼できるさまざまなアプローチを通じて、より健康的で栄養価が高く、ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)や環境に配慮した食品を選択するようになります。
このようなプラットホームは、大規模なパートナーシップの促進装置だと捉えてください。この点で、FAOは称賛すべきパートナーです。
「食料の真の価値」とは
ここで第三の見解に導かれます。つまり、「食料の真の価値」、ステークホルダー資本主義、そして環境・社会・ガバナンス(ESG)課題のそれぞれが担う役割が、変革の原動力であると理解しなければならないということです。
これを、3つの要素に分けて考えてみましょう。
まず、このような構造的なアプローチに取り組むことで、食料の真の価値が見えてきます。
すべての人々に栄養を行き渡らせるような、より公平で強靭な食料システムを確保するために、十分な情報を得た上でよりよい意思決定を行うのであれば、食料の真のコストについて理解を深めなければなりません。
小売価格に含まれない隠れた要素を、いかに適切に評価するかを理解する必要があります。このようなコストには、人間の健康被害、生物多様性の損失、環境への影響、経済への影響などがあります。
第二に、私たちは、一人のステークホルダーの行動が、その他多くの人々の生活や現実に影響を及ぼす世界に住んでいます。
農家、生産者、展開の速い消費財を扱う多国籍企業、小売業者、消費者など、すべての人々が、私たちの共有する食料システムに利害関係を持っていますが、そのすべての人々は外部性にも直面しているのです。
より持続可能な食料システムを構築し、維持していくためには、これらの関係者全員が、ステークホルダーとしての責任を果たす必要があります。これは、短期的な経済利益の先を見据え、各自の行動がもたらす長期的な影響を考慮することを意味します。生産者と小売業者は、利益を単に生み出すだけの存在ではありません。彼らは社会の一員であり、社会に貢献しなければなりません。
すでに投資家は、気候変動への不作為を重要なマテリアルリスク(本質的なリスク)と見なし、企業にさらなる行動を求める傾向が高まっています。また、消費者や被雇用者は、自らの消費行動ですでに意思表示をしています。投資家は外部不経済による責任リスクを恐れる可能性があるため、将来的に生き抜くためには、この傾向を先取りすることが大切です。
最後に、最近まで、企業のレジリエンスや、ESG課題への対応状況を測定するための、比較可能で透明性の高いデータは存在しませんでした。しかし、最近になって、変化がありました。
昨年、世界経済フォーラムのインターナショナル・ビジネス・カウンシル(IBC)は、大手4社の会計事務所と共同で「ステークホルダー資本主義メトリクス」を発表しました。このメトリクスは、企業が年次報告書で報告すべき21のESG中核指標を特定しています。その目的は、断片化してしまったサステナビリティ報告書の現状を打破し、持続可能性に関するグローバル基準の策定に向けて勢いを高めることにあります。
気候変動は重要ですが、私たちが測定すべき環境影響はそれだけではありません。また、持続可能な価値の創造は、新鮮な水、肥沃な土地、エコシステムを守ることにもかかっています。社会が破綻していては、ビジネスは成功しません。同様に、人権問題などが社会の関心事となっていることから、ESGの3つの要素のうち「社会」が投資家にとって優先順位の高い要素となっています。
当フォーラムは、これまで行ってきたESGに関する広範な活動と歩調を合わせ、食料の真の価値を正しく測定できることが必要であると考えます。
変革を決定づけるイノベーション
第四の見解は、私たちが食料システムの変革を成功させるためには、イノベーションが変革を決定づける重要な方策となるということです。
パンデミックにより、食料システム全体を再構築する必要性が浮き彫りになりました。食料システムを保護し、回復させる行動も、よりスマートなものでなければなりません。そのためには、誰もが恩恵を受けられるようなイノベーションに大きく注力する必要があります。
イノベーションを定義する際には、地域や伝統的な知識を含め、より広く、ホリスティック(全体論的)な視点を採用することが重要です。それは、政策や制度面でのイノベーション、マルチステークホルダー・パートナーシップのイノベーション、そしてソーシャル・イノベーションや社会起業家の重要性を認識した視点です。
一方で、物理的、デジタル的、生物的な領域の、技術の融合を特徴とする第四次産業革命が、多くの分野でディスラプティブ(創造的破壊)技術を推進しています。
これは好機であると同時に脅威でもあります。好機であるのは、イノベーションにより食料システム内の悪質な問題が解決される可能性があるからです。しかし、イノベーションは本来、ポジティブな変化をもたらすものではないため、脅威でもあります。また、結果をさらに悪化させることもあります。
食料分野における第四次産業革命の成果を実現できるか否かは、私たちにかかっています。私たちは、害を及ぼすことなく、すべての人の利益となる成果をもたらすことができるのです。
しかし、これまでのところ、農業や食料システムは、このような恩恵を遅々として受けられていません。パンデミック前に私たちが行った調査では、食品分野と比較して、ヘルスケア分野では同時期に10倍のイノベーション投資が行われ、10倍のスタートアップ企業が誕生したことが明らかになりました。
私たちは12の技術に注目しました。それだけでも、水使用量の節減、温室効果ガス排出量の低減、食品廃棄物の削減により、地球全体で大きな効果が得られることを確認しました。それは、ブロックチェーン技術を応用したトレーサビリティー・システム、農家のデジタルウォレットを支えるビッグデータ、代替タンパク質、オフグリッド再生可能エネルギーのいずれの技術でも可能なのです。
また、同レポートでは、個々の技術単独では特効薬的な解決策にはならないことも強調されています。潜在的な影響力を最大化し、意図しない結果を減らすためには、特に国レベルで、活気あるイノベーション・エコシステムを構築する必要があります。
- このようなエコシステムでは、各国の政府、企業、イノベーター、金融機関、零細農家が協力し合う必要があります。
- そのためには、どの技術を最も緊急に拡大できるか、また評価すべきか、優先順位を付ける必要があります。
- また、政策やビジネスモデル・イノベーションをどのようにサポートするのが最善策なのかを、なわばり意識を越えて信頼関係を築き、他部門間の橋渡しをして定義する必要があります。
「国連食料システムサミット」の一環として、多くの国や地域が、「フード・イノベーション・ハブ(Food Innovation Hub)」の設立を通じて国家のイノベーション・エコシステムを強化する必要性を積極的に支持しています。
- 例えば、ベトナムは、アジアにおけるグリーン成長フード・イノベーションのハブになるという戦略を打ち出しました。
- アラブ首長国連邦(UAE)は、イノベーションによる食料安全保障において、世界をリードするハブになることを表明しました。
- コロンビアとインドは同様のフードハブを発表し、世界経済フォーラムの「第四次産業革命センター(C4IR)ネットワーク」と協力してこの活動を加速させています。
- また、昨年、オランダの首相が「フード・イノベーション・ハブのためのグローバル調整事務局(Global Coordinating Secretariat for Food Innovation Hubs)」の設立を支援することを発表しました。
これらの国々は主導的立場にあります。一般的なイノベーション、特にデジタル食料システムにおけるイノベーションを活用することで、将来に向けて、より強く回復力があり、より多くの情報を得られる、より公平なシステムを構築するための大きな機会が生まれることを理解しているからです。
データドリブン型の食料システムが、デジタル・コネクティビティによって強化されていることは、もちろん新しい概念ではありません。しかし、この分野での取り組みを加速させ、重要なリソースを集中させる必要性はかつてなく高まっています。
衛星・地理空間情報事業者、ICT・通信事業者、電子商取引・物流事業者、金融事業者などのデータに加え、政府、国際機関、市民社会のデータを統合することができます。これにより、農家と消費者を中心としたソリューションの設計が可能になり、食料システムの変革が加速されます。
これを実践した例が、パンデミックの中、ケニアで見られました。ケニア政府は、ケニア農業変革局(Agricultural Transformation Office of Kenya)の管理下に、省庁横断的で、部門横断的な、データドリブン型の食料安全保障対策本部を設置しました。
これにより、デジタルツールをリアルタイムで活用し、個々の農家を含む複数のソースからデータを収集することができました。その結果、新型コロナウイルス感染拡大への対応と回復、感染拡大による食料供給への影響、さらにはイナゴの大量発生や異常気象による洪水など、一連の同時多発的な脅威への対応に役立ちました。
このアプローチは、「食料システムサミット」の「イノベーション・レバー(Innovation Lever)」を通じてさらに強化され、大規模なデジタルフードシステム連合の誕生につながりました。その中で、「ワン・マップ(One Map)」という構想がクローズアップされました。これは、グローバルなデジタルマップを通じて、食料システムの変革の力を引き出すことを目的としています。
また、「デジタル・マーケットプレイス・プレイブック(Digital Marketplace Playbook)」というイニシアチブも登場しました。この包括的で持続可能な枠組みにより、生産者から消費者までのすべての関係者が、健康で栄養価の高い食品を扱うための、より効率的で気候変動に対応した市場を構築できます。
このデジタルマーケットプレイスは、米国非政府組織のメルシー・コープスによるプラットフォーム「AgriFin」のような強力なサービス事例に基づいて構築されており、現在、ケニア、エチオピア、ナイジェリアの800万人の零細農家にサービスを提供しています。これは、データを活用して農家のニーズをよりよく理解し、信頼できるデジタルチャネルを通じた市場への提供を大規模に強化する等、さまざまな取り組みを連携させることで実現しています。
同様のイニシアチブには、世界経済フォーラムが支援する「エジソン・アライアンス」や「2030ビジョン(2030Vision)」などのプログラムがあります。これらはいずれも、ICTやその他の重要なセクターを活用して、持続可能な開発目標を達成するための基盤として、デジタル・インクルージョンとデジタル技術の利用を優先する世界的なムーブメントを生み出すことを目的としています。
また、FAOの「デジタル・ビレッジ・イニシアチブ(Digital Villages Initiative)」のようなプログラムと連携して、テクノロジーへのスマートなアクセスと利用により、世界中の何千もの村の繁栄を促進させることができるようになります。
「1億人の農家」プラットホームでも、革新的なソリューションを推進しています。衛星やデジタル技術を活用して、何千万人もの農家を巻き込み、ネットゼロや(自然に良い影響をもたらす)ネイチャー・ポジティブな農法を採用した農家への、新たな報酬や支払いの仕組みを共同で作り上げることができます。これにより、土壌再生型農業という全く新しい資産クラスを創出することができます。
しかし、すべての革新的な解決策と同様に、設計の中心には人間を置くことが重要です。また、人間を中心としたイノベーションへのアプローチは、強固なイノベーション・エコシステムの構築によって、支えられることが極めて重要です。そして、このようなイノベーションは、スマートな政策、投資、能力開発によって発展し、大規模な集団行動を可能にする、創造的なプラットホームの構築によって強化されます。
結論として、現在の世界秩序や、各国政府や世界経済フォーラムなどの国際機関が直面しているリスクについて疑問が山積している今、地球や食料システムに対する、グローバル・スチュワードシップの新たな活用例が世界には必要とされていると、私たちは確信しています。私たちの集団的、共同的な繁栄は、地球や食料システムに大きく依存しているからです。
私たちは将来、未曾有のリスクに直面することになりますが、そのうちの多くは今日すでに破壊的な事態を引き起こしています。その対処のためには、グローバルな官民連携が必要です。私たちは、第四次産業革命のイノベーションを受け入れ、使いこなす必要があります。そして、すべての活動にステークホルダー・アプローチを取り入れなければなりません
世界経済フォーラムを代表して、食料システムの変革を支援するための包括的な成長と変革の手段の構築に向けて、支援と協力を惜しまないことをここに表明し、スピーチを締めくくりたく思います。
企業、市民社会、国際社会の友人やパートナーとともに、食料システムに関するアクション・アジェンダに取り組むことができて光栄です。
私たちは、行動のためのそれぞれのプラットホームを、全体で関与するための出発点として活用します。また、私たちは、FAO の皆様や仲間とともに、「国連食料システムサミット」で得られた成果を引き出し、持続可能な開発目標の達成に向けて共同で取り組んでいくことを光栄に存じています。
あらためて、この大切な対話の場で話す機会をいただけましたことに感謝を申し上げます。
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