国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は13日、成果文書「グラスゴー気候協定」を採択し、閉幕した。同文書では、「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求する」との目標が設定された一方で、「石炭火力発電の段階的廃止」という文言が盛り込まれる予定が、採択直前に「段階的削減」に修正されるなど、各国の利害が一致せず足並みがそろわなかった面も目立った。

アロク・シャーマCOP26議長が「この終わり方について謝る」と、声を詰まらせ涙ぐんだ場面は印象的だった。改めて、気候変動問題について考えさせられると同時に、政府のみならず、企業、個人が強い危機感をもって、それぞれの取り得る対策を行動に移す必要があると感じる。

インフレ加速

気候変動対策が経済・金融市場に及ぼす影響も徐々に明らかになってきた。「グリーンフレーション(Greenflation)」だ。これは、気候変動対策「グリーン」と「インフレーション」を合わせた造語だが、このところ金融市場でしばしば取り上げられるようになった。温室効果ガス削減への取り組みによって、石炭や石油などの化石燃料への設備投資が抑制されており、供給が逼迫するなか価格に上昇圧力がかかっている。また、これらに比べて相対的に温室効果ガスの排出量が少ない天然ガスへの需要が特に欧州を中心に急増し、価格が急騰した。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへのシフトには時間がかかるうえ、これらは化石燃料に比べてコストが高い。また、天候に左右されやすく発電にばらつきがあるという問題も指摘されている。結果、この1年で原油価格はほぼ倍となり、天然ガスも、足元反落しているものの約75%上昇。これらが資源価格全般の上昇につながり、世界各国でインフレの火種となっている。

折しも、新型コロナによるサプライチェーンの混乱が供給懸念をもたらしているうえ、最近では経済活動の再開に伴う需要増が重なって、物価の上昇に一段と拍車がかかっている。将来、クリーンエネルギーへの転換が進めば、こうした化石燃料の価格変動が消費者物価に及ぼす影響は低下していくはずだが、移行期間においては、グリーン戦略がむしろ化石燃料の価格を大きく押し上げ、インフレを一段と加速させるリスクが高まっているのだ。

政治問題化

実際、10月の米消費者物価指数(CPI)は、前年比6.2%上昇と、31年ぶりの伸びとなった。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアも同4.6%と、伸び率は市場予想の同4.3%を大きく上回った。今回は幅広い品目で価格の上昇がみられたが、特にエネルギーと住居費、食品、自動車の値上がりが影響した。

これを受けて、バイデン大統領は11月10日、「インフレ傾向の改善が私の最優先課題だ」と発言。調査会社ユーガブ・アメリカ(YouGov America)が11月6日〜9日に1,500人を対象に行った世論調査をみれば、この発言にもうなずける。

同調査では、「現在米国が直面する最大の問題は何か。雇用かインフレか」との問いに対し、「雇用:11%、インフレ:36%、いずれも重要:43%、わからない:9%」の結果となり、米国民にとっては、雇用問題よりもインフレ懸念のほうが大きくなっていることが分かる。さらに、「この1年で実感として価格が上昇したものは?」との問いに対しては、ガス、食料品、家賃(住居費)など、生活費の主な項目がいずれも「大きく上昇した」との回答になった。同じくYouGovでのバイデン大統領の支持率をみると、11月6日時点で支持が42%、不支持が48%と不支持率が上回っているが、内訳をみると、中でも「強く不支持(Strongly Disapprove)」が37%まで上昇しているのは気がかりだ。

タカ派シフト

物価の急上昇に対する国民の不満が反映されているとすれば、バイデン大統領は「インフレ退治」に舵を切らざるを得ないだろう。米連邦準備理事会(FRB)はあくまで供給懸念によるインフレは「一時的」とのスタンスだが、グリーンフレーションの影響もあり、インフレがこれまでの想定以上に上昇する、あるいは長引く可能性も指摘され始めた。足元のCPI急騰や、バイデン大統領の発言を受けて、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で公表されるドット・チャート(政策金利見通し)は、予想以上にタカ派にシフトしている可能性がある。これまでのパウエル議長の発言がハト派寄りであるだけに、発表直後は思わぬ市場の混乱を来す可能性があるため要注意だ。

例外の日本

米国に限らず、他の先進国でもインフレは軒並み加速している。ただ、これらと一線を画しているのが日本だ。9月のCPIは総合でも前年比0.2%、生鮮食品を除いたコアで同0.1%の上昇にとどまっている。緩和からの出口に向かう各国と日本との金融政策スタンスの格差が意識されるなか、円安地合いは今後も当面続くだろう。10月中旬、ドル円が114円台に乗せるとともに、原油価格が1バレル=80ドルを超え始めると、コストプッシュ型のインフレにつながるとの警戒感から、これ以上の円安を危ぶむ声が市場参加者の間で散見された。

当社試算によれば1バレル=85ドル、1ドル=115円が継続しても、来年ようやく日本の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は1%程度になる見込みだ。原油が1バレル=100ドル、ドル円120円になって初めて、CPIが2%に到達するが、それでもあくまで一時的との予想になり、日銀が出口戦略を検討するような状況にはなりそうにない。しかし、インフレ目標の2%に達していないとはいえ、賃金が上昇しない中での物価上昇は景気を圧迫するうえ、国民の不満にもつながるため政治の安定という観点からもマイナスだ。

急激な円安にどう対応

黒田日銀総裁は、10月28日の定例記者会見で、「現時点で若干の円安だが、これが『悪い円安』とか日本経済にとってマイナスになるということはない」と述べ、「いまの円安水準が日本経済に総合的にプラスであることは確実だ」との見解を示した。

筆者も基本的には「穏やかな円安」であれば日本経済にとってプラスとの見方には賛成だが、同時に原油価格が急騰するとなれば話は別だ。「グリーンフレーション」という構造変化を踏まえれば、一気にドル円が120円を超えるなど、仮に円安が止まらなくなった場合の経済へのマイナスの影響は大きいのではないか。

米国では名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利が引き続き大幅なマイナス圏にあり、米国の出口戦略を踏まえても、日米の実質金利差の拡大(マイナス幅の縮小)は今後もゆっくりとしか進まないだろう。したがって、ドル円の上昇も緩やかとみており、筆者は来年3月末の予想値を115円前後に置いている。ただ、1ドル=120円を一気に超えるなど、好ましくない形での急激な円安になった場合に政府・日銀はどう対応するのか、今のうちから対策は検討しておく必要があるのではないか。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。